美人局7話 ミヅキ育成ゲーム
「ボクを育ててみないかな?」
「え?」
カリスくんはきょとんとした顔でボクを見つめる。――まあ、分かるんだけどね。ボク自身でもいきなり何言ってんの、コイツって感じだし。
「カリスくん、はっきり言うとボクはモテる。これはカリスくんの様な凄い人に熱望されるくらいだから分かってくれると思う。ただね、厄介な人にも惚れられちゃったんだよね。死ぬか妾になるかを要求されちゃって、ちょっと困ってるんだ」
おべっかを使って義憤を煽るように持って行く。
「まあ、よく聞く話だよね、ここまでは。でね、ここからが肝心なんだけどボク――始祖なんだ。それも生まれたてのね」
「――っ」
目を開きボクを見つめるカリスくん。ボクは時間もないのでカリスの心情を無視して続ける。
「だから死ぬわけにもいかないんだ。子供を作ると身動き出来なくなるしね、安易に身体を任せるわけにはいかないんだよ」
「それは……確かに。始祖の役割は……」
先程まで放っていた子犬オーラから気配を一変。カリスくんは隙のない様子で周囲を窺い始める。恐らくボクが命を狙われているという話を真面目に受け取ったんだろう。
ホッと息を吐き、視線を戻してきたところでボクは続ける。
「さっき生まれたてって言ったよね。だからボクはまだ<遊び人>にもなっていないんだよね。あとごめんなさい。先に謝っておくね」
何の事か分からずに首を傾げるカリスくんにボクは先日の――モニュメントを売ったときのことを正直に話した。とはいえ、金は返すつもりはない。これは歴としたボクの稼ぎであり、<ワーカー>さんから認められた仕事で得た物なのだから。
でも、育成費用として返すことは吝かではないかな。ボクだって恥知らずじゃないしね。まあ、言われなきゃ返さないけど。
もちろん、ボクを狙っている領主――伯爵にハニートラップを仕掛けたことは言っていない。敢えて言う必要もないし、ライラさんの妄想って線も否めないからね。もし誤解だった場合、名誉毀損で今度こそ本当に<暗殺者>を送られてしまうし。
カリスくんは笑ってボクの所行を許す。
「ああ、構わないよあれくらい。ふっ、私にとってはあの程度端金に過ぎないしね。あれはキミに捧げた物だ。とっておき給え」
男だ。いや漢! 漢がいる! カリスくんは大きな懐を持っているようだ。髪をフサァっと格好つけてる所とかはマイナスだけど、実にイイ! 実にボク好みの展開となってきた。
「そう、有り難うカリスくん。それじゃ話を戻すね。ノカリスくんたちのおかげというか犠牲のもとに<美人局>は習得できたので、これから<遊び人>になる予定。ここまではいいよね」
カリスくんが頷くなり、ボクは続けた。
「それでね、ボクは始祖なんだけど……生まれたときから心に刻まれてることがあるんだ」
「……聞いたことがあるわ。確か始祖は世界を発展させるために最高神<ワーカー>に知識を植え込まれると」
「ああ、そうだね。確かそういう逸話があったはずだ」
……なんて都合のいい始祖設定だ。もしかすると始祖はすべからくボクと同じ様な存在なのかも。
それはともかくとして、「それで変な事知ってたのね」とかは余計なお世話だと言いたい、ライラさん。もう少しカリスくんのように鷹揚に構えていて欲しいかな。
ボクは二人が黙るまで声を潜め、そして更に話を進める。
「――なら話が早いかな。ボクの中にある決まり――伴侶を決める上で『これをしなければいけない』ってのがあったんだよね」
ゴクリと頷くカリスくん。ライラさんはどうでも良さそうにしている。ねえ、ライラさん。段々とボクの扱いが酷くなってきたよね。甘えてね、なんて言ってたくせに。
まあ、いい。続けよう……。
「――その名も『恋愛シミュレーションゲーム』」
「「恋愛シミュレーションゲームぅ?」」
「そう、『恋愛シミュレーションゲーム』。ボクに求婚したい人はまずこれしなくてはいけない決まりみたいなんだ。ボクを育成していく過程でボクの心を掴まないといけないらしい」
見回すとイマイチ理解出来ないのか二人は首をかしげていた。まあ、漠然とし過ぎた説明だったしそれもそうか。
なのでボクは補足する。
「つまるところ、一緒に生活して心が許し合えばいいよ、ってことかな。そのついでにボクを確固とした存在に育て上げなければボクに相応しくないってこと」
「ああ、そういうことか」
カリスくんは納得のご様子。ライラさんは――。うん、見なかったことにしよう!
「でも、ただ一緒に暮らすだけではボクの心は(満たされないので)動かないし、育成に失敗してしまうとボクは死んでしまうってことも忘れないでね。もちろん無理に迫ってボク(の心)は死んでしまう」
やはりライラさんは疑わしそうにボクを見つめている。まあ、そうだよね。護衛として雇いに来ていきなりこんな話をしてるんだもの。というか、職業も知らなかったのに『何よ、その設定!』みたいな表情は止めて欲しい。カリスくんに気付かれちゃうじゃない! ライラさん、是非ボクの安寧と自身の安全のためにもご協力お願いしますよ、ホントに……。
「で、ここで重要なのは――ロックされてみるたいなんだよね、ボクの心。『惚れる』という感情の一部が麻痺してるらしい。特定条件――とある職業をボクが習得する――を満たせばそれが解除され、真に結ばれる。これは挑戦者によって職業が変わるみたい……かな?」
まあ、神様による暇つぶしのゲーム、それがボクみたいだ――と言って締めくくる。
神さま――<ワーカー>さんをも恐れぬ所行、さすがボク。即興で考えたにしては悪くない気がする。
ライラさん以外は正直……言ってることは正しいと思い込んでしまうかもしれない。それと事情を知ってるクレトマスも。
ちなみに当たり職業がないところが鬼畜……というかクソゲー仕様。もうね、自分で考えておいて極悪だよ。さて、ここで決め台詞!
「ボクとゲームして番になってよ」
上目遣い。カリスくんにこの想い、願いよ届け――と。
ズキュ――ンッと銃に打たれたように大きく後退るカリスくん。その様子からしてNOといえる活力は無いように思えた。
こうしてボクたちの旅の共にカリスくんが加わった。
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カリス・F・ジャスティン。それがカリスくんの正式名称だった。
ジャスティン家。ライラさんによるとカリスくんはこの国――レイヤノルド王国の王族であるらしく、聞くと共に仰天して無様を晒していた。ボクにしてみれば「へぇー」としか。
一応ながらカリスくんに「態度、改めた方がいい?」って訊いたら、身分はともかくとして自然学的にはボクの方が偉いらしい。それほどでもない。まあ、ボク始祖だしぃ? 種の頂点である(極めれば神に至る!)以上、なるほどもっともなことである。なので、ボクは今まで通り接することにする。その方がカリスくんも嬉しそうだしね。
ちなみに、王族が何故あんなこぢんまりとした所に住んでいたかというと――。
あの邸宅はフリューベル家の別荘、つまりカリスくんのお母さんの実家が所持している建物だった。フリューベル家は子爵位、貴族としてはぶっちゃけ大した事のない家柄だ。なのでボクはカリスくんは側室が産んだ子、あるいは不義の子だと勝手に推測している。
カリスくんは<勇者>として疲れたのであそこで静養していたという。おお、勇者よ! 疲れてしまうとはなんと情けない――なんてならないのは王様が父親故だろうか。
まあ、そんなことを言う王様であったならば、ボクは謀反を勧めるね。下克上上等! そしてボクは仮面夫婦の寵姫として悠々自適な生活を送っていく。うぅむ、なんだかいい考えに思えてきたぞ。
ボクたちはあの後に『転職神殿』へ赴いて<遊び人>へと転職を果たしていた。
転職に掛かるお布施は1,000マルク、転職可能リストを調べて貰うのに100マルク。銀貨1枚と銅貨10枚を教団に収めないといけなかった。
むろん、お釣りはないのできっかり渡さなければならない。大金を手に入れたとしても倹約は重要だよね。使うときべきに使うのがお金持ちであって、むやみやたらに使うのはただのバカの極みだし……。
――おお、神よ! 敬虔たるしもべにして迷える子羊、ミヅキに職業の適正を知らし給え。
――おお、神よ! 敬虔たるしもべにして迷える子羊、ミヅキに神秘石が刻みし<遊び人>の職業を与えた給え。
やることは神秘石を持ち、クレトマスさんが像に向かって祈るのを待つだけだった。
最初の祈りで神秘石にボクの転職可能リストが表示され、次はボクがなりたい職業をクレトマスさんに告げて、それに対して祈って貰った。ここで重要なのは――転職条件を満たして可能だったとしても神秘石に刻まれていないと不可能だということ。ようするに毎回お布施を払えってこと! さすが宗教!
でも、それは仕方ないことなのかもしれない。
転職と共に神秘石が光を放つと共に砕け散り、その光がボクを包み込んだ! これにて転職完了……ってことなのだろう。悔しいけど、納得せざるを得ない内容だ。
だが強欲はまだ止まらない。
これはあくまで<遊び人>および共通職1次職――<戦士><学徒><運び屋>および<解体屋>においてのお布施である。
共通2次職の上位職に転職する場合は桁が一つ上がり銀貨10枚、その上の共通3次職および共通2次複合職に至っては金貨1枚を必要とする。
また共通1次職を複数必要とする複合1次職の場合は5倍――銀貨5枚で、その上だとやはり桁が一つ上がり、複合2次職ならびに複合派生職は銀貨50枚を払わねばならない。
特殊職に至っては各々の職業によってまちまちだ。
それらの上に位置する上級1次職、上級2次職は金貨5枚と50枚。正直庶民だと不可能じゃないかな? そして究極たる職業――最上位職に至ってはなんと金貨1,000枚! 1億マルクだ! 大金貨100枚にして精霊貨2枚なんだよっ! もうバカなんじゃないかな。
カリスくんの<勇者>も最上位職だ。なので、カリスくんがあの程度は端金と言っていたのも頷けてしまう。
ボクが考えるに――。最上位職までいくのには身分……といか実家の支援が必須だと感じてしまう。それ以外だと<美人局>のように法の隙を突いて荒稼ぎするか、あるいは商人で真っ当に稼いでから目指すしかない。ここでいう商人は<商人>ではなく商売人のこと。まあ、結局イコールかもしれないけど。
しかし<商人>など遠回りをした場合は、無為に時間を消費し、なりたい職業に就けないのではないかと思えてしまう。人は――無限には生きられないのだから。
ただし、ボクは除く。始祖だしね! 不老で寿命とかないんだぞ、へへんっ!
種族によっては長生きする者もいたりするし、種族階級が上がることで伸びたりもする。けど普人族だけは何故か通常種しかいないし、寿命も長く生きて100年。身体が真っ当に動くのも50年と短い。
ちなみに神は各種族につき1柱だけで、普人族は神化済みだ。早い者勝ちってやつ。しかも優先権は始祖にある。つまり選ばれた存在ってやつだ、ボクは!
その辺も考えると戦闘が絡む職業はやはり生まれの力が大きいのだろう。だからカリスくんも実家の力で<勇者>になったんだろうとボクは見ている。
そんな高額の転職費用だが、教団関係に関わる職業は無料となっている。当然、『神殿』に携わることが条件だが――。
まあ、聞く話によるとその業務が習得条件になっているらしいし、実際は無償ってことになるのだろう。汚いな、宗教。さすが汚い!
転生二三日目
ミヅキ「もっとボク育てマイ天使! イ、ェーイ。ドンドンパチパチ」
ライラ・カリス「「…………」」
ミヅキ「それはさておき、教団関係職業に転職する人でも、神秘石に刻むのは別途料金が発生するのが救いかな?」
カリス「ふっ、ミヅキ、そんな些細なことは気にしなくてもいいと思うよ。私がいるしね。それに職業の習得条件を満たすために戦ったりしてお金も増えるから」
ライラ「あら? カリスさま。あなた、自分で稼いだの?」
カリス「呼び捨てで構わないよ。これから共に旅をする仲間じゃないか。……費用は冒険で稼いださ」
ミヅキ「費用は?」
カリス「うん……まぁ、他は違うんだよ。心配したお父さまに護衛とか付けられてね。それで人海戦術で条件を満たしたこともある」
ミヅキ「え……と、習得条件とか他者に伝えられないんじゃないの?」
カリス「ああ、それはねミヅキ、直接的な伝聞が駄目なだけで、こういった行動をして転職出来た……というのは可能なんだよ。もちろん全部の行動が書かれているから効率的……とは言えないけどね。それに沿った行動を追従させれば問題ないということになる。私の家にはそういう日記が山程あるから。まあ、記録とも言うがね」




