呪い師3話 連続発光
生活支援施設に通う日々は続いていた。
生まれによる貧困はまだいい。生きることに必死で意地汚くはあれど劣悪ということはないから。けど、自業自得の結果なった者たちは違った。
正直言うと彼らはクズだ! 中には後悔し過去に縋るだけの無害な者もいるが大半はどうしようもない者ばかりだった。性根が腐っていやがる!
とりわけボクが見た中でも一番ヒドイのは、――孤児院の子供たちから食料を巻き上げていた連中だ。もうどうしようもないね。そんな連中が平然とボクの『占い』を受けようと並んでるんだからね、しかも悲痛な表情までして。
ボクは彼らの番が来るのを待ち、隣に控える<神殿兵>さんにお願いして捕まえて貰った。その後、彼らがどうなったかはボクは知らない。興味もないし。
うーん、それにしてもねぇ……。
連日の『占い』で、何度か見かけた顔がちらほらと。しかも心なしか血色が良くなってる人も……。
つまりこれは、あれか? リピーターってやつだよな。何かしら良いことがあったからもう一度ってやつだろ? なのにどうしてボクに礼の一言もないんだ! ボクを利用するだけ利用して感謝は捧げないってやつ? 冗談じゃない! 損して得取れとは聞くけど、どう見ても恩を返そうとしていない連中ばかりしかいない!
やはり損はするだけバカなんだ……。
「パルミさん……」
ボクは憤慨を覚え、しかし隠しつつ、二人いる<神殿兵>の女性の方に告げる。
「本日でこちらでの奉仕は終わりにしようかと……」
「そうですか……。確かに長く続けていただきましたし、ね。少々残念ですが、了承しました」
「わかった。本部にそう言っておく。これまでご苦労だったな」
パルミさんは少し寂しそうだ。表情を歪めていることからも言葉じゃないのがわかる。少し嬉しいぞ、パルミさん!
一方、もう一人の<神殿兵>は事務的だ。男性で、名をヴェルツといって高圧的な態度を取るのであまり好きじゃない。
むろん、ヴェルツさんが美女であったならばクールと印象を変えていただろう。男女差別上等だ!
「明日からは孤児院の方へと赴こうかと……」
そう! ボクは大人に見切りをつけて、素直な子供たちを虜にしようと――おっと、違った。素直な子供たちならではの「ありがとう」を期待しているのだ。きっと無邪気な表情でボクに感謝してくれることだろう。ぐへへへっ。
ボクがそう告げると、パルミさんはパアッと明るい笑みを見せる。
「でしたら、明日も私が付き添いますよ。構いませんよね? ヴェルツさん」
「ああ、問題無い。オレはガキが嫌いだからな。そうしてくれると有り難い」
あれ? 硬派を気取ってるのか? いや、ツンデレか? ボクの耳には「こっちは任せろ! 一人で十分さ」と言ってるように聞こえる。
ハッ!? その時にボクは気付いてしまった。高圧的な態度は照れ隠し――だと。
ボクは生暖かい目で彼を見て「今日までありがとう」と素直に言えたのだった。
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「ねえ、君たち」
「なぁに? お姉ちゃん」
「いいことして貰ったときは……どうするんだっけ?」
「ん~~~~とね、あっ、そうか! お姉ちゃん、ありがとう!」
数人いる中のおしゃまな女の子がそう言った刹那、ボクの身体がパァッと光り出す! ふっ、計算通り。
わずか2日。大体半月近く掛けた生活支援施設に比べ、たったそれだけで<呪い師>の転職条件を満たした。
パルミさんが席を外して見ていない僅かな隙に、ボクは子供たちにお礼の言葉を言わせるべく誘導し、そして成功! 狙い通りに素直な(というか疑う事を知らない)子供たちはボクの望む言葉をくれた。チョロい、チョロすぎるぞ!
ボクは発光現象を誤魔化すために次なる手を打つ。
「みんな、目を瞑ってごらん」
ボクはそう言って目をつむった子供たちから純に、一人一人頭を撫でて行きお菓子を手渡していく。これで忘れてくれよと願いながら。
ちなみに、ここでのボクは素顔のままだ。子供たちにはまだ性欲はないからね。無いものをいくら増幅したところでゼロはゼロ。ボクも安心して彼らと接する事が出来る。
その時一人の坊やがボクの胸に飛び込んでくる。
「まぁ~ま」
どうやらボクを母親だと感じ取ってしまったらしい。
それにしても男の心を持つボクに母性を感じるとかどんだけだよ、おい。転職条件を満たすために優しくしてしまった事が徒となったか? ボクはこの子たちと共に居られる――というか、いるつもりはないので、いずれ……つーか今日で別れるつもりなんだ。なので、その感情はノーセンキューさ。
ボクは優しく、けれど力強く坊やを引き離す。
「違うよ、ボクはキミのママじゃない。ボクはた・に・ん。今日でお別れなのだから、ボクに依存しちゃダメだ。強く生きるんだよ、いい?」
3歳児くらいの子供になんたる言いぐさ。せめて『お姉さんだよ』と言うべきだったであろうか。いいや、ここは厳しくしないといけない。つけ上がるだけだしな。
孤児である彼らは強く生きなければならないのだ。なので必要以上の甘やかしは毒でこそあれ、薬にはなりはしない。
むろん、彼らを引き取ればその限りじゃないけど、ボクにそのつもりはない。強く生きろよ、少年!
それからボクは泣きべそをかきそうになった子をあやすために歌を唄う。
「る~る~るる~るぅ~らららら~~るら~」
歌詞はいらなかった。子供たちには言葉の深い意味が分からないのだから。
ボクが紡ぐのは、自身が心地よいと思う旋律。心に刻まれたアニソンを口ずさむだけだった。ま、アニソンに深い意味などないけどな! ぶっちゃけ全部覚えていないだけだ!
柔らかな声は耳に優しく、一番、二番と繰り返して行く内に、ひとり、ふたりと子供たちは船を漕ぎ始めて行く。とても安らいだ、そんな笑顔で寝入ってしまっている。
やがて全員が眠りに着く頃にボクの身体が再び光り出した!
「――えっ」
職業を極めた光だ。
先程<呪い師>は手に入れたというのに、これは一体どういう事だ。
そんなことを思っているとき、パルミさんが帰ってきた。そしてボクに告げた。
「聞いたこと無いけどいい旋律でしたね。あ、<歌人>の職業極めたんですか? おめでとうございます」
「歌人?」
「あれ? 違いましたか?」
ボクが聞き返すと、パルミさんはキョトンとした顔を浮かべる。
「……ああ、そういえば<呪い師>でしたね。となると、子供たちに子守唄を歌うことで職業を手に入れる共に条件を満たして転職、そしてそのまま極めてしまった……とかでしょうか」
「へ~。そうなんですか」
何だか知らないけど、やはり職業を一つ極めてしまったようだ。
<学徒>のときもそうだったけど、転職して即時に習得条件を満たすって何か違和感がある。けど、困るということもないし、別に良いかな。
「さて、そろそろお暇しましょうか」
ボクは寝入ってしまった幼児たちを布団に寝かせた後、パルミさんにそう告げる。
「そう、ですか……。名残惜しいですが、ミヅキさんも生活がありますものね」
「機会があればいずれ会えますよ」
別れを惜しむパルミさんにボクはそう告げる。
こうして、ボクの奉仕活動の日々は終えた。
返す足で『神殿』に向かい、到着と共にパルミさんと別れたが終始名残惜しそうにしていた。ベッドにでも誘えば良かったかな……?
それはそうとして、いまは転職が先だ。
祭司さんにお金を渡して神秘石に表示して貰った<転職リスト>には、<魔法使い>と<アイドル>が新しく刻まれていた。やはりパルミさんの言ったように、あのとき習得したのは<歌人>であったらしい。
<魔法使い>は想定通りだとして<アイドル>は、おそらく<歌人>による物だろう。
ボクは<魔法使い>を選ぶ。すると転職の発光と共に、条件を満たしたという現象まで起きてしまう。まさに前回の繰り返し、<学徒>と同じ様に。
唖然とする祭司さんにボクはお金を差し出し新たな<転職リスト>を用意して貰うと、そこには<魔術師>および<風魔法師>などの精霊魔法を使う職業が網羅されていた。
そして、複合派生職の中に<魔法戦士>の名が刻まれていた。
「何、この中二心溢れる職業は……」
転生一五一日目
ミヅキ「孤児院の子供たちは基本職<遊び人>だけは無料で転職して貰ってるらしいね」
カリス「ふっ、生活の面倒を見る上でその方が安上がりだからね。何もサービスでしてるって訳じゃないよ」
レティ「さすがお姉さまですわ、よくご存じで。わたくし、知りませんでしたわ」
カリス「いや、それを知らないレティの方が問題だと思うな、私は。<聖女>になるつもりなら、このくらいは知っておかないと不味いような気がするんだが」
ミヅキ「まあまあ、性女ってのは可愛ければ十分なんだよ。ボクが思うにレティは大丈夫だよ」
レティ「はいっ! ミヅキさま」
カリス「なんか、字が違ったような……」
<呪い師>(特殊職)
条件:なんでもいいから占いをする。
技能:【闇を愛するもの】【魔力向上】
限定:『占い』
習得:占いが当たって誰かに感謝される。
備考:気休めも思い込めば事実と変わる。
『占い』
効果:それっぽい雰囲気で演出出来る。
備考:言葉巧みに誘導して行動を強制させよう。
【闇を愛するもの】
効果:魔法適正の取得。
備考:形から入ったら、あら不思議……。
【魔力向上】
効果:魔力が向上するようになる。
備考:魔力は魔法の源。
<歌人>(特殊職)
条件:10人以上に歌を聴かせる。
技能:【音感】【美声】
限定:『息継ぎ』
習得:オリジナルの歌を作り出す。
備考:ボーカルはバンドの顔なんだよ!
『呼吸法』
説明:話ながら息を吸える。
備考:息継ぎ? そんなの10年前に卒業したぜ。
【音感】
説明:音階を理解し、聞き分けられるようになる。
備考:絶対音感? オマエ、音楽を舐めてるのか?
【美声】
説明:音の高低においても地声で出せるようになる。
備考:プロデューサ! 音楽性の違いを感じたのでソロ活動に移りたいんです! (足手まといとかいらねぇよ!)
ミヅキ「あー。(あれって既存の曲なんだけどな……)」
レティ「どうしましたか、ミヅキさま?」
ミヅキ「いや、【美声】と【音感】を試してただけだよ」




