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遊び人6話 死神とオオカミさん





 ライラさんが力ある言葉を放つ!


「お願いっ! スノーウルフ!」


 刹那、ライラさんの掲げるつえから光がはじける。そして、氷で出来た小さなおおかみが浮かびあがる。

 一瞬の静寂――。

 カリスくんがそれを確認すると共にスタートを切った!


「スノーアロー・ウルブス」


 ライラさんは援護するかのように魔法を撃ち出す! しかし一部はボクたちの周りを漂っている。

 カリスくんに追従する氷の狼スノーウルフたち。飛来するナイフを打ち落としていく! カリスくんはオオカミさんたちに任せて更に先へ行く。


「まさかっ――あの狼……自由意志があるのっ!?」


「ええ、それが精霊の宿った魔法よ。【水魔法】、以前習得した<水魔法師>時代に契約したスノーウルフ。実に頼もしい子でしょ?」


 ボクの驚きのあまりに出た言葉にライラさんがご丁寧にも応えてくれる。

 言えない! ――ボクのまもりを捨てて勝ちに行ったと思ったなんて。カリスくんもライラさんの魔法がどの様な物か知っていたので攻勢を仕掛けたのだろう。

 事実、飛来する物を浮遊するオオカミたちがんで受け止めてくれている! くわえたナイフをペッと捨てる姿が愛らしく感じてしまう。

 オオカミさん、オオカミさん。ボクをどうか最後まで守ってくださいな。


「マジックアローは本来攻撃用の【下位魔法】だけど、スノーウルフの助けがあれば防御にも使えるからね。シルフほど高位ではないけど、その分魔力の消費が少ないから、ほらこの通り! 数がいっぱい生み出せるのよ。ミヅキの応援・・もあったしね!」


 などとおっしゃるも、ボクは自慢話を聞く余裕はない。話を聞き流しながら地面を見つめる――と、矢も混じっている! どうやら今宵こよいの襲撃にはより遠距離から狙える弓要員も用意してたようだ。

 たらり。ボクの額から汗が流れ落ちる。


「けど、カリスくん――これに気付いてたんだよね?」


 ボクは矢を拾い上げてボソリとつぶやく。

 事前に察知し、攻撃が掛かる前にカリスくんは声をあげて注意を促してくれた。闇夜やみよだというのに……。

 殺気を感じ取ったというやつだろうか? それとも野生の勘みたいなもの?

 しかし、この世界においてはそう言う物もすべて職業ジョブスキルに含まれているという。

 まあ、考えても仕方が無いか。助かったことには変わりないし。

 そう思い、視線を前に戻す。――と、そこには暴れるカリスくんの姿があった。それを援護する氷の狼スノーウルフの姿も!


 剣を翻すごとに()()(ぶき)を上げるカリスくん。おおっ! ナイフを打ち返して敵に当てるという曲芸までも! 手の届かない位置や大振りになってすきだらけになったとき飛来する投擲とうてき物は氷の狼スノーウルフが打ち落としている。

 何というファインプレイ! 防御を最小限にしたカリスくんは()()(ふん)(じん)として暴れる事が出来るというわけだ。信頼という名のコンビネーションプレイにボクはもう、(くぎ)()けだ!


 いつの間にか手の平は汗にまみれていた。

 少し興奮しすぎたようだ、まるで傍観者の様に。が、しかしボクは当事者にして敵のターゲット! 決して油断して良い状況ではなかった。


「う~ん」


 ボクがうなっているとライラさんが話しかけてきた。魔法の維持はそれほど大変という訳でも無いらしい。


「どうしたの、ミヅキ? このまま行けば勝てそうだけど。スノーウルフも頑張ってくれてるしね」


 違う、そうじゃないんだよライラさん。


「確かにオオカミさんたちはよくやってくれてるよ? でもボクの心配しているのはそう言う事じゃないんだ」


 敵の新兵器たる矢を氷の狼スノーウルフが退けているのは敵にも誤算があっただろう。でも少し――もろすぎないか?

 以前の戦闘を誰かが監視していたとして、いくら矢があろうともライラさんの精霊を使った魔法を突破出来るとは思えない。にもかかわらず似たような攻め方をするというのはお粗末にも程がある。きっと何かたくらんでいるとボクは思うわけで――。


「ライラさんは疑問に思わないの? 前回はカリスくんの隙を突いてボクたちに直接攻撃を仕掛けたことがあったよね? それも二度程」


 疑問には感じていないようであったが、杖を掲げながらもうなずくライラさんをボクは見つめ、あの体勢肩こりそうだなぁ――なんて今はどうでもいいを考えつつも先を続けた。 ……後で肩をんで上げよう。


「パターンとしては前回と一緒でしょ? これでボクを殺せるかと考えると、ちょっと無理じゃないかなぁって思っちゃうわけですよ。もちろんそう考えてくれていたら楽なんだけどね。きっと何か真打ち――」


 ボクが言葉を紡ごうとしたその時だった。突如ボクの口から音が消えせる。

 見るとライラさんも口をぱくぱくとさせている。遠くから聞こえてくるカリスくんが出す音すら感じなくなっていた。


 ――これが新手か!?


 音をかき消すというその手段を用いた刺客がこの場にいる!

 おそらくこれの発動を待って襲撃をしかけるつもりだったのだろう。けどカリスくんが気付いた。だからやむを得ず襲撃を仕掛けるという行動を取ったに違いない。

 もしこれが戦闘前に発動していたらライラさんの魔法――詠唱は封じられていた!? ナイスだよ、カリスくん!

 ――と、そこでボクは気付く。何故なぜ街中での戦闘なのにこうも人がいない? 何処どこに行ってしまったのだろうか。まさか先に排除した? そんな馬鹿なっ! 明らかに無駄な行動だ。もっとよく考えろ!


 その時、ぬぅっと近く建物の影から小さな人影が現れた。

 ――まずいっ! ボクはそれを見て背中に流れる汗が止まらなくなった。あれはヤバい、と。

 まるで死を濃密したかのような気配。黒をまとった仮面の人物は大きな鎌を持ってボクとライラさんの近くに現れた。そう、言うなれば死神しにがみ――。それがボクたちに死をもたらそうとやって来た。

 あんなに恐ろしい気配を纏っているのにどうして気付かなかった!? いま、ここで生まれたと言われても納得してしまうぞ、ボクはッ!


 この音の消失現象の犯人はあの死神だろう。それ以外の理由が考えつかない。もし仮にいたとしたらTheEndだ。だからボクはこの相手に全神経を集中させた。

 ライラさんがボクを引き寄せる。

 ドクン、ドクン、ドクンという音がボクの耳に届く。

 よかった! どうやら五感を封じるような力ではないらしい。もし聴覚が失われていたらボクに違和が起きていたことだろう。それが起きてないことと、音の発生源に直接触れれば音が感じ取れることからこれはそう言う物ではない!

 ――とするなら、今の場で起きている現象は音を消失させる空間を展開していると考えるべきだな。厄介ではあるが、それなら何とかなりそうな気もしてくる。主にカリスくんの力で! 早く来てくれ、カリスくん!


 そして死神は静かに歩きだす。しかし速い――ッ! それはまるで全ての無駄をぎ落としたかのような動きだった。

 それに反応するのはオオカミさんだ! ボクたちの周りに浮遊している氷は次々と死神に襲い掛かっていく。

 全部でないのは矢を警戒してのことだろう。ボクを震えながらも抱きかかえるライラさんに意志の強さを感じさせられた。


 振るわれる大鎌。その一閃いっせん(いっ)(せん)、オオカミさんたちを打ち落としていく。けれどオオカミさんは実体を持たない! 氷の身体は砕かれてなお、死神にみつかんとする。

 ボクはその散り様を最期まで見届けず、ライラさんを引っ張って少しでもカリスくんに近づこうとした。むろん、後ろ向きで! あんな敵に背を向けるなんてゾッとしないし!


 逃げるボクたち。氷の狼スノーウルフを払いながらも迫る死神はその距離を少しずつ縮めていた。後ろ向きに走ってるとはいえ、戦いながらの方が早いなんて!

 そんな時だった、耳元に「ジャリッ」と音が届いたのは。


「ライラさんっ!」


 ボクはその感覚を信じ声を出す。

 やっぱりだ! 結界を抜けたんだ! しかし氷が砕かれる音が響かない。だとするならあれは――。

 おそらく範囲指定のスキル――いや、魔法か!? 相手は魔法を使いながらも戦えるということ。ならば間違いなくライラさん以上の戦闘力を秘めている事になる。

 さらに悪いことに、ボクたちは魔法の範囲外に出てしまった。だとするならあの魔法を解いて、違う魔法に切り替えてくることも考えられる。

 その一方でボクたち――というかライラさんは魔法を解除する訳にもいかない。

 残り少なくなった<スノーアロー・ウルブス>を解いたとしても次の魔法を詠唱するまえにボクたちは敗北を喫してしまうはず。通常の【下位魔法】はともかくとして、精霊に呼びかける詠唱はとても長いのだから。


 刹那、ボクの脳裏にある言葉が浮かぶ。


『<美人局ハニートラッパー>の職業ジョブスキルは人、魔物、精霊とあらゆる存在に効果があるわ』


 以前、『悪のフェロモン』を捨てたくてライラさんにだだをねたときに聞いた言葉だ。それがいまここで役に立つなんて! ボクをフラグ回収者と呼んでくれても良いのよ。――って、そんな場合じゃなかった!


「オオカミさん! 頑張って! あなたなら出来るわ! 頑張った子にはキスして上げるから♪」


「ミヅキ……あなた、いきなり何を!?」


 緊迫の状況において血迷ったことを言い出すボクにライラさんがツッコミを入れるのはもっともだ。だけどね、最後まで見届けてから言葉にして欲しい。ほら――オオカミさんたちはハッスルしてるじゃないか!

 氷の狼スノーウルフたちは尻尾フリフリ。ハァ、ハァと吐く吐息からは冷気が漂い、それを吸収して身体の体積を増していく。まるで子供が急激に大人になったよう。


 そう、ボクは【甘言】だけでなく【誘惑】まで使って精霊のスノーウルフ刺激したんだ。ライラさんとは違い精霊を使役できないけど、自主的な協力は得られるんだ!


「GO! だよ、オオカミさん!」


 そしてボクは魔法を構成することも出来ない。しかしながら、【水魔法】は発動しさえすればライラさんの手を離れて精霊に渡る。そこにお願いする形で思い通りに動かしているけど――。つまり、ボクの魔力を精霊スノーウルフに受け渡すことも可能なんだ、契約相手と誤認させることで。

 まあ、要するにぃ、ボクがライラさんの魔法を強奪した形になるのかなぁ? はっはっはー!






転生五三日目

ミヅキ「ワァッハッハッハー! 所詮犬畜生よ! 実にチョロい」

ライラ「あぁ……私のスノーウルフがぁ……」

ミヅキ「往けッ! ハイ・ファ○リア!」

カリス「グッ、私の出番が――ッ!」

ライラ「ねえ、返してよ! 私の精霊返してよ!」

ミヅキ「――チッ、今良いところなんだよ。ボクが遊んだら返してやるからさ」

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