遊び人1話 職業勇者とは
ボクが転職を果たした<遊び人>は転職条件がなく誰でも就ける職業だ。子供の内に済ませるのは前述の通り。大人が就いていては後ろ指を指される様な職業にボクは就いていた。
まあ、ボクは数え年で1歳だから子供というより赤ちゃんも同然だけどね!
そんな初期職である<遊び人>にも職業スキルがある。【快食快眠】と【投石】だ。
【快食快眠】は以前に述べたので省略するが、【投石】は石を投げる時ちょっとだけ命中力が上がるというスキルだ。特に威力が上がることもなく、練習しても効果が増すこともない。アクションスキルってやつだ。熟練度があるスキルもあるがこれにはない。それを求めるならば【投擲】という職業スキルを得なければならない。【投石】はプラス補正が掛かるだけ、と言った方がいいだろうか。
なのでボクに防衛手段がないのは依然と変わらない。
限定スキルの『飲食半額』も、旅路とあっては全く役に立たないスキル。
つまるところ、旅路にあってボクは何の役にも立たないどころか足を引っ張ることしかできなかった。
ボク、ライラさん、カリスくんの三人はベイクヤード領の<ホリックワーカー>から隣の<ホーンデッド>という街に向けて行脚の最中だった。このままカリスくんの実家である王都に向かう道程だ。
やはりヒドイ名前だ。ここの領主は死の街を作るつもりなのだろうかと小一時間問い詰めてやりたい所だが、ボクとその領主は既に顔見知りだ。それも被害者と加害者という関係であって、既に顔を合わせることも出来ない間柄となっている。ちなみにボクが加害者だ、えっへん!
現在、徒歩での移動しているのはそれが原因ではあるのだけど――。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。ねぇ、疲れちゃった。そろそろ休憩しようよ」
早速根を上げているのはボクだ! <ホリックワーカー>から徒歩にして30分の場所(ボク換算)にて休息を訴えた。あまり距離は稼げていないがもう足を動かすにも億劫だった。
そんなボクに対し、ライラさんは腰に手を当てて怒り浸透のご様子でボクに言う。
「はぁ~。ミヅキ、あなたね! いまがどういう状況だか分かってるの? <暗殺者>よ! <暗殺者>! こう開けた所で襲ってくるとは思わないけど、先に回り込まれたらどうするつもりなの!」
ふぅ、やれやれだぜ。ライラさんはボクたちが徒歩だからって、相手も徒歩であると勘違いしているご様子。馬車に乗って先回ししてしまえばそれに限らないということをお忘れではないですか。まったく、もう少し年上の甲斐性を見せて欲しいものだ。隣に居るカリスくんはいまもなお、周囲に視線をやって状況把握を勤しんでいるというのに。
まあ、ボクが原因なのでそれを告げる様な真似はしない。有志で護衛してくれる人に難癖つける程ボクは子供じゃないし。
身体は子供……の様な何かで、頭脳は大人を志した少年。それがボクだ!
「ふっ、この辺りは大丈夫のようだよ。休憩しても平気だと私は断言出来るよ」
カリスくんは格好つけて金色の髪をふさぁっとする。ショートな髪はさらさらとしてやがては元の位置に戻った。素直でしなやかな髪質であるらしい。毛も一本一本が細く日射しと相まってキラキラと輝いていた。
まさに王子様。端正な顔立ちでその動作すらも絵になるようだった。
そしてライラさんに向き直りこう言う。
「ほら、ライラもそんなにピリピリする必要はないさ。何せ私がついているんだからね」
強気な調子のカリスくん。それも当然! カリスくんは<勇者>なのだから。
<勇者>は最上位職にして頼れるみんなのリーダー! 期待しているよカリスくん。キミがボクの生命線だ!
結局カリスくんの言葉を信じ、ライラさんも休憩することに賛同してくれた。
ここで最上位職について少し説明しておく。
最上位職は職業スキルという物が存在していない。あるのは職業限定スキル。ただ他の職業に比べその数が多い。まあ、習得条件が存在せず極めることが出来ない職業だから、なくても別に問題が無いともいえる。
<勇者>の場合は5つだ。『勇気』、『腕力上昇(中)』、『走力上昇(中)』、『体力上昇(中)』、『アイテムボックス』とどれも絶大な力を秘めている。
これらはどれも常時発動スキル。行動補正とも呼ばれるスキルで、才能とはまた少し違う。
――成長ではなく……プラスされるのだ。
『腕力上昇(中)』なんかは顕著かな? 何時もよりも20kg重たい物が持てる、って話。わざわざ【腕力向上】という職業スキル=才能を得て鍛えていかなくても力を発揮できるのだ。努力をしなくていいって素晴らしい!
『走力上昇(中)』と『体力上昇(中)』は同じ様な物なので説明は省く。
で、勇者の代名詞って感じの『勇気』だけど――。
これは<勇者>が絶望する状況で勇気を見せることで仲間を奮い立たせるという効果がある。効果が適応されたときは恐怖が打ち払われるらしい。麻薬みたいだね! まあ、エンドルフィンのようなものかな?
ここでミソなのは、<勇者>が、ってところかな? 仲間が脅威を感じても<勇者>が「俺? ああ、俺ならヨユー」と感じてしまえば効果は発揮されない。ぶっちゃけ力の差が激しいパーティだと危険かもしれない。ていうかボクたちのことだ!
なのでボクはカリスくんによくよく注意してくれと頼んだわけです。うん、作戦名は(ボクの)命を大事に、だね!
最後の『アイテムボックス』は便利と言えば便利。でも戦闘には役立たないんだよね。
無制限の収納空間を作り出す。それが『アイテムボックス』の効果だ。
これがあれば【ポケット】など必要ない。真面目に筋力トレーニングをしている商人たち涙目のスキルだ。
――と説明したけど、ここまで言えばもう分かってくれるよね?
ぶっちゃけ<勇者>の限定スキルは個人プレイ推奨なんだ。だからカリスくんは1対1なら強いかもしれないけど、集団で襲い掛かられたらボクはアウトな事に変わりない。
それをカリスくんに言ったら、他に習得出来ている職業のスキルがあるから大丈夫。それに【小隊編成】を使えば仲間の状況を互いに把握できるらしい。なので仲間がピンチだった場合は直ぐに対応可能とのこと。
でもね、カリスくん。ボクはそのピンチになる前に瞬殺されちゃうんだよね。そこんところどうなのかな?
で、カリスくんは言ったわけさ。
――【オーラ】を使えば私より弱い敵は近づいてこない。来ても私に注目してしまうから大丈夫さ、と。
ボクはそれを聞いて安心してしまった。が、このときのボクはどうやらカリスくんのもつパッシブスキル【カリスマ】に影響されてしまっていたらしいんだ。
あとで聞いた話だけど、この職業スキルは『言葉に何故か説得力が宿る』という物であった。無を有にする恐ろしいスキルだね。フェロモンとは大違いだ。
というかさ、勇者業じゃなくてもう商売でもしてろよって言いたくなる。
休憩を終えたあと、ボクたちは再び歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カキーン。
飛来した何かをカリスくんが剣で弾く。
一瞬のことだった。何かが宵闇の中で光ったと思った次の瞬間がこれだった。
「誰だっ!?」
カリスくんは声をあげる。
返答は――やはり光。速いっ! カリスくんは再び剣を上げることでそれを打ち落とした。
ボクは視線を下に向ける。ナイフだ! 地面に突き刺さっているそれが目に入った。カリスくんが弾かねばボクに当たっていたコースだった。
ちょっと聞いた話と違うんですけど?
「ライラァッ! ミヅキのフォローをっ! 攻撃は私が担当する!」
カリスくんは一方的に告げると勢いよく飛び出していった。
転生二三日目
ミヅキ「ぐぬぬぬ……」
ライラ「ミヅキ! 唸ってないで、近くにある石でも拾って援護して頂戴!」
※付録※
<遊び人>(基本職)
条件:なし
技能:【快食快眠】【投石】
限定:『飲食半額』
習得:【快食快眠】を一定数使用する。
備考:つべこべ言うなよ……。ほら、二倍食べてやるからさぁ。
『飲食半額』
効果:高級店以外での食事代が半額となる。
備考:子供は食べるのが仕事です。
【快食快眠】
効果:よく食べてよく寝るほど疲れが取れる。これがないと脂肪を蓄えられない。
備考:寝る子は育つ。ただし食べ過ぎ注意。
【投石】
効果:命中率がちょっとだけ上がる。特に威力は上がらない。
備考:技術などいらない。石を投げて敵を追い払おう!
ライラ「(また出たわ……)」
カリス「はっはっは! 私がみんなを守るぅ! 覚悟っ!」
ライラ「……まあ、戦闘中だしぃ? 気にしてられないってのもあるけど、何か反応が欲しかったわ……」




