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遊び人3話 戦いの果てにするべき事



 血の臭いが漂う戦場。疲れ果てた身体は早くこの場を立ち去り、休憩を欲していた。

 しかし。だがしかぁあああし! まだやるべき事が残ってた!

 追いはぎ。そう、追いはぎだ!

 お前の物はオレの物という精神の元に、倒した敵の物を奪い取るのは当然の権利と言える。いや、義務だ! 奪わなくてはいけないんだ!


 死体はキモく、近寄りがたいものはあったけど、拒否反応を示す程ではなかった。どうやら<ワーカー>さんが何かしたとみえる。以前のボクは血を見るのもいやだったのに今じゃこの有様だ。何かしらの関与があったと考えるべきだろう。

 でもまあ、感謝してもいいかな。そのおかげでほら! こんなにたくさんれました。お宝ゲットだZE!


 刺客は全員始末したとカリスくんはいっていた。なので現れた刺客の数は14。その14人から得られた物はこれらだった。


 金貨14枚、1人1枚の計算だ。銀貨382枚。銅貨4,201枚。魔石の類は持っていなかった。これは後に数えたので、この時はお金がいっぱいあるとしか思っていなかった。チ、シケてやがる! 枚数だけかよ。

 投げナイフが100数本、これらは全部毒塗りだ。あぶねぇあぶねぇ……。

 鋼仕立てのロングソードが3本、シミターが2本、ダガーが5本。獲物の数が合わないのはカリスくんのがぶっ壊した所為だ。

 その他にも食料品などがいろいろと……。

 これら全てを売ったら一財産になる。少なくとも庶民ならば。


 本来であればこれほどの物は荷物となってしまい、馬車持ちでなければお金と価値ある物以外は諦めることになるだろう。けどボクたちにはカリスくんがいる。そう、『アイテムボックス』の出番だよ、カリスくん!


「はははっ。まあ、このくらいの物なら回収するまでもない品なんだけどね。でもミヅキがそう言うなら持って行こうか」


「1マルクを笑う者は1マルクに泣くんだよ、カリスくん!」


 『勿体もったいない』の精神をカリスくんに教え込む。王族だからお金には余裕在るのかもしれないが、王族だからこそとんでもないことだ! 国民の税をなんだと思ってるんだ。無駄にするつもりがあるならチョロまかしてボクにくれ!


「何でもいいけど、早くここから立ち去りましょ。休みたいって気持ちもあるけど、長くここにいると血に誘われて獣や魔物がやってくるわ。さすがにもう一戦やる気力はないわよ」


 と、ライラさんが異議を申し立ててくる。それもそうかとうなずくカイルくん。

 結局全部を回収することは出来ず、食料品と土に埋まったナイフの半数は諦めることになってしまった。ぐぬぬ……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それから3日程時が過ぎていた。

 現在ボクたちは3つほど村を経由している。1日にして村1つの計算だ。

 野宿をするのを嫌がったというのもあるけど……。まあ、あり大抵に言えばボクが歩くのが遅いからだね。休憩も多いし。まったく、ポンコツな身体に嫌気が差すよ。

 ――早く<戦士>になって【体力向上】を得ないと!


 基本――共通職3つは全ての人が習得する。それに<解体屋>を含めたのが<遊び人>を卒業した者が成れる職業ジョブだ。

 それ以降の職は身長制限があったりするので子供にはなれない。そんな子供たちは特殊職を目指して日々励むのだが、いまは関係ないので置いておく。



 あれから刺客は現れていない。けど危機は去ったと安易に考えるのは迂闊うかつとしか言いようがないだろう。

 ――戦力不十分。

 そう思って一時撤退したか、何処どこかでわなを張って待ち伏せしていると考えるのが打倒か。

 あの場に戦闘員以外が居なかったと考える程ボクは浅慮じゃない。この考えにライラさんも肯定してくれた。まあ、カリスくんは、


「いくら来てもあの程度ならどうとでもなるでしょ」


 と余裕をかまして真剣に取り合ってくれないが。

 そんなカリスくんだけど【罠探知】という職業ジョブスキルを持っているので、一見分からない様な罠でも確実に見つけ出す自信があるそうだが……。

 罠ってそういう物だけじゃないよなぁ。『伏兵とか人を使った様な罠は分からない』と思うのはボクだけだろうか。ライラさんもカリスくんの強さを実感してその辺りのことは安心しきっているようだ。うぅむ、ボクが心配性なだけなのだろうか。


 さて、余裕たっぷりのカリスくんだが意外にも乙メンだったのだ。中性的な容姿から似合うことは似合うのだけど、そんな人物に求愛されているのは少しなんだかなぁ……という感情にさせられた。

 これは一緒に行動する内に気付いた事だ。時折野花を見つけては笑顔を浮かべている。

 血を浴びるのを嫌ったのもその性格故のことだったとボクはみている。たとえ王族だったとして戦場で返り血など気にする人はいないだろうしね。

 だからカリスくんは色々な所で細かいんだ。ぶっちゃけ矛盾を感じるよ。戦闘面では大雑把おおざっぱでおおらかな性格の反面、私生活においてはアレはダメ! これもダメ! 食べる順番はこうじゃなきゃダメ! と色々指示してくる。もうね、疲れたよバトラッシェ。


「ほら、見てごらん、ミヅキ」


 カリスくんの声が聞こえたので、考え事を止めて指示された方向を向く。

 勾配している坂を登り切ると、遙か前方に小さくだが塀に囲まれた街があった。そこから煙が薄らと昇っているのが見える。


「あれが<ホーンデッド>。<ホリックワーカー>が出来たから寂れてしまったけど、以前はこのベイクヤード領一の都市だった街さ」


 寂れた街にホーンデッド。まさにアンデッドの街と言えた。いや、まあ冗談だけど。


「私もあの街は初めてだけど、確か……製鉄業で栄えた街よね?」


 首をかしげる様にしてライラさんはカリスくんにく。とんがり帽子がその動作に合わせて傾いてしまうところが少し可愛かわいらしかった。

 姿勢を正し(せき)(ばら)いをしたカリスくんは何処どこか得意げな様子でうんちくを語り出す。


「ふっ、その通り。あの街は50数年前まではこの国の鉄の製造を支えてきた街さ。それだけにマクシミリアン家は王家……ほどではないけど、それに準ずる力――大公家クラスの力を当時は備えていた。けどね、近くの山から獲れる鉄鉱石が枯渇したことで衰退が始まった」


 50数年も昔のことならばカリスくんは生まれては居なかっただろう。ならば本で得た知識のはず。それを見た来たことのようにカリスくんは断定で話す。やはりカリスくんも王侯貴族なのなのだなと、こういう節々から感じさせられる。自分が正しいと信じて疑わないのだから……。

 まあ、事実その通りな可能性もあることはあるのだけどね。


「そのとき当時の伯爵は考えた訳さ、新たな産業を興すしかないと。で、生まれたのが<ホリックワーカー>。かつての<聖女>を呼び寄せて多大な献金を元に聖域を作り出してもらった。つまり転職を産業とするつもりだったのさ。ふっ、愚かな事だね」


 なるほどねぇ。都市としては住みやすい街だったけど魅力が無かったのは産業という産業がなかった所為なんだねぇ。

 ふと気になって横を見ると、ライラさんもうなずいていた。ライラさん的にも納得の理由らしい。でも、この話には穴がある。

 ボクはそれをカリスくんに訊いてみた。


「<ホーンデッド>に『聖域』を使わなかったのは空気が汚れてて当時の<聖女>が嫌ったのが原因さ。まあ、わからないでもないけど、それは<聖女>の振る舞いとしてどうなんだろうね。それはそうとして『神殿』が建ち、街が完成すると、<ホーンデッド>から<ホリックワーカー>へと居を移す者が増える。で、残ったのが寂れてしまった<ホーンデッド>という訳さ」


 ボクには<聖女>の考えは賛同できる物があるな。公害病とか遭ったら怖いし。それに人を住ませるなら――。

 うーむ、それにしてもボクにはなるべくしてなったように思えてしまう。名は体を表すというか言霊が宿るという。なので<ホーンデッド>という名称を付けたのが寂れた原因じゃないかと。


「さすが王族ね。自分の国のことは勉強済みって訳ね」


「ふっ、もちろんさ。私の継承権は一位ではないけどそれなりに高いからね。たとえ兄が継いだとしても<勇者>としていずれ国のために働かないといけない。今は目下修行の最中ってわけさ」


 ライラさんが褒めると、当たり前のごとくそれを受け入れるカリスくん。志はいいけど、いまはボクの護衛として落ちぶれている。あ、間違えた。(ボクの命を守るという)至上命題の最中で、その武力を遺憾なく発揮してくれる予定だ。以後の予定はとりあえず全部キャンセルでお願いします!


 それから一度休憩したあと、ついにボクたちは<ホーンデッド>へとたどり着いたのだった。






転生二七日目

ミヅキ「ゆ……ごにょごにょは居ないとさすがに思いたい!」

ライラ「ミヅキ、いつもゆ……ほにゃららっていってるけど、もしかしてゴーストのこと?」

ミヅキ「あー、あー、あーーーーっ! 聞こえない聞こえない!」

ライラ「あなた、相変わらずいい度胸してるわね。――にしても、ミヅキにも可愛いところがあったのね……」

ミヅキ「ボクは何時だって可愛いよ? 見て、この瞳! 吸い込まれる様に美しいでしょ? でも注意してね、見過ぎると多分潰れちゃうと思うから」

ライラ「見た目の事じゃないよ」

カリス「まあまあ、いいじゃないか。ミヅキが可愛いことには変わりないさ。で、どうしてミヅキはソレが嫌いなんだい?」

ミヅキ「だって姿がないのに気配があるとか怖いじゃない」

カリス「あー、そういうことね。ミヅキは魔法も魔が込められた武器も持ってないから仕方ないか」

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