呪い師2話 時に、個人情報も知ってしまいます
昨日間違えて投稿してしまった回です。
『占い<天女の館>は大好評を持ちまして閉鎖させていただきます』
そう書かれた立て看板を配置して、ボクは手相占いもとい、握手会も同然となった営業を辞めることにした。というより、他の店からの苦情が殺到し、警邏の<衛兵>が出張る始末。連日長蛇の列を作り出すボクは明らかに営業妨害を行っていたそうな。ボクとしても収拾がつかなくなった現状を顧みると渡りに船だった。
さて、どうしたものか……。
<魔法使い>となるためにもここで諦めるという選択肢はない。
レティも先日一人の<信徒>を生みだし順調に<神官>の道を究めつつある。あと一人だそうだ。彼女の頑張りを見ると、ボクもやらなくちゃ! という気にさせられる。
で、ボクは考えた訳さ。どうすれば二の舞を演じないで済むかって。
そうしたらボクはしょっ引かれた。どうしてこうなった……!
「何が悪いって言うんですかっ!? ボクはただ、前回の失敗を顧みて、顔を出さない様にしていただけなんですよ!」
「あー、はいはい。いや、別に悪いって事じゃないんだ。けどよ、あんなところでそんな恰好されちゃ薄気味悪いって通報があったんだよ」
商業区にある派出所。そこにボクはいた。
対面しているのはここに勤務する<衛兵>のジョージさん。路地裏でひっそりと営業していたボクの前に現れ、いきなり『職質』を掛けた上にここへ連れ込んだ。いまは調書を作っている最中だ。
「そんな恰好って……。こういう怪しい方が占い師って感じがするでしょ? マスクだって、良い味出しているってボクは思うんだけどな」
前回の営業で使っていたローブにフードを追加して、それに道化マスクを被っていただけの善良な市民を捉まえて、なんたる言いぐさ! ボクは批難を視線に込める。――おっと、マスクを付けたままだった。
ボクはマスクを外す。
「いや、怪しいっていうか……子供が見たら怖い……。――ッ!?」
ペンで頭を掻きながら呆れた表情をしていたジョージさんはボクの素顔を見るなり絶句する。
「ほら、この通り。以前これで行列を作ってしまってね。職業の習得条件が満たせなくて。仕方ないと思わないかな?」
以前ボクのテントに苦情を持ってきた人は違う人だったなぁ、と思いつつ、早く解放されたいボクは懇切丁寧に事情を説明した。
空が夕焼けに染まる頃、漸くにしてボクは解放される。
「でも、収穫もあったかな」
ボクの美貌に翻弄されていたジョージさんはある程度すると落ち着いて、今後こう為らないようにと色々アドバイスをしてくれたんだよね。
場所、恰好、設定料金。そのどれもが目から鱗が出る想いだった。しかし無料でするならば、実に良い場所がこの王都には存在していた。
「今日はもう、暗くなって来ちゃったし……明日からかな?」
空を見ながら呟いた声は、夕闇の街へと消えていった。
――翌日。
王都<エコノミックワーカー>にある聖エルトリア教団が運営する孤児院および生活支援施設区画にボクはやって来ていた。
ジョージさんが言うにはこうだ。
「本当に困ってる人なんて、金なんか持っちゃいない奴のことさ……。だから王都で、しかも商業区にいる連中を相手にしても感謝を期待するなんて到底無理な話さ」
うん、その通りだ。ドイツもコイツも欲にまみれたツラをしていた。感謝することなどせず、自分の運を喜ぶような奴等ばかりに見えた。
「なら困った連中を捜すしかないんだが――。それには貧民街が一番だ。けどミヅキさんのようなお嬢さんには勧められない。と、なるなら――」
そうしてこの場所を勧められたという訳だ。
ちなみに生活支援施設とは――。<奴隷>受け入れ先の斡旋、日雇い労働の募集、過疎化した村への移住および新規の村を興す開拓民の募集などなど。そして週1度だけ炊き出しを行う場所である。
それを聞いたときボクは、マグロ漁船や鉱山夫は? なんて思ったのだが、そういうのは職業を得てから出直してくれって話だった。金もなくて転職出来ないのにホント無茶をいうもんだ。
【ポケット】があるのも世知辛い理由の一つらしい。まあ、あれがあると人足などそんなにいらないもんな。必要だとしても<奴隷>に任せるから改めて必要とする人員はいらないそうな。
長期労働に至っては自分で探せってことらしい。
さて、現実を見据えよう。
ボクは現在、生きる希望を見出せず虚ろな表情をした人たちと相対していた。
しかしながら、スキルを使って即解決! 即転職! という事もいかない。そもそも結果が判明するのが先のこと。それに『占い』は聞かれたことに答えるスキルじゃない。相手が欲しい結果が出るのは稀だ。
たとえばこうだ。
『西へ行けばいいことが起きる』と占いが出て、行ってみた結果『エッチな風が吹いて女の子のパンツを見る事が出来た。でも睨まれてビンタされる』なんてこともあり得る。
この場合の『いいこと』とは人によって様々だ。
年頃の男の子ならば『パンツを見た』かもしれない。けど、ぶたれた事で帳消しとなり感謝は捧げてくれない。しかし、蔑まれることやビンタされることに快感を覚える、気持ち悪い人ならば感謝してくれるかもしれない。
前者はともかくとして、後者の様な特殊性癖の持ち主は早々いないだろう。なので、長期戦で望む覚悟も必要かもしれない。
現にいま出た物は『明日は外には出ない方が良い』だ。
もうね……、なんというか災厄回避系とか――。遭遇を避けて気付かない事にどうやって感謝を捧げろって話よ! あとで気付いても「へ~、そんなことがあったんだぁ」で終わっちゃうよ!? 逆に『占い』を無視して行動、そして遭遇したら「お前の所為だ!」って言われるのが目に見えている。
「明後日まで生きられたら事態が好転する……と出ております」
ボクは小心者なので、それを告げる事は出来なかった。明日を強く生き抜いてください!
「それじゃ次の方……」
ちなみにいまのボクは、顔の上半分を隠すために無地の仮面を被っている。けどボクの顎のラインと口元から美人のオーラが漂っちゃうみたいなんだよね。で、時に鼻の下を伸ばし、ボクの匂いを嗅ごうとクンクンする(気持ち悪い)人も当然出てくる訳で。
ボクはそういった人たちには毅然とした態度で「本日はその様に興奮する気力すらない方に限定してますので」と言ってやったのさ!
中にはそれに理不尽を感じて乱暴を働こうとする人たちもいる。でもそんな人たちは、ここに控える<信徒>上がりの<神殿兵>に取り押さえられて、とある所に連れて行かれる。
聞くと、そこで<奴隷>コースを勧められるそうだが――。
まあ、ボクには関係のないことだ。身売りすれば生活の保障はされるのだから、それもいいんじゃないかな?
そんなことを考えつつ『占い』をしていると、目の前にやつれきった、子連れのお母さんという体の女性がやって来た。
「ここで、『占い』をして頂けると聞きました」
「ええ、本日はここでご奉仕させて頂いております。いまのボクがあるのは神のおかげですから、その恩返しも兼ねて」
建前を述べると、ボクの脇に控える<神殿兵>たちが『神に感謝を』と声を合わせてくるのでちょっと怖かったりする。信者、マジこえぇぇぇっ!
あ、ちなみに<信徒>歴が長いと『盲信』に汚染されて元には戻らないらしい。
ボクは即<運び屋>に戻ったから影響はなかったけど……。
「それではお願いできますか? 生きているのも辛くて、何でもいいから指針が欲しいのです」
重い……。ここは<神殿兵>がいるから安心だけど、こういう相手ばかりだから気が滅入ってしまう。習得条件を満たしたら二度とこんなところ来るもんか!
そんなことを考えてるとは微塵も感じさない作り笑顔を浮かべ続ける。
女性の殊勝な態度に対しボクは頷き、『占い』を使用する。
脳裏に浮かぶ言葉は『今夜、子供の本当の父親が現れる』だった。
え、なにこれ、マジですか……。
ボクは子供を見つめる。
貧乏なので血色は悪いけど、素直で良さそうな子じゃないか。こんな子が不義で出来た子供なんて……。知りたくなかった!
さすがに子供に聞こえる様に言う訳にもいかない。ボクは女性に手招きをして、耳を寄せて貰ってから結果を伝える。
「ほ、本当ですかっ!?」
喜色満面。先程の不幸面がまるで嘘だったかの様にはしゃぎ出す。
「ミーシャ、聞いて頂戴! あなたの本当のパパが現れるんですって!」
ちょ、オマエ、何言っちゃってるのぉっ! せっかく気を遣ってやったっていうのに……!
ボクは心の中で、目の前のゲスい女性をフルブッコにする。
「え? パパはパパだよ?」
「うちにいるパパはダメなパパで、本当のパパは素敵なパパなのよ」
なんちゅー事を優しそうな顔で子供に教えてんの、アンタ! 駄目だコイツ、早く何とかしないと。子供までゲスになっちゃうぅぅぅ!
それを聞きとがめた<神殿兵>が批難の言葉を贈る。ナイスだ信者! しかし女性はキレ気味に訴えた。
「つい先日、生活費を持ち出した挙げ句、<美人局>に騙された夫なんて駄目なパパで十分です! むしろ<奴隷>として売っぱらうのを我慢している私を褒めてくださいっ!」
子供の前でパパさん売るとか……もう、ね。教育って言葉をよく考え直した方がいいよ、ホントに。
そもそもハニートラップに引っ掛かった旦那さん、それほど悪くないと思うんだよね。いや、これ、元<美人局>の言い訳じゃないよ?
ボクは言ってやりたい、「アンタの不倫が原因じゃないの?」って。男って繊細だし、『もしかしたら自分の子供じゃないのかも』なんて考えた結果かもしれないし。
しかし<美人局>か……。
つい最近のはずだけど、懐かしく感じるなぁ。ボクは富裕層からしか巻き上げなかったけど、人を選ばないとこうなっちゃうよね。この女性とは関係ないはずなんだけど、ちょっと胸が痛くなっちゃった。
そこまで考えた上でボクは告げる。
「次の方を呼んでください」
お帰りはあちらですよ~ってね。
この様な独善的な人格の持ち主じゃお礼に来そうもないし、相手にしているだけ時間の無駄だった。名目上はどうあれ、ボクは慈善事業をやってる訳じゃないんだから。
そして後日、小綺麗な服を着たその女性と血色の良くなった子供が、イケイケ風のあんちゃんと幸せそうに歩くところを見かける。
だからどうしたって感じだけど、それを見てボクはなんとなく想像出来てしまった。捨てられた旦那――いや、元旦那さんはきっと真面目な人だったと。
さらに酷い話を聞く。顔馴染みとなった<神殿兵>のパルミさんに、その元旦那さんが借金の返済のために自身を<奴隷>として身売りしたと告げられる。
ボクは人知れず、その元旦那さんを想い涙した。
転生一四三日目
ミヅキ「ちなみに<信徒>を生み出す<神官>は、全員が信者って訳でもないらしいね」
レティ「ええ、そうですわね。わたくしも特に入信はしていません」
ミヅキ「え? <聖女>目指しててそれって良いの?」
レティ「もちろんですわ、ミヅキさま。<法王>は極めつつも<司教>の座にいる方から選ばれますが、<聖女>は条件を満たしてた<遊び人>が就いたという話もありますのよ? もちろんその方はそれで教団から破門されていたのですけど……」
ミヅキ「所詮、職業の中の一つってことなのかな」
レティ「そうなります。信仰なくして教団に入っている方も多くおりますので。ああ、そういえば祭司を勤める方も信者って訳ではありませんよ?」
ミヅキ「え? 『おお、神よ!』とかいってるのに?」
レティ「あれは『神殿』の機能を使うためのキーワードみたいなものですから」
ミヅキ「…………」
レティ「あ、それと――。<信徒>も信者じゃなくても問題ありません。以前ミヅキさまにもなって頂いたので、分かりますよね?」
ミヅキ「あ、うん、そうだったかな」
レティ「ですが、大概は納得して『勧誘』を受け入れて貰う形になるので、信者となってから<信徒>となるんですよ」
ミヅキ「へー、友人を信者に仕立てる内に良心が苛まれて、一緒に入信するのかと思ってたよ」
レティ「そういえば、そんな話も聞いたことがありますね」
※付録※
<奴隷>(特殊職)
条件:自分を売り払う。
技能:【奉仕】【空腹軽減】
限定:『服従』『解放』
習得:『解放』の条件を満たす。
備考:貧乏が……貧乏が……いけないんだ。
『服従』
効果:主の命令に逆らえない。
備考:奴隷の虐待は犯罪ですよ。よかったですね。
『解放』
効果:自分を売った金額の2割増し分働くことで職業<解放奴隷>になる
備考:奴隷だって労働力。労働には給料が発生する。低給および、生活費も引かれるけどね。
【奉仕】
効果:他者のためにする行動にプラス補正。
備考:喜んで貰えるって嬉しいな……。
【空腹軽減】
効果:少ない食料で腹を満たす。
備考:よく噛めば、満腹中枢が刺激されます。




