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遊び人7話 秘密兵器は最後にやってくる




 かつて、幽霊という恐怖に捕らわれていたボクだが、今現在その恐怖から解放されていた!

 精霊――。そう、いまボクとつながっているスノーウルフとの接触がボクを『いるんだけどよく分からない存在もの』から頼りになる憎いやつに変えてくれたのだ。よーしよしよしよーし! 実に素直で良い子だ。


「ほらっ! 魔力エサだよ、た~んとお食べ!」


 ボクは見えないラインで繋がれた物に魔力を流し込む。

 それを受け、スノーアロー・ウルブスの内の一矢いっぴきは更に体積を増していく。――って、オオォ! 角まで生えちゃって! 頑張ってくれる気満々です。これはもう言うしかないよね?


「ライラさん」


「な、何かしら?」


 自分の想像を超えた範囲であろう出来事に動揺を隠せないライラさんであったが、ボクの呼びかけには答えてくれた。で、言ってやったのさ。キリッとした表情で「ワシが育てた!」――と。

 それをライラさんはアホな子を見るようにして詠唱を始め出す。

 ああ、そっか。魔力のラインがボクに移って制御しなくてもよくなったからフリーになってたんだね。

 ボクはそれを尻目に見ながら死神しにがみへと集中した。


 見るとハッスルしたオオカミさんたちとじゃれ合っていた。

 なぎ払わんとする大鎌に氷の大狼スノーウルフたちはよく堪える。より凝固した身体で頑丈度が増していた! しかし勢いだけは殺す事も出来ず、破壊されることはなかったが吹き飛ばされてしまう。

 ――と、そこへすきだらけとなった首筋にもう一矢いっぴきのオオカミさんが迫る! やったかっ!?

 その瞬間、死神は振った大鎌の遠心力を元に身体を一回転させる。柄でもってオオカミさんを打ち払った。

 なんてことだ! あれが防がれるなんて。しかも急所――目を突いていた。もしあれが生物だったなら致命傷だろう。


 ボクはその戦闘を見つめながらジリジリと後方へと下がっていく。

 どうやら先程と違い死神もそれほど余裕はないらしい。足を止めオオカミさんたちの猛攻を防ぐのに必死だった。なので少しずつ距離を開けていく。

 けど、ボクには見えたんだ、死神が何かを口ずさんでいるのを。

 魔法――ッ!? 一体何を使うつもりだ!

 この場に置いては音遮断の魔法を使うとは思わない。無駄だし、そんなミスを暗殺に携わる者がするはずがない!

 じゃあ何を! そう思った瞬間――、


「ガァ――ッ!」


 その場にとどまりながらも詠唱を続けたライラさんの倒れ伏す姿が見えた。一部始終見ていたけど、何をされたのか分からなかった。一体どんな手段でライラさんを攻撃したのだというのか!?

 ライラさんを守護するように角付きの氷の大狼スノーウルフに頼むとボクの周りには残り一矢いっぴきしか存在しなかった。


 それを狙っていたかのように次々と矢が飛来する。

 ボクは氷の大狼スノーウルフに押し倒され、動くことも許されず身を守ることしかできない。カリスくんの位置まであと少しだというのに。

 ――と、そこでカリスくんのいた位置から戦闘音がしないのに気付く。消音魔法を掛けられて以来意識から外れていた!?


「まさか……死んじゃったなんて事は……」


 どうにかして視線をやるとそこには一騎打ちをするカリスくんの姿が! あんなに強いカリスくんとまともにやり合える人材がボクたちを狙う死神以外にも派遣されていたなんて……!

 見たところ近接戦闘においてはカリスくんと戦っている刺客の方が死神よりも強い! そして音がしていないってことはあの刺客も消音魔法が使っているんだろう。――にしても冷たい……。

 ぶさる氷の大狼スノーウルフにボクの体温は奪われていく。


「まずい……かな」


 最悪の展開が頭をよぎる。

 いまボクが出来る事は負ぶさっている氷の大狼スノーウルフに魔力をそそぎ、より強化することだけ。たとえ頑丈になったとしても守っていてばかりでは撃退することなど出来ないだろう。


「うーん、<衛兵>でも来てくれないかな」


 いくら夜で、消音魔法が使われていたとしても、こんな騒ぎを起こしてるに人が来ないなんておかしすぎる。きっとこの辺りは封鎖されているのだろう。

 カリスくんは言っていた、1編成辺り20人が限度だと。しかしながら、徒党を組むのに<暗殺者>同士でなかったら? ギルド員でもなかったとしたら?

 ボクが思うに、この襲撃は20人以上が動員されている。

 封鎖は外部の連中を雇って行っているのだろう。また、<殺人者>となったとしても<司教>に伝手つてがあり、何時でも元に戻せるならば――とびっきりの狙撃手を用意したという可能性もあるんじゃないか?


「考えれば考えるだけ、不利な展開が予想できてしまうな……」


 切り込むカリスくんに相手の刺客は盾を持つことでしのぎきる。受けた盾をそのまま押し込みカリスくんに短剣で一撃をくれる。あぶないっ! そう思った瞬間にはカリスくんは【特殊歩法】で相手の背後に回っている! けど相手もさるもの、咄嗟とっさに前方に飛び去り前転とともに体勢を整える。むむ、敵ながらにしてあっぱれ……。

 あの短剣に毒が塗っているのは間違いない。カリスくんもそれを分かって無理はしていない状況。【特殊歩法】のあるカリスが優勢にもかかわらず、攻めきれないのはそこに理由があるように感じる。


 気を失ったライラさんの事も考えると、やはりボクが動くしかないように思える。いや、動くしかない!


「オオカミさん、ボクをくわえて大きく飛べる?」


 それに氷の大狼スノーウルフラインを通すという独特な方法で感情を伝えてきた。『出来る』――と。


「じゃあ、さ。ボクが合図したらカリスくんの元へ飛んでくれる?」


 氷の大狼スノーウルフから『承知』という思念が届き、ボクはその時を待つ。


 カリスくんが離れると、すかさずナイフを投げつける刺客。それをはじきながら再び接近する彼はふとした瞬間に【特殊歩法】を使い、相手の隙を突く角度に回り込んで一撃をくれる。刺客は大きく回避することで銀閃をかわし、やはりナイフを投げつける。

 うーむ、中々にチャンスがやってこない。このままナイフが尽きるまではカリスくんが勝つことはないだろう。しかし残数が分からないのでそれを待つわけにも――ッ!?


「飛んでッ!」


 合図すると、氷の大狼スノーウルフははむっとボクの襟をみ、そして大きく跳躍する。そこへ矢が飛んで来るもいまのボクは空を飛んでいる! へへ~ん! 当たられるものなら当ててみな! ――という挑発はさておき、ボクはポッケへと指を差し込む。


 見るとカリスくんの一撃は刺客の盾に阻まれようとしていた。今だァッッ!


「えぇぇぇぇえいっ!」


 【投石】を使いボクは刺客へと投げつける。まさに『こんな事もあろうか』と、だ!

 しかもただの【投石】じゃない。

 きわめた職業ジョブで使うそのスキルは普段以上の効果を発揮する。そう、ほとんど使えないような職業ジョブスキルでもネコの手ほどには……。


 投げた――というよりは落とした石は普段以上の命中力を発揮し、やがて刺客の元へたどり着き、そして――。刺客のつま先へとぶち当たる。

 そう、つま先だ。音を消すように造られた靴は下は布だが、上は鉄鋼で覆われている! なのでボクの投げた石ははじき飛ばされてしまう! ――が、しかし跳ね返った石は股間へとダイブしたじゃあーりませんか!


「あれ? 効果ない?」


 あまりに無反応な刺客の様子に、空中を滑空しているボクは声をあげてしまう。あの刺客、――女? もし男だったなら飛び上がるなり、苦悶くもんの声をあげるはずだ。

 けど、これが勝負の決め手だった。ボクの【投石】により1テンポ遅れた刺客は計算が狂い、カリスくんの攻撃に対して完全な防御ができなかった。受け止めるはず()()()けは、変な角度で弾いてしまい自身の首へと吸い込んでしまう。


 刹那、飛び上がる首に沸き上がる血潮。った! 明らかに致命傷だろう。これで生きていたら人間じゃない。

 ――と、同時に崩れ落ちる刺客から音が響く。消音魔法が解除されたのだろう。それに気付いたカリスくんが声をあげる。むろん、血を嫌って【特殊歩法】で回避済みだ!


「ふっ、待たせたね、ミヅキ」


 見ると彼はどこからともなくアイテムボックスからハンカチを取り出し、汗を拭っていた。こんな時でも変わらぬカリスくんにボクは安堵あんどを覚えてしまう。


「――って、そんな事してる場合じゃないよ、カリスくん! ライラを、ライラさんを助けて!」


 感覚を共有する精霊スノーウルフから、己の分身たるスノーアロー・ウルブスの数がライラさんを守護する角付きを除いて残り一矢いっぴきというのが伝わっていた。

 数が減るごとに死神が処理する速度が上がっている。なので、カリスくんを解放したからと言って油断できる状況でもなかった。狙撃手もいるしね。


「ふぅ……。息のつく暇もないか……」


「ついてる、ついてるって、カリスくん! ちょー余裕でついてるってば!」


 ボクのツッコミにニヤリと笑うと、カリスくんは猛烈なスピードでライラさんの元へと駆け出した! そこへ矢が飛んでくるも彼は何の事はないと打ち払っていく。

 どうやら狙撃手は空を(咥えられて)滑空するボクよりも地上の援護をすることに決めたらしい。どうせなら撤退して欲しいところではあったが、プライドか? プライドが悪いんか!? そんなもの捨ててしまえ!


 ふと、あることが脳裏にひらめく。


「――はっ! そうだ、このまま逃げてしまえば……」


 足手まといがこの場を去ることは悪くないような気がする。


「……。――いや、ダメだ。逃げちゃ行けない!」


 むろん、仲間を置いて逃げてはいけないという正義感ではない。


「ターゲットはボクなんだから……追っ手はこっちにかけられるはずだ!」


 そう、そうなのだ。今は邪魔だと思われるカリスくんとライラさんも攻撃してるが、一度離れてれば二人を無視してボクを襲うに決まっている! 逃げても無駄なのだ。

 それに――第2段があるかもしれない。失敗してもある方向へと逃がし、そこでわなを張っていないとも誰が決めた! 仮に誰もいない方に逃げたとしても、人海戦術からボクがカリスくんとライラさんと合流する前に捉えられてしまうに違いない。

 心なしか精霊スノーウルフからも批難の感情が伝わってくる。


「うん、分かってるよ。戻ろう……」


 ボクはそう答えるしかなかった。






転生五三日目

カリス「相手の盾の角度を『直感』で計算して攻撃してみたんだ」

ミヅキ「あれ? <勇者>の限定スキルに『直感』なんてなかったよね」

カリス「ああ、これはボクの祝福【追憶者】による効果なんだ。この祝福は以前就いて、習得した職業ジョブの限定スキルを一つだけ設定出来るって効果があるのさ」

ミヅキ「へぇ……そんな便利な物があったのかぁ」

カリス「<勇者>前提条件の<遺跡探索者>と<冒険王>の限定スキルだけど、これにかなうのは中々ないと思う。飛来物を感知してるのもこれのおかげだしね」

ミヅキ「付け替える事で無双してたのかぁ」

ライラ「…………」

カリス「ん? 残念だけど転職のタイミングでしか効果は変えられない。だから<勇者>になって以来、『直感』のままさ。ずっとあった感覚がいきなりなくなるのも怖いし」

ミヅキ「な、なるほど……」

カリス「それと『無双』は別にある。最上位職<武芸百般>の限定スキルで、敵が10人以上から発揮し、数が多ければ多い程強くなるという。かなり強力らしいんだけどね、『孤高』っていう限定スキルで仲間がいると全てのスキルが使用不可になるから、まあ、お一人様の目指す究極職業ジョブさ。私はそんな物はいらないね」

ライラ「…………」

ミヅキ・カリス「「あっ」」

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