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呪い師1話 手相占い、始めました





 <戦士>の習得条件は『一つの武器をある程度使えるようになる』というもの。と、ぶっちゃけ漠然とし過ぎたものだった。

 習得条件を満たすと身体が光るのだが――。ボクは今回、結構掛かるのではないかと思っていた。同じ共通1次職の<運び屋>も40日以上掛かっただけに、最低でもボクはそのくらい掛かると見ていたんだ。でもね……。予想はあくまでも予想でしかないってことらしいよ?


「おぅ、おめでとう。<戦士>はきわめたようだな」


 ボクの身体は光り輝き、ソリュンさんからの祝福の言葉を頂く。

 現在、転職5日目。打ち込みの最中だった。

 ボクは打ち込むのを止め、ひとまず光が落ち着くのを待つ。


「それで、この後は<剣士>になるのか?」


「いえ、まずは共通1次職を抑えておこうかと」


 それもいいかと一時いっときは考えたけれど、何せ日々高まる魔力! 世界はボクに魔法使いに成れと言っているっ!

 ソリュンさんが心なし肩を下げ残念そうな顔でボクに言う。


「……まあ、それがいいのは確かだけどな。武の道は続けてやるのが一番だぞ?」


 1日サボったら取り戻すのに3日掛かるという話を前世で聞いたことがある。けど、この世界はスキルで管理されているので、一度身につけた物は劣化しない。いや、転職することで少し弱くなるみたいだけど。


「もう決めましたんで――。今日までありがとうございました」


 ボクはソリュンさんに感謝を述べ、その場を立ち去った。

 そのとき彼が寂しそうな表情を浮かべたことは言わぬが花。つーか、いかつい顔でその表情、怖すぎ!


 返す足で『神殿』に向かうと、そこには職務に励むレティの姿があった。

 <神官>の習得条件は××を×人作りだす必要があるという。それをするために彼女は日々暇があれば、教団の説法を説いていたりする。

 一度協力してと乞われ彼女の『勧誘』を受け入れた事がある。で、<信徒>になったのだけど――。

 ペナルティとしか思えない限定スキルとボクにはその習得条件を満たすことは不可能なので、早急に諦めて<運び屋>に戻ることにした。

 もしかしたらこれが<運び屋>の期間が長かった理由なのかもしれない。一度止めた職業ジョブだと達成条件が厳しくなるらしいし……。


 ボクはレティの頑張りを尻目に、祭司の役割を担っている人物の元へと足を向ける。


「おお、迷える子羊たちよ……。本日はいかなる用でここへ?」


 対人マニュアルの台詞せりふがボクの耳に届く。たまには面白いことを言って欲しいところ。

 ボクは銀貨1枚に銅貨10枚を取り出して用件を告げる。


「転職リストと転職をお願いします」


「はい、かしこまりました」


 笑顔と共にお布施を受け取る祭司さん。う~ん、欲にまみれた人物に見えてしまう。

 祭司さんが像に願い奉ると神秘石ミスティックに文字が映し出される。


 転職リスト

 現職:<戦士>(習得済み)

 習得済み:<遊び人><運び屋><美人局ハニートラッパー>

 共通1次職:<解体屋><学徒>

 共通2次職:<剣士><槍士><斧士><弓士><盾士><軽戦士><騎士>

       <宅配><御者><航海士>

 特殊職:<呪い師>

 再転職:<信徒>


 転職リストも<職歴>と同じ様に、触れることで転職出来る職業ジョブのスキルが確認できる。

 <解体屋>はスキル【解体】を手に入れるための職業ジョブ。これと<戦士><運び屋>を取得することで<冒険者>の道が開かれるらしい。これはカリスさんに聞いた。

 <学徒>は【言語習熟】というあらゆる言語を学ぶことが出来るようになるそうな。これがないと、母国語以外は覚える事が出来ないという。言うなれば、赤ちゃんがネイティブに覚えるようなものだろうか。母国語に翻訳して、それから覚える手段とは違うらしい。そもそもそういった覚え方はないそうな。

 こんな才能スキルが手に入るならそれも納得できるというもの。いや、やろうと思えば前世でも可能だったかも?


 目指す<魔法使い>は<学徒>から派生する職業ジョブであるらしい。なのでボクは祭司にそう告げ、光を受け入れた!

 光が落ち着き、『神殿』を後にしようと後ろを振り向いたその刹那――、

 パアァッ。

 突如ボクの身体が光り出す。


「こ、これって職業ジョブを極めた光じゃ……」


 とっさに振り向き祭司さんを確認する。

 彼も口を開けて驚いている! やっぱ普通じゃない現象なんだな。


 ボクは再び銅貨を10枚取り出して転職可能リストを表示してもらう。

 見ると現職のところに<学徒>(習得済み)と出ていた。共通2次職も増えている! それに加えて複合1次職までも……!

 ホント、どうなってるんだろうか。条件によると『2カ国の読み書きを修める』ってあるんだけど、知らずして覚えていたとか?


 その時思い出す、あのアンケートを。

 ――確かあのとき、『言葉に苦労したくない』にチェックを入れたよね……。もしかしてそれが原因? 何はともあれ、楽になったのは確かかな。

 ボクは転職リストを読み返す。しかし――。

 そこに<魔法使い>という文字が表示されていなかった。


「うーん」


如何いかがなされた? やはり先程の光は偶然の産物でしたか?」


 あ、そういえば祭司さん放置しっぱなしだった。


「いえ、やはりアレは習得条件を満たしたみたいです。だぶんですけど、ボクにそういった祝福があるんじゃないかと」


「……なるほど。聞いたことはないですが、祝福は全容が知られていませんからね。そういった効果があるのも存在しているのかもしれませんな」


 神秘石ミスティックを見ながらという失礼な態度にもかかわらず、祭司さんは気にしていない様子。人間が出来てるのかどうかはさておき、ボクの言葉に納得出来る物があったらしい。明るい声音で得心していた。


「では、何にお悩みなのかな? よろしければ相談に乗ることも可能ですが……」


 …………。うーん、まあいいか。

 ボクは思い切って尋ねてみることにした。


「<魔法使い>に成りたいのですが、転職リストに表示されてないみたいなんですよね。確か<学徒>から派生するって聞いていたんですけど」


「ああ、なるほどなるほど。確かに<学徒>が必要な職業ジョブです。しかしながら、<学徒>には魔法的要素がありません。詳しくは申し上げられませんが、とある特殊職が絡んでいるとだけ……」


「そうか……。そうだったのか」


 ボクは祭司さんのその言葉で理解した。

 ちなみに祭司さんが言い渋ったのには理由がある。別に意地悪でとかではない!

 習得条件と同じ様に大半の特殊職は転職条件を不思議パワーで相手に伝わることがない。それと複合するような職業ジョブもその効果範囲に含まれるらしい。


 改めて転職リストを見つめる。そこにある文字が輝いていた。

 <呪い師>。そこにボクは触れる。

 神秘石ミスティック上に光が走り、<呪い師>の職業ジョブスキルが表示された。やはりこれだ!

 そしてボクは告げた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 王都<エコノミックワーカー>の一角。その商業区画にて『美しすぎる占い師』が出没していた。ボクのことだ!

 あれから<呪い師>に転職したボクは、『占いが当たって誰かに感謝される』という習得条件を満たすために行動を開始した。


 最初は後宮で限定スキル『占い』を使っていたのだけど、きさき様方は規則正しい生活を送らされており、占っても日常的な物ばかり! 結果を伝えても「ああ、そういえば今日でしたわね」などと解される始末で。

 それに感謝されるのはねやでのサービス! なので、ボクは早急に見切りを付けて市街へと矛先を向けた。


 『美しすぎる占い師』を演出するためにボクは、<始祖の服サキュバスクロース>の上に黒いローブをまとっており、髪を結い上げ、口に薄い布を巻いていた。更に薄い化粧をすることによって――。


「本日、あなたの夢がかなう機会が訪れると出ております」


 ボクは限定スキル『占い』を使い、客としてやって来た、うだつの上がらない男に判定結果を伝えた。しかし、言葉が返ってくることはない。

 感じるのはボクの胸への視線! ローブで覆い隠しても自己主張するおっぱいに野郎共のリビドーがビンビンと突き刺さりやがる! コイツ……占い聞いちゃいやしねぇ……。


 それっぽい演出をするために手相占いを演じたのが不味まずかった。ボクとの接触で種族能力アビリティ【情欲刺激】が発揮してしまい、男の情欲を刺激してしまうのだ!

 加えて客は男ばかり。うわさが噂を呼んでボクを一目見ようと男たちが長蛇の列となって、いまかいまかとその時を待っている状態だ。おそらくこの客もその手の一人……じゃないかね。まったく、しんに困っている人はいないものなのか。


 うぅむ……困った人なら感謝してくれると思って料金を安くしたのはマズったか。

 銅貨1枚。それがボクが定めた鑑定料だ。

 わずか10マルクでボクとの一時を過ごせ、なおかつ手とはいえボディタッチが出来るという幸せ仕様。これは世のお兄さんたちが時間を掛けても並んでしまうのも無理もないか。暇な人なら尚更なおさらだ。


 ――ボクの美貌はもはや罪だな。美しすぎるのも問題らしい。


 鼻の下を伸ばしている男をたたき出し、次の客を呼び込む。

 その作業を何度も繰り返したが、結局その日も本当に困っている人は訪れなかった。けれどボクはこうするしか方法が思いつかない。

 それから何日も、同じ顔と対面する日が続く。






転生一三九日目

ミヅキ「『呪い師』の条件は――。『何でもいいから占いをする』……か。あー、あー、あのときかぁ! まさかアレがフラグになってるとはね」

レティ「――そのとき神は仰りました。隣人を愛し、己を愛し、そして自然せかいを愛せよと」

ミヅキ「レティも頑張ってるみたいだね。よぉし、ボクも頑張らないと!」


※付録※

<信徒>(特殊職)

条件:神官の『勧誘』を受けた時点で転職する。

技能スキル:なし

限定:『盲信』

習得:友人を信者に仕立て上げる。

備考:神官に誘われた者たちの末路……。


『盲信』

効果:神を信じるあまり、諫める言葉は聞こえなくなる。

備考:神は私たちを見守っています。


<戦士>(共通1次職)

条件:遊び人

技能スキル:【武器習熟】【体力向上】

限定:『腕力上昇(小)』『武器習熟向上』

習得:一つの武器をある程度使えるようになる。

備考:戦いを学び始めたばかりの見習いさん。戦闘職に就く前の足掛かり。


『腕力上昇(小)』

効果:いつもより2kgくらい重い物が持てるようになる。

備考:まずは武器を持てなきゃ話にならない。


『武器習熟向上』

効果:【武器習熟】の効能が増す。

備考:戦うことがお仕事です。早く戦えるようになりましょう!


【武器習熟】

効果:使えば使うほど武器の扱い形が上手になる。

備考:熟練の道は険しい!


【体力向上】

効果:体力が向上するようになる。

備考:これがないと訓練しても体力は増えませんよ?


レティ「――どうですか? みなさま。<信徒>になればいずれ<聖騎士>にも成れますよ。それだけじゃありません! あの最上位職の<聖人>も<信徒>なくしては成れないのですよ~」

ミヅキ「友を売った聖人……。やっぱ<ワーカー>さんパネェ……」

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