表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/53

遊び人2話 うなれ! 石ころ! 一球入魂?

戦闘回



 一目散に走り出したカリスくん! 走りながらも剣を振るってナイフを打ち落としている。

 ライラさんは呪文をとなえ魔法の準備の最中だ。

 そしてボクは――。


 指示されたとおり石を物色していた。

 う~ん、あまり手頃な石が見つからないなぁ。お、これどうかな。ひょいっと拾ってみたらジャストサイズ。うん、これにしよう。


 手を戻した刹那、目の前にナイフが落ちる。あぶねっ! ボクは後ろに飛び跳ねる様にそこを退く――も、こけた! 足が思った様に動かねぇ! ストンッ、ストンッ、とナイフが地面に突き刺さっていく。

 尻餅をついてしまったボクに追撃を掛けるかごとく光が飛び込んでくるぅうう! もうダメか! 目をつむり覚悟を決めたその時だ。

 カキ――ンッ!

 何かがはじかれる音がする。

 痛みはない。アレ? 無事? ボクは胸、顔、腹と順次に触り、ケガがないことを確かめてようやくにして目を開く。怖いのでうっすらと。


 すると、視界に映ったのは膜の様な何か。それにボクは包まれていた。ライラさんだ! ライラさんが魔法を使ってくれたんだ!

 以前教えてもらった【下位魔法】のマジックバリアに違いない。もしかしたら精霊の力を込めた属性魔法かもしれないが。

 ボクは振り向きライラさんを見ると、つえに魔力を流し込み、2つの膜――魔法を維持するお姿があった。さすがボクの保護者その1!


 安堵あんどしたボクは保護者その2に視線をやる。

 銀閃。カリスくんは剣を振るっていた。刺客――闇に紛れる様な黒服をまとっている連中はそれを避けていた。が、完全に避けきっているという状態でもなく、(いっ)(せん)(いっ)(せん)ごとに赤が飛び散っていた。でも軽傷。


 勝てそうかな? 素人目では優勢! 敵の数は多いけどこのまま時間を掛ければカリスくんが全員を倒してくれそうだ。

 と思った次の瞬間――、


 危ないっ! カリスくんの背後に突如人影が浮かびあがり、凶刃を突き刺す! ハッ、いない! ボクは自身の目を疑う。カリスくんは消えてしまったのだ。刺客はそのままの体勢で当惑しているように見えた。


「うぐわぁぁァッ!」


 その時叫びがボクの耳に届く。野太い声。刺客の物だ! うわっ、ボクの目と鼻の先じゃないか!? 一体いつの間に!

 血を流し倒れ伏す刺客の先にはカリスくんの姿! 一体全体どうなっているんだ!?


「やあ、危なかったね」


 いままさに人を殺したとは思えない柔らかな口調。軽い、軽すぎるよ命!

 カリスくんはニコッと微笑ほほえみ再び前方、刺客の集団へと駆け込んでいった。


 常軌を逸した展開にボクはついて行けない。これが異世界の戦闘なのか……。

 命が散っていくのは正直どうでもいい。殺したいとは思わないけどボクを狙ったんだから死んでしまえ! って気持ちすらある。ぶっちゃけ手を下すのが嫌なだけ。

 戸惑っているのは戦闘について。瞬間移動、魔法、たとえ死んでもボクを殺そうとする根性! マジついて行けない。


 それにしてもカリスくん。あなた、強大な魔力――魔法は使わないのかね。ライラさん何十人分の魔力が泣いているよ!

 手加減している様には見えない。しかし魔法を使う素振りも見せないのは余裕が無いのか、はたまた――。


 そんなことを考えているとカリスくんは刺客の一人の首をはねた。飛び散る血流を嫌ったのか、カリスくんは大きく後退する。そのすきを突いて刺客たちはボクに向かってナイフを投げつけてくる。おおぉぉぉいっ! カリスくん、何やってんおぉ!?

 ガキ――ンッ!

 弾かれるナイフ。さすがマジックバリアだ、何ともないぜっ!

 が、しかし、よくよく見てみると膜にうっすらとヒビが! うぉぉぉ、ヤベェ!

 ボクはそのヒビと刺客を直線上に位置しない場所へと少し移動する。


 再びライラさんに視線をやる。見るとライラさんは先程と同じ体勢を維持したままだ。けど顔をこちらに向けていることから状況は察しているに違いない。

 そのことからマジックバリアは一度解かなければ補修できないことが分かってしまう。


「ミヅキ! 張り直してる余裕はないわ! 持ちこたえなさい!」


 嫌なお墨付きまでもらってしまった。そんな言葉、聞きたくありませんでしたよ!

 持ちこたえろとは簡単に言いますけど、ボクにどうしろって言うんだ。現在何もしていないのはボクだけ。だからどうにか出来るのもやはりボクだけなのだ。マジックバリアは内側の攻撃は通すにしてもどうしたものか。

 前方を見ると剣を振るうカリスくん。左後ろを見れば杖に魔力をそそぐライラさん。そして状況にあたふたしているだけのボク――。

 うん、やはりボクを守れるのはボク自身しかいない。


 持っているスキルを確認する。

 攻撃スキルは【投石】のみ! ぶっちゃけ役に立たない。

 補助スキルは【甘言】と【誘惑】。ともに<美人局ハニートラッパー>のスキルだ。これも役に立ちそうもない。


 ――いや、そうでもないか? <遊び人>になったから効果は弱まっているとはいえ、精神判定スキルだし……通じるんじゃないか? 種族能力アビリティの【情欲刺激】も合わせれば十分発揮しそうな気もする。ただ問題は――敵味方問わずは頂けないよね。

 ボクにご執心なカリスくんが手を止めたら――。

 ……。うん、辞めよう。素人の手出しは逆に危険が生じるってね。せめてスキルの範囲指定が出来る様になるまでは封印しよう!

 ボクは【投石】に賭けることにした。


 小石を集めながらチラッと正面に視線を移す。おうおう、強いな。さすが勇者だ!

 カリスくんの剣は朱に染まり、数多くの命を奪っていた。足下には人影がいっぱい! よく邪魔にならないな。絶妙という足裁きでそれらを回避していた。

 死角から飛ばされるナイフをカリスくんは上手うまく避ける。まったく、よくもまあかわせるもんだ。それでいてボクに当たるコースのナイフは打ち落としてるんだから……。背中に目かそういうスキルでもあるのだろうか。


 それはともかくとして、どうやら刺客はカリスくんの隙を突くのを辞めたらしく、障害を排除してからボクを殺すことに変えたらしい。投げナイフの無駄遣いをしていることからそんな風に感じる。がんばれっ、カリスくん!

 そうと分かれば――。

 ボクは脇目もふらずせっせと小石を集める。へへんっ、もうナイフ来ないもんね。

 そしてボクは立ち上がり、ライラさんを見つめる。ライラさんはうなずいて来る。うん、ボクの意志を推奨しているようだ。


 さぁて、やるぞぉ! と思い、構えた――まではよかった。しかし、届きそうもない。前世においても無理そうなのに肉体レベルが劣化しているいまのボクには、到底カリスくんの援護をするのは不可能に感じられた。うぅむ、どうしたものか。


「きゃああああああっ!」


 ライラさんの悲鳴が聞こえた。見るとそこには黒服の男――刺客がライラさんに接近してマジックバリアを攻撃していた。やばいっ! そう思った刹那、ボクは迷いの全てを捨てて石を全力投球していた。が、大暴投! 石はあらぬ方に飛んでいく。

 ギャグマンガであれば『シーン』という効果音が現れるだろう。けど、これは現実であり、命のやり取りをする戦場。

 刺客はそんなことを考慮してくれるはずもなく、ただひたすら己の職務たるボクの抹殺に向けて、邪魔なライラさんの排除にご執心! と、そこでボクは気付く。【投石】使ってなかった――と。


「えいっ!」


 大きく振りかぶってもう一球。【投石】を使うという意識を込めた石は今度は狙い通り相手にぶつかっていく――こともなく、ぐ近くのライラさんのバリアにぶつかってカコーンと弾かれてしまった。


 ……。

 なかったことにしよう。うん、そうしよう!

 振りかぶってもう一球! ハズレ。えいっ! カコーン。えええいっ! ガツンッ! あ、あたった。五球――いや四球目にして漸く刺客の頭に突きささる。数打ちゃなんとやらだ。


「ぐっ!」


 石を頭に受けた刺客。苦悶くもんの声を出して体勢を崩したものの大きなダメージはない様に思える。しかしそれが命取りだった。

 ライラさんは杖を中腰に構え、隙だらけとなった胸元へと――突き出した。無謀な! そう思った――が、見ると先端が刺客の背中を貫通している。


「が、はっ……」


 ――()()(づえ)!? 何それ、かっこいい!


「来なさいっ!」


 叫ぶライラさんが杖を抜き出すと刺客は倒れ伏す。それに構わずライラさんは呪文を唱え始める。

 解けるマジックバリア。ボクはライラさんに向かって駆け出す! むろん石を持って。

 近くによると刺客の身体が目に映る。死体!? そう、心臓一突きだった。ライラさんは手応えを感じていたから次の行動に移っていたのだ。やるな、ライラさん!


「――シルブンバリア!」


 その声と共に暴風が巻き起こる。ボクとライラさんを中心として風の結界バリアが展開された。それに巻き込まれた刺客の死体は風の刃に刻まれながら何処どこかへと飛んでいってしまう。


 ――すごい威力だ……。


 風の精霊の力を込めたマジックバリアはもはや別の魔法にしか見えない。風は渦を巻いて視界を完全に塞いでいた。これならばナイフはおろか、簡単に接近はできまい。

 ――と、同時にボクは確信する。もはや危機は去ったと。


 やがて戦闘の音が途切れる。それからまもなくしてカリスくんの「終わったよ」という声がボクの耳に届く。

 ライラさんが魔法を解くとそこには以前と変わらぬままの姿のカリスくんの姿があった。


 こうして戦闘が終わった。終わってみればボクたちは無傷。ライラさんのバリアのおかげだ。カリスくんに至っては返り血一つ浴びないという無双っぷり。さすが<勇者>といったところだろうか。

 けど、その裏でボクの奮闘があったことをここに記しておく。たった一つの石が戦況を左右したということを。もしあのとき当たらねば、ライラさんのバリアは破壊され、そしてボク諸共もろとも殺されていただろう。

 つまり、ボクが完全勝利の(たて)(やく)(しゃ)だったのだ!






転生二三日目

ミヅキ「ドヤァ~」

ライラ「……まあ、いいわ。言いたいことはいっぱいあるけど、あなたも出来る範囲で頑張ってたみたいだし」

ミヅキ「ふふ~ん、ボクだってやるときはやるよ? 揺れた胸がちょっと痛かったけどね」

ライラ「やり過ぎた結果がこれでしょ……」

ミヅキ「それは言わないお約束。ボクは終わったことは振り返らない主義さ!」

カリス「あっははは、そうだね。ミヅキは頑張ったよ、うんうん。でもね、【甘言】を使って応援してくれれば、もうちょい速く片付けられたんだけどね……。普段以上の実力を発揮できるし、きっとライラのマジックバリアだって強度が増したはずだよ」

ミヅキ「ガ――ンッ! 選択肢を間違えていたのか!」

ライラ「……やっぱりミヅキはミヅキね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ