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  閑話 とある被害者の会


 レイヤノルド王国のベイクヤード領にある都市<ホリックワーカー>にて、とある集団の会合がされようとしていた。

 この集団――結社は様々な国で発足されており、しかし各々が独立した組織でもあった。その名は――。


 <美人局ハニートラッパー>被害者の会


 そしてここに集うのは<ホリックワーカー>支部の連中。年齢、身分、種族、職業ジョブ、仕事の役割などに共通する物は見当たらない。むろん、ある程度は被ることはあったが偶然というで立ちであった。

 ただ彼らはとある一点に置いて共通項あった。それは――。美人にだまされて大枚をはたいて無価値な物を買ってしまったという点にある。

 皆、それに悔いており、ここにいるほとんどの者が暗い顔をしていた。まるで幸せなことなど何一つないかの様に……。


 ただ、その事は世間においてあまりおおっぴらに言えない事情があった。

 それはそうだろう。女にうつつを抜かしてお金を使い、挙げ句だまされたなど人前で言えるわけがない。当たり前のことだ。ましてや最高神<ワーカー>さまがお決めになった世の理だ。同情はされることはあれど、批難をしてしまえば信仰への侮辱、やがては教団を敵に回してしまうことになる。要はあまり関わりになりたくない事柄であったのだ。

 そういった連中が自然と集まり、秘密結社を作るのは自然の成り行きだったと言える。



 <美人局ハニートラッパー>被害者の会の活動内容は多岐にわたる。

 慰安旅行の計画、被害状況の確認、新たな脅威の出没、被害に遭わないための手段の模索およびそれを世間に認知させるための公聴会を開くなど……。


 その活動内容の一つ、慰安旅行は年に一度行われている。

 女に騙されて、しかもいいおもいができなかった。ならばその本懐を遂げるべく、旅行と言う名で各都市の娼館しょうかんを巡るという憂さ晴らしだった。

 本来清い行為にもかかわらず、秘密結社であり続けるのにはこの辺りに原因がある。そもそも彼らは騙されたことよりも、いい女を抱けなかったことに未練があるのだから……。

 つまり他の活動内容はダミーであった。


 ――想いを同じくした者ではっちゃけたい!


 それが創設した者のしんなる目的であり、これこそが団結を高めている一因でもあった。


 もちろん他の活動に真剣に取り組む者も当然ながら居る。そういった者は騙された挙げ句、生活が成り立たなくなった者たちだ。

 しかしそんな彼らでも慰安旅行には参加する。彼らだって聖人君子ではないのだからそれも当然だ。しかも慰安旅行は富裕層が出してくれるという。ならば行かないという手はないだろう。生活に必死な彼らだって年に一度は遊びたいのだから。




 本日、招集が掛けられたのはとある伯爵が入会するというものだった。そして重大発表を告げるという。

 当然、貴族身分に所属するものもこの中に入る。けど、よくて子爵クラスだ。さすがに伯爵ともなると、異常――というしかなかった。しかも領主なのだから騒然としてしまうのも無理もない状況だ。

 そんな会合の中に領主軍のとある部署に所属する<衛兵>ラーツの姿があった。


 ラーツはこれまでに<精鋭><盾士>をきわめており、<衛兵>を習得することによって<近衛兵>にステップアップすることを心がける青年だった。現在<ホリックワーカー>の門番に勤めること3年。あと2年で夢がかなうはずだった。

 しかし、いくら習得出来たとしても転職費用が賄えなければ職業ジョブを変えることは出来ない。


 ラーツはこれまで真面目に働き、コツコツとその資金を稼ごうとしていた。計算上では転職可能となる頃に費用の金貨5枚――50万マルクがまるはずであった。にもかかわらずラーツはハニートラップに掛かってしまう。

 被害総額にして45万マルク。買わされた物は盾。とある<勇者>が持っていたとされるミスリルの盾だ。この度、父親が冒険稼業を引退するので譲ってくれるという。


 ミスリルは魔法に親和性を示す。武器に使うなら魔法による強化がなされ、防具に使うなら魔法を吸収し、ある程度はじくという効果を発揮する。

 ラーツもミスリルに憧れがあった。だから転職資金として積み立ててた物を切り崩してでも欲しくなってしまった。しかし提示されたのは金貨20枚、買えるわけがなかった。


 そこで代わりに出されたのが次なる盾、魔物素材にミスリルをあしらった物だ。総ミスリル仕立てほどの魔法防御は持たないが、しかし素晴らしい物であることには違いない。

 提示されたのは金貨8枚だった。安い……! そう思った。でもそれでもなお届かない。

 いま思えば、あの美しい女性――<美人局ハニートラッパーはラーツがそんな金を持っていないことは承知の上だったと分かる。けれどあのときは真摯な、それも心をときめかせてしまうほどの美貌を持つ女性としか思えなかった。

 女性は続けて言った。


『ならこれは弟に貸し与えます。その代わりに父が弟に買え与えたミスリル盾をもらうのでそれならばどうですか? これより小さい物ですけど……」


 ――と。

 くと金額は45万マルク。買える金額だ! と思った。

 弟がいるなら最初から継がせるべきという考えはこの時点では抜けていた。自分のために親身になってくれているとその時は感じてしまった。これが【甘言】であったとは思いも寄らなかったのだ。

 そうしてラーツはその女性と契約書を交わす、本物を見ることもなく――。


 そして数日後にラーツの元に一つの盾が届いた。

 オモチャの盾だった。すごく凄く小さなミスリルの盾。貴族が買うという本物仕様のブリキが装備する様なそれは、とても人間が装備出来るはずもなく、ラーツにとってはゴミとしか言えない様な物であった。

 確かに言っていることはうそではなかった。しかし、誰が装備できない物を予想できるだろうか。その後、その女性が<美人局ハニートラッパー>だったと言うことが判明するが後の祭りだった。

 45万マルクを失い、残った物はゴミと……夢が遠ざかったという現実のみ。

 ラーツは人目もはばからず泣いた。声が涸れるまで何度も泣いた。


 確認を怠ったのが愚かだったと言われれば愚かなのだろう。けど、このまま黙って見ていることも出来なかった。そういった理由でラーツはこの『<美人局ハニートラッパー>被害者の会』の門をたたいたのだ。



 ――と、そんなことを考えていると、本日の主役メインキャストが登場した。

 ハルク・メリアード・マクシミリアン・ベイクヤード伯爵。<ホリックワーカー>だけでなく、ベイクヤード領の総領主たる伯爵様のお出ましだった。


 言ってみれば自分が使えている主人でもある。そんな伯爵までもがハニートラップに掛かってしまうとは――と、自分では対抗出来ないのも無理もないとこっそりと自分を慰めた。

 伯爵は中央に立ちそして声をあげる。


「この場に置いては礼儀は無用。皆、志を同じくする同志と聞く。ならば、知って貰いたい。私が願うことはそれだけだ」


 ゴクリ。誰かが生唾を飲んだ。

 静まりかえっていた空間に漂う緊張感。それが一層、事が重大だと感じさせられた。


「この地に新たなる脅威が誕生したと私は宣言する。名はミヅキ! この世の物とも思える美貌と肢体をもつ天女にして悪女! まるで<美人局ハニートラッパー>として生を受けてきた様な女だ!」


 ザワッ……ザワッ……


 騒然となる。先程までの静けさから一変、会場はこれでもかというほど喧噪けんそうに包まれた。


「静まれぇい!」


 伯爵の隣に位置する老齢の男性――<執事>だろうか?――が声を荒らげ一喝する。


「まだ伯爵さまの言葉の最中ぞ。黙って最後まで聞けぇい!」


 その声には有無を言わせぬ物があった。伯爵はそれに(おう)(よう)うなずき、場が静まりかえるのを待ってから続けた。


「どうやらこの場にも覚えのある者が居る様だな。無理もないことだ。あれは恐ろしい……。再び目の前に現れてハニートラップを仕掛けられても……また引っ掛かってしまいそうだ」


 何人かがその言葉にうなずいているのが見える。よほど恐ろしい人物に思える。

 ――と、そこで不意にラーツの頭にとある顔が浮かびあがる。あの女性――胸がぷるんぷるんとしてた、見たこともないほどの美貌を誇る女性の顔を。


「あの者を放置したとなれば……今後、我々の様な者が幾度となく憂き目にあることだろう。だからこそ私は決意した! あの美貌――たとえ人類の宝であっても抹殺するしかないと!」


 先程以上に会場が騒然とする。

 それも仕方のないことだとラーツは思う。いくらハニートラップに掛けられたとしても抹殺するとはさすがにやり過ぎに思えてしまう。<殺人者>に転職してしまうことも考えても『殺してやりたい』と決意する者は中々に居なかった。

 世間ではハニートラップをしたものに復讐ふくしゅうをする者が居ると伝わってはいるが、これは被害者の会が流した流言にすぎない。これがある程度の防犯につながっている反面、やり手の<美人局ハニートラッパー>の(かく)(みの)になってしまっているのが現状だ。

 にも拘わらず伯爵はやると宣言した。領主の立場にあるものが、だ。 その決意たるは凄まじいの一言としか言いようがない。


 伯爵は手をパンパンと打ち鳴らし、再び自身に注目を集める。


「皆が心配してくれるのは有り難い。しかし、何も私自らが復讐する……いや、芽を摘み取るということではない」


 ――ならどうやって?

 そう思ったのはラーツだけではなかった。しかし伯爵の隣に控える老人の目が光り、誰も声にすることはなく伯爵の言葉を待つことにした。


「実はだな……この<ホリックワーカー>にはとある組織がある。これは国の暗部であり秘密だ。守れないと思うもの者は、済まないがここから退席して貰いたい。60ほど待つ」


 伯爵は厳かに言い放つ。伯爵がここまで言うのだから、もしそれを守れなかった場合は――。

 しかしこの場において席を立つ者は誰もいない。被害者の会の結束力は絶対であり、誰かが「秘密にしてくれ」と言ったら絶対に口を割ることはない。たとえ拷問に掛けられたとしても話す事はないだろう。それだけの身内意識で統一されていたのだ。


 伯爵はしばし時を数え、そして――。


「よろしい! ならば告げよう! 勇気ある者たちよ、このホリックワーカーには暗殺ギルドがある!」


 ――ギルド

 国が認めなければ結成されることはない秘密結社の最高峰。数多くある商会や組合とは違い教団から認知されていない、国のためだけの組織。


 それがこのホリックワーカーにある。先代の領主がこの街を作ったとき王に打診されて誘致したという。

 驚きの事実だった。おそらくこの場に居る者のほとんどが知らなかった事実だろう。しかも<暗殺者>のための組織――。


「私はこれに依頼を願い、そして受け入れられた。故に近い将来、ミヅキはこのホリックワーカーから姿を消すことになうだろう!」


『おぉぉぉおおおおっ!』


 その言葉は皆を歓喜させる。

 こうしてこの度の会合は拍手と共に歓声で賞賛させられて終わりを告げた。






転生二四日目

ミヅキ「やばっ……! フラグ立てちゃったみたい」

ベイクヤード『へたくそ』伯爵「ぐぬぬぬ! よくも『へたくそ』などと……! おかげでウチの女にへたくそと呼ばれる始末。この恨みはらさでおくべきかあああァッ!」

ミヅキ「そんなの知らないね、ボクは未来さきに行く……!」

ライラ「たまには過去むかしを振り返って反省してちょうだい……」

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