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戦士2話 ボクが手に取るべきモノ②





 ソリュンさんは更に補足を続ける。


「肘でやるって方法もあるが、そういうのを目指したいなら<格闘家>を目指せば良いが……。まあ、ミヅキには向かんだろ」


 ソリュンさんはボクの身体を見回す。あれ? エロい視線じゃないな。


「明らかにリーチが足りないな。強くなりたいなら<格闘家>も諦めろ」


 いやらしい視線ではなかったが、失礼なことを考えていたのは変わりなかった! ボクはふつふつと湧いてきた感情を隠し、ソリュンさんに告げる。


「そもそも成りたいとも思いませんね。むち以上のロマンじゃないですか、それ」


 ホントは【吸魔】との組み合わせで最強に見える! なんて考えも湧いたけど、ソリュンさんの言うとおり、リーチの短さは如何いかんともしがたい。そもそも【吸魔】は触れればいいだけなので打撃にこだわる必要もないし。


「武器も防具も装備できないから確かにそうだな。ロマンと言えよう。話を戻そう。盾の話だったな?」


 その確認の声にボクはうなずく。


「盾が武器なのは分かってくれたと思う。が、しかしより攻撃性を高めた盾も存在している。だからそういった意味でも間違いなく武器なんだ」


 ソリュンさんは代表的な物を上げていく。


「拳を覆うだけの小さい盾だがとげの付いている<スパイクシールド>。コイツは殴り特化だな。防御を諦めてる潔いい盾だ! 次いで盾の中央に一本角がある<ユニコーンシールド>だ。攻防一体のシールドチャージで真価を発揮する盾だが、こいつも殴れることは殴れる――けど、止めた方が良いだろうな。角が折れたら事だ。んで、次が最後だ。円周上に棘がある<ラウンドスライサー>。持ち手付近に長い鎖が収納されていてな、ブン回して投げる事が出来るんだぞ」


 言いたいことはいっぱいあるけど、<スパイクシールド>ってただのナックルじゃん!

 ボクは(心が)大人なので指摘せず我慢する。


「――と、盾についてはこのくらいで良いな。それでおの、剣、弓については語るまでもないので省略する」


 そう言われればその通りなのだが、剣と弓は候補に入れているから説明が欲しかった。

 それを頼もうと口を開く――前に、ソリュンさんは表情を一変。真面目な表情だったのが、まるでオモチャを与えられた子供のような物になる。


「よし、やりについてだ。コイツはすごいぞ! 突いてよし! 払ってよし! 回してよし! 何より柄の扱いで近距離、中距離ともに扱えるのが素晴らしい! 何よりも格好かっこいい! 眺めてよしだぁぁぁぁァッ! これで選ばないのはどうかしてるぜっ!」


 人間、好きな物を語るときは興奮すると相場が決まっている。ソリュンさんもその例に漏れず、少し興奮しがち。話す言葉はボクが聞き取れない程早く、ぶっちゃけ何を言ってるかわからない!

 けどボクはそれを指摘しない。きっと賛美してるだけだろうと分かるからだ。えて燃料エサを与えることもない。

 ソリュンさんが落ち着くのを待って、ボクは告げた。


「剣にします」


 それを聞いてソリュンさんは絶望的な顔になるも、それは一瞬のことだった。さすがプロ――ってところかな。あるいは慣れてるのかもしれないね。

 やっぱり男は剣でしょ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 対峙たいじするひょろい男。ソリュンさんが剣を構えるのを見るなりボクは駆けだした!

 腰を落としじっと構えるソリュンさん。ボクはポッケに入れていた石をサイドスローで投げつけた。それに意表をつかれたのか、一瞬目を見開くが見える。ふふんっ、勝負に汚いもクソもあるもんか!

 彼は避けることなく構えた木剣で石を打ち払う。いまっ! ボクは飛ぶようにしてソリュンさんに襲い掛かる。

 彼がずらした剣から遠い首もと、ボクはそこに振り下ろした。ガチンッ! 素早く返された剣で受け止められる。はじくようにして押し返されてしまった。


 飛ばされたボク。離れたところに膝で着地する――が、ボクは体勢は万全じゃない! 急ぎ立ち上がり、顔を上げるとそこには――。眼前に剣を振りかぶったソリュンさんの姿っ!


「ぬぅぅぅうううんっ!」


 グオォッと頭上から迫る斬撃。あぶねっ! ボクは左に避ける事で対処。――と、それ同時にしゃがみ込み膝に力を蓄える。


「せぇぇぇえええいっ!」


 気合いを込めた発声と共に全身の力を解放。――膝を伸ばす。これが避けられたら終わりだという念を込めてボクは喉元への突きを放つ! 

 以前見たカリスさんをイメージした突き。彼女のような稲妻にはほど遠いけど、絶妙なタイミングだとボクは自負したい!

 懐に潜り込んでからの攻撃にソリュンさんは避けることも出来なく――いや、避ける必要がなかった! 彼は振り下ろした一撃を強引に止めていた。そして半歩ずらし、直角を描くようにしてボクを追尾している!


「ぐっ!」


 衝撃。手に残るしびれるような感覚! ボクの(こん)(しん)を込めた突きは、鈍い音を立てソリュンさんの木剣で打ち払われてしまう。

 ボクの木剣が――っ! 飛ばされる木剣をつい目を追ってしまう。そして――、


「これで終わりだ」


 首元に木剣を突きつけられていた。


「参りました」


 ボクは素直に負けを認める。

 自力の差が明らかに違う。本来の武器やりではない剣を使ってるので、不意を突けばもしかしたら……という思いもあったんだけど。やっぱり強いな。いや、ボクが弱いのかもしれない。


「【投石】については……まあ、いいだろう。ホントはよくねぇんだが、強さを求めるのに正統派とかそういうのはどうでもいいしな。が、中途半端はよくねぇな」


 ソリュンさんは卑怯ひきょうという言葉を吐くこともなく、違う方向からボクを責める。


「やるなら徹底的に、だ。一発で満足するな! 最後の突きを出すところなんか避けて投げつけりゃ良かったんだよ。あのタイミングじゃオレも避けられなかったし。そうやって少しずつダメージを与えて、ここぞ言うときにあの突きを放つんだ! 自分より強敵相手に一撃必殺など、お前にはまだ早い」


「石はあれしか持ってなかった――」


 ボクが最後まで言う前に彼は怒声で遮る。


「バカヤロ-! 【ポケット】があるだろ! いい加減、慣れろよ。身にまとっている武器は簡単に捨てるんじゃねぇ! 石だってれっきとした武器だ! 『何か隠し持ってるぞ!』と見せつけるようにしてこっそり【ポケット】から取り出すんだよ。逆もしかりだ! そして弾が切れたと見せかけたところで、最後の最後にそれを取り出して使うんだ! 飛び道具の残数を読ませるな! これは基本だぞ」


 【ポケット】は死ぬまで他人の中身を探ることは出来ないし、奪われることもない。つまりどれだけ隠し持っているのかは不明なんだ。

 死後、【解体】で干渉されると盗まれるけど。死んでいるので所有権の主張は出来できやしないし……。というか以前<暗殺者>相手で【ポケット】空間をカリスさんが【解体】で裂いていた!

 まあ、今はそんなことはどうでもいいとして。


 それを上手うまく使えとソリュンさんはいう。

 にしても、剣術の訓練をしているのに飛び道具の使い方でしかられるボク。……うん、なんかシュールだ。しかし、ソリュンさんのげんやもっとも。いまだ収納の出し入れは遅いが、確かに弾数は確保しておくべきであった。

 どうやらボクは1個の石が戦局を左右したという事にとらわれすぎていたみたいだ。所詮、石は石でしかないのに。


「剣に関しては……素振りしろ。――としか言えないな。まだ剣先がぶれてるぞ。鋭くもない攻撃など当たっても効果ない。もっと【武器習熟】で鍛えろ」


 彼の言うように、この世界では素振りすればする程強くなる。もちろん駆け引きを除いてだ。ただ闇雲に剣を振るっているだけでも、いずれ――理想の一撃へとたどり着く。武器を振るうという才能は皆、等しく同じなのだから。

 ただし、それは【武器習熟】に限った話である。【剣習熟】や【槍習熟】のように一点集中した物にはやはり及ばない。同じ時間、鍛えたら差が生じてしまう。

 しかし才能を後から手に入れられるのだから、公平であることには変わりないだろう。


 それから素振りをしたあと、ソリュンさんに打ち込むこと100回。それを遂げて本日の修行は終了となる。

 軽く汗を拭いて、ボクは後宮へと戻るとそこにはカリスくんが待ち受けており、そのままベッドで二回戦を始めることになるのだった。






転生一二八日目

カリス「今日は私の番だな」

ミヅキ「ぇぇえ? 今日は疲れたよ」

レティ「じぃぃぃぃ」

ミヅキ「レティは今日はダメですぅ! ボク、疲れてるんですぅ!」


※付録※

<格闘家>(共通3次職)

条件:軽戦士

技能スキル:【弱点看破】【カウンター】

限定:『着こなし(服)』『武器禁止』

習得:【カウンター】を一定数決める。

備考:ついには刃物も持たなくなったアホ。


『着こなし(服)』

効果:服以外には着られなくなる。

備考:いくら防護服が在ろうとも、限度って言葉を知ってるかな?


『武器禁止』

効果:拳以外武器とは認めない。

備考:ハッハッハ、ワロスワロス。


【弱点看破】

効果:経験を元にして相手の弱点を見つける。

備考:何事も経験が大事。


【カウンター】

効果:相手の攻撃に上手く合わせ一撃を決める技能スキル

備考:失敗したら……大変だよ?


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