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遊び人4話 立ち往生





 かつてレイヤノルド王国を支えた街にして製鉄業をもとに栄えた街。近郊の鉱山が廃坑となりついえたときにこの街の栄華は終わってしまった。

 しかし今もなお規模は縮小されながらも金槌かなづちたたく音が鳴り響いている。屋根から突き出た煙突に煙が出ていることからも炉に火がともっているのがうかがえる。

 そんな街<ホーンデッド>にボクたちはやって来ていた。


 現在逗留とうりゅう一五日目。ボクたちは先に進むことなくこの街にとどまり続けていた。何故なぜかというと――。

 ここならば<暗殺者>に襲われても人が少ないので(といってもそれなりにいる)、他の都市と比べ迷惑を掛けることがないということ。それと足の確保のためだった。


「今日も見つからなかったな」


「ええ、厳しいと思ったけど、中々に、ね」


「ふっ、まあイイじゃないか。ミヅキの転職条件を満たすためにはどうせ時間が掛かるのだから、それを潰せたと思えば。まあ、気長に行くべきだよ」


 ボク、ライラさん、カリスくんは互いに顔を見合わせ、現状を嘆いていた。いや、嘆いているのは二人で、カリスくんは上品にお茶を堪能している。

 この先に進むためにはとある物が必要だった。それをボクたちは手に入れられないでいる。うーん、どうしたものか。


「ミヅキの体力があるならばこのまま行けるんだけどねぇ」


「それは言わない約束だよ、ライラさん」


「最悪の場合、馬一頭だけ購入してミヅキを乗せればいい」


 そうなのだ。この先の道は整備されておらず、とりわけボクの足で進むには少々困難という状況であった。そこで馬車を用意すべくここに留まり、方々を当たっている最中なのだ。

 馬車その物を用意するのは問題無い。

 <ホーンデッド>にはいまだ腕のよい職人が残っているので他国から鉄を輸入して製鉄業を続けている。なので、頑丈な馬車を作るというのには困る事はない。けど馬がない……。

 一頭だけならば目処めどが付いていた。しかしその馬は貧弱で、鉄で補強された馬車を(けん)(いん)するには少々荷が重く感じられた。もっとイイ馬を探すか、もう1頭見つけるかしなければ馬車を引かせるのは得可能だろう。

 カリスくんはその馬を買って馬車を使わずに進むのも手だといっている。


「う~ん。それも難しいと思うなぁ」


 ボクは少し考えた上でカリスくんの案を否定する。難しいというより、ぶっちゃけ無理!


「そうね、ミヅキには乗馬は無理だわ」


 馬に乗るのは結構揺れるという。ボクにそれを耐えろと言うのは正直ね、悪路を進むという現状となんら変わらない気がするよ。貧弱な身体がナサケナイワ。あー、ヤだヤだ。馬を乗りこなすには職業ジョブスキル【騎乗】も必要だと言うし……。

 カリスくんは腕を組みボクの言葉をみ締めた上で、さらに続ける。


「なら、ロバ……とかどうかな? 私が引っ張れば何とかなりそうな気もするが」


 ボクは冗談じゃないと声を荒らげ、その意見を封殺する。


「それじゃ本末転倒だよ! 最大戦力のカリスくんの動きを封じちゃ防衛がおろそかになっちゃう! それじゃ意味がないよ。移動するよりも迫り来る敵の排除が重要なんだから」


「カリス、申し訳ないけどここはミヅキの言うとおりだわ。前回の襲撃でわかった事だけど、<暗殺者>の初動を私には感じられない。だからあなたが頼りなのよ」


 ライラさんがボクの意見に賛同する。

 確かにそうだ。

 といっても何もライラさんが役立たずという訳じゃない。魔法を展開するには時間が――詠唱が必要なんだ。別に役に立ってないとは思っていない。断じて思ってない。……ホントだよ?

 多数決とカリスくんの撤回の元にその意見は却下される。


 カリスくんも、ボクたちが二人で先に進むには……とああだこうだ言ってたから、こういう手もあるよと一案を述べただけに過ぎないみたいだ。カリスくん自身としては現状維持で気長に馬を手に入れるのが一番だと思っている節がある。

 まあ、宿一室で過ごしてるから女二人の中に男一人の生活を楽しんでいるのかもしれない。


 ちなみにこれは防衛上で仕方なくだ。ライラさんとしては特に何も思うことは無いようだが、ボクとしてはちょっとね。けど、カリスくんはボクとのちょっとしたスキンシップ――コミュニケーションで満足してくれる様子。実に有り難い存在だ。魔力ご馳走ちそう様です!

 ちなみに前回の戦闘のあと、何故なぜ魔法を使わないのかいてみたんだけど……やっぱり魔法が使えなかったみたい。職業ジョブを極めてないらしい。<魔法使い>には一度なったみたいだけど、柄じゃないって辞めちゃったそうな。

 もうちょっと根性入れて欲しかったところだった。


 話す内容が振り出しに戻る。


「やっぱり馬が必要だね。もう少し粘ってみるのが一番かな?」


 ボクは悪路を進みたくないのでそう主張する。ヒールだし冗談じゃないって感じだ。

 靴を買えればイイって話もあるけど……あれ、一応神造製アーティファクトだし、今は微妙かもしれないけど、いずれボクとともに成長してとんでも無いものに育つ予定なのだ。だからそれを捨てるなんてとんでもない!

 ――なら一時的に履き替えればいい。

 と普通なら思うでしょ? でもね、悪路踏破用の靴って重いんだぜ? それで防御性能がヒールの靴以下っていうんだから買う気もせてしまう。さすが神造製アーティファクトと褒めるべきか、もっと頑張れよ職人というべきか正直困りもの。


 ボクの言葉を受けて、ライラさんが言う。


「うーん、そもそも……<御者>の職業ジョブスキルを誰も持ってないから、馬が手に入ってもそっちが問題よ」


 ぶっちゃけその通りだ。冒険する者は<運び屋>の【ポケット】は習得すれど、その先の<御者>まで修めている者は少ない。ライラさんもカリスくんもその例に漏れなかった。

 なので、フリーの<御者>を見つける事の方が馬を探すよりも困難をきわめる。


「もう、いっそ引き返して<ホリックワーカー>の商会で馬車(<御者>付き)を借り切った方がいいのかもしれないね。いまとなっては、敵のお膝元の方が逆に安心かもしれないし」


 裏をく、とまでは言わないけど、ボクとしては自分で言ってみて中々に名案に思えた。


「うーん、微妙ね……。それで確実に安全とは言い切れないし」


「私はなんでもいいよ。あいつら程度ならミヅキを守る自身はあるし。【甘言】で声援を受けたら負ける要素が見当たらない」


 ライラさんが反対に一票、相変わらずの自分がいるから大丈夫に一票。はてさてどうしたものか。

 とりあえず気分転換とばかりに外に出ることにした。むろん、襲撃を想定して全員一緒。端から見ればカリスくんの両手に花のデートだ!


 そしてボクはある人物と再会する。そうあの魂あふれる熱いやつと――。


「HEY、また会ったNA、おJOさん!」


 もやしの身体と毛玉を身につけた一人の男――ソウフさん。満を持して登場と言わんばかりの状況でパカラッパカラッとやって来た。


「あれ? 馬車が違う……」


 ボクのとの一件を不祥事と見なされ解雇でもさせられたのか?

 いやいや、心機一転して自前の馬車を用意したのだろう――と思っておく、心の安寧のためにも。第一ボクは被害者だ、ボクは悪くない。

 しかしそうであったならば、この状況においてはまさに天の采配! (やと)われの(つじ)()(しゃ)運転手であったらな徴発できないけど、フリーとあらばその限りではない。そう、ボクの『お願い』とちょっとしたお小遣いを渡せばソウフさんを足代わりにできるじゃないかっ!


 ――と、そこで改めて馬に視線を送る。

 ソウフさんにボクたちを含めれば4人となる。それ相応の馬が必要と言えた。そして目に映るのは2頭の馬。何処どこか貧弱な印象を受けつつも目をきつける様な何かをソウフさんが操る馬から感じさせられていた。


「――っ」


 ボクは気付いてしまった。


 ――馬鹿な! 馬がアフロだとっ!?


 しかも色違いのアフロだ! だがそれだけではない。よくよくみると馬車の外観が球状となっており、たった一人で有りながらもチームTheアフロを築いているではないか。流行はやってるとはいえ流石さすがにこれはやり過ぎですよ、ソウフさん!


「ふぅー! ふぅー!」


 言ってやりたい! 突っ込んでやりたい! でもボクはその感情を抑え込んだ。これからお世話になる(予定の)人に言う様な事じゃないしね。

 呼吸を落ち着けたボクはソウフさんに用件を切り出した。しかしまあ、何かデジャブを感じさせるやり取りだわ……。


「ソウフさん、ボクとドライブしませんか?」


「Oh……Yeah。おJOさん……ソイツぁ、ほんKIですKA?」


 ソウフさんはまるで信じがたい者を見る様な目をしている。けどボクはそれに構うことなく用件をつづる。


「ええ、ボクたちは王都に向かうつもりなんですが、ソウフさんの馬車の向きを考えてもそちらに向かう予定に感じられたので、もしよければ……って感じなんですけど。あ、むろん、今回はボクから言い出したので謝礼はしますよ」


「Oh……是非ともお願いしTAIところなのですGA……」


 意外にも渋るソウフさん。何か急ぎの用でもあるとでも言うのだろうか。


「BOKUは王都まではIKAないのですYO」


 な~んだ、そんなことか。

 ボクらとしては荒れ地を抜ければ別に問題はないし、逆に最後まで付き合わせたら<暗殺者>に仲間と思われてターゲットにされてしまうかもしれない。なので、もとより途中で下ろしてもらって再び行脚に戻るつもりであった。

 ボクはそれを言い、ソウフさんはそれを受け入れた。


 その後、ソウフさんに銀貨1枚――3人分だと相場は1,500マルクくらい――を渡し、ボクたちは出発した。むろん、馬車の中だ。狙われてるから当然だよね。

 でも前方が窓の様に開くので、そこから顔を出して会話してあげた。ソウフさんはそれに満足し、Win-Winの関係を作れたと思う。


 そして三日間の旅の末、ボクたちは次の街<ウォンテッド>へとたどり着いた。

 賞金首の名を冠する街にボクは不安を感じてしまうが、その予感は正しく、ここがボクたちの決戦の地となるのだった。






転生四五日目

ミヅキ「ギャグキャラなんだけど、ソウフさん、実にいい仕事してくれるんだよね」

ライラ「いい人なのは間違いないんだけど、<商人>としてやっていけるのかしらねぇ」

ミヅキ「無理だろうね。馬車の積み荷を見てもね、あまり契約をれてないみたいだし。にしてもよかった、クビじゃなくて」

ライラ「ミヅキ、あなた【ポケット】を忘れてない?」

ミヅキ「あ、そうか!」

カリス「ふっ、行商はお金だけが全てじゃないさ。色々な場所にいける……とてもロマン溢れる仕事なんだからね。ボクも王族じゃなかったら他の国にも行ってみたいところではあるね」

ライラ「確かに王族だと気楽に他国へと行けないわね。その辺りでは平民の方が自由かな」

ミヅキ「といっても仕事や旅行じゃない限りは<領民>だと無理らしいね。ボク、自由民でよかった!」


※付録※

<御者>(共通2次職)

条件:運び屋

技能スキル:【操車】

限定:『姿勢維持』

習得:千人運搬する。

備考:個人でやるのはお金が掛かります。


『姿勢維持』

効果:同じ姿勢で長時間居られる。

備考:これがあってよかったですね。御者台は腰に来ますよ?


【操車】

効果:馬車を操る技能スキル

備考:安全運転は大事です。


<運送>(共通2次複合職)

条件:宅配・御者

技能スキル:【ビックポケット】【警戒】

限定:『姿勢維持』

習得:自分の馬車を手に入れる。

備考:積載量の問題から、賊に注意が必要。


『姿勢維持』

効果:同じ姿勢で長時間居られる。

備考:これがあってよかったですね。御者台は腰に来ますよ?


【ビックポケット】

効果:腕力+馬力が積載量。空間の入り口は馬車と同じ大きさ。

備考:旅をするならお供に一人欲しいですね♪


【警戒】

効果:怪しい場所が何となく分かる技能スキル

備考:右見て、左見て、右見て……よしっ。――っ!? なにぃ、上から……だと…….


カリス「おや? 今回は二つのようだね。実にせわしないことだ」

ライラ「前回、気付いてたのね」

カリス「いくら強くても戦闘で油断はしてはいけない。どんなに強くなろうともそのくらいは十分承知してるさ」

ミヅキ「あ、これによると自分の馬車を手に入れたソウフさんは<配送>以上になってる可能性が高いね。ということは馬車に積んであったのは入りきらなかった物なのかな」

カリス「ちなみに【ビックポケット】は馬車に別空間を作る感じだから、馬車を奪われたら荷物も失ってしまうよ。犯罪者系の職業ジョブから派生する<略奪者>に【ビックポケット】の中身を取り出すスキルがあるから、その点に置いては【ポケット】に劣るかな。なので、【ビックポケット】を使ってるとは限らないんじゃないかな」

ミヅキ「……世知辛い。やっぱり<勇者>が行商をやるべきじゃないかな」

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