美人局5話 女神が愛した壺
注)今回の話は他人からお金を巻き上げるので、不快と思う方はスルー推奨です。
本作品は美人局といいつつも現実のように怖いお兄さんは出来てきませんので悪しからず。
巨大な建物――ヨーク商会ホリックワーカー支部の扉を潜ると、そこにはカウンターでお辞儀する綺麗な女の子! 分かってますねここの責任者! 客をお出迎えするという心映えがボクに伝わってきた。
白亜に輝く石床はきちんと研磨されており、少しも歪なところは見受けられない。街の顔である大通りですらここまでの物ではなかったのによくもまあという感じだ。塵一つ残しておらずそこからも気合いの入れようが窺える。
整頓された椅子には順番を待っているらしき人々。各々が近くの人と会話して喧噪に拍車をかけている。もう少し静かにできないものか、ガキでもあるまいし。
と、見回していると近くにいる、堅い感じの女性が話しかけてきた。うん、キャリアウーマンみたいだ。
「本日アポイントメントをされている、ミヅキさま……でよろしいですね?」
「はい、ボクがミヅキです」
そうなのだ。ボクはこの日のためにここの補佐役という人物にアポを入れていたんだ。どうやらお姉さんはボクが来るのを見越して待っていてくれた様子。ううむ、出来る……やはりキャリアウーマンで間違いない。
「では、こちらへどうぞ」
ボクはお姉さんに奥へと連れられた。
階段を上って角を二度程曲がった所にそこはあった。
支部長補佐
と、書かれた場所がボクの目的地だった。
お姉さんがノックして中に入り伺いを立てると、「どうぞ」という声と共にボクは室内にお邪魔する。
正面には大きなデスクをボクと挟んで、向かいにボンバーヘッドの中年のおっさんがいた。おい、ここでもかっ! ――と声を出さなかったボクを褒めていただきたい。が、作った笑みにヒビが生えてしまったようだ。
流行っているとは聞いたけど、かなりフォーマルな髪型なのかもな。こんな肩書きのおっさんがしてるくらいだし……。実に嫌な流行だな!
お姉さんがお辞儀して出て行ったのを見届けると、補佐役は声を掛けてきた。
「よくいらしてくれた。私はここの<支部長>補佐役を務めている<銀行員>のマモーンだ。今日はいい商談になることを願っている。で、先程顔をしかめたようだが……何か気に障る事でも?」
ボクが表情を崩した所もチェックしていたのか。マモーン氏はボクとは違い、完璧に作り笑顔を物にしている。さすがは補佐役……と、ここは褒めておく。並ならぬ相手のようだ。初戦は敗れてしまったと判断しよう。
にしても、商会員なのに<銀行員>とは……。
続いて二回戦――。
「いえ、気に障る……とまではいかないのですが、この部屋は補佐役……という役職の方には相応しくないかな……と思いまして。具体的には飾り物など」
「あっはっは、これは一本取られましたな。ですが、ここは本来客をもてなす場所ではありませんからな」
ボクが殺風景な部屋を指摘すると、マモーン氏は笑って受け流した。しかし言葉には毒が孕んでる。お前なんぞにもてなしなど不要だ――と。何が一本取られただ。
うむむ……引き分け……ってのも苦しいか。舌戦でも勝てそうにない。
最初から勝てないことは分かってた。でも交渉は職業スキルがないという話を聞いたので、もしかしたら……と思ったのだ。だから経験を積む意味で挑んだだけで……別に悔しくなんて、悔しくなんてないんだからね!
ボクは気持ちを切り替え、意図して<美人局>の職業スキルを活性化させる。と、同時にアルカイックスマイルからおねだりをするようなあざとい物に笑顔を変える。
「そう、ですか……。それは残念です。せっかくいい物をお持ちしましたのに……」
そう言って抱えてる白い包みをチラ見して撫でる。
「む……。そういった意味で言ったのではありません。まあ、とにかく拝見しましょう」
マモーン氏が近くに寄るようにボクを促すと、ボクは頷き、ゆっくりと胸を揺さぶるようにして歩く。うわぁ……自分でやっておいてなんだけど、これ頭の悪い女がやるような歩き方だわ。
デスクに近寄ると白い包みをその上に乗せるようにして……むにょん……失敗した。わざとだ! ボクの胸に当たるようにして持ち上がらない振りをした。おっぱいがちょっと痛かった。グスン。
マモーン氏の顔を見ると未だ笑顔が張り付いている――が、鼻下が完全に伸びきっており、返ってエロい表情を浮かべてしまっている。ボンバーヘットと相まって、放送事故と称してモザイクを掛けてしまいたい面だった。いくらやり手でもエロはエロ。男はエロには勝てないのだ!
そこにトドメとばかり上目遣いでお願いする。
「あのぅ、申し訳ないのですがぁ、ボクの力だと持ち上がらないみたいでぇ、よろしかったらぁ、手伝って頂けませんかぁ?」
「あ? ああ……。構わんよ、それくらい」
ボクの胸を見続けていて気もそぞろといったマモーン氏にお願いすると、デスクを迂回してボクの背後に回ってきた。
む、いけないっ! このままでは後ろから抱きかかえられ、偶然と称しておっぱいを触られる未来図が予想できてしまった。さすがにそこまではサービスする気にはなれない。なのでボクは、振り向いてマモーン氏に相対し手を重ねるようにして手荷物を渡した。
少し残念そうにしてたマモーン氏。けどボクが胸の谷間を見せつけるようなお辞儀をしたらモザイク推奨顔へと戻っていた。
――にしても揺れすぎ。やっぱりブラジャーを何とかしなくてはいけないな。ノーブラとかサービスしすぎだよね? ちなみにこの街にはなかった! だからボクは生まれたまま姿でここに臨んでいる、といっても裸じゃないよ。黒と赤の色で設えたあの服を着てきている。
あの服は<始祖の服>という神造製であるそうで、<清潔>および<固定化>という神のみが使える魔法が付与されている。また、かなりの防御力を秘めているらしい。使い手に合わせるように成長することもあって、これ一着で死ぬまで防具を買い換える必要が無いという性能付き! パンツも同様だ。
ちなみに<清潔>は服自体だけでなく着用者の汚れ落としてくれて、<固定化>は破壊不能属性および使用者制限を掛ける魔法のようだ。つまりボク専用アイテムって訳さ。他の者は装備することも出来ないし、盗まれてもボクの元に返ってくるという理不尽仕様で出来ている。さすがは神が作っただけのことはあるね。お風呂に入らなくても不快に感じなかったのはこれに理由があったみたいだ、ラッキーって感じ。
ただ、カバンは一般的な物であるらしく、そこまでは特別仕様でないらしい。
――と、まあ、余談になってしまったが、ボクの言いたかったことは分かってくれると思う。ようするにブラジャーを用意してくれなかった<ワーカー>さん(推定)はエロ親爺に違いない、ここまで用意して何故? と。
で、現在ボクの揺れる胸にご執心のマモーン氏は――。
「そ、それじゃ見せてくれるかな」
ゴクリと生唾を飲み込み、やはり胸を見つめていた。脱げ――と? 何言ってんだ、このおっさんは。
ボクはそれを気にせず白い包みを解いていった。
姿を現す木箱。それの蓋を開けて出てくる物は――白磁の陶器だ。艶めかしいラインに入る線が絶妙な味を醸し出していた。まるで乱暴に扱ったら壊れてしまう少女のように。
ボクはそれを丁寧に取り出しマモーン氏の前に押し出した、胸に谷間を作るようにして。
刹那、先程以上に感じる、胸への熱い視線。マモーン氏は取引たる商品よりもボクのおっぱいに釘付けだ。実にチョロい。
「この壺はとある時代の迷工が作り出した傑作中の傑作。名を『<少女への追憶>壊れるまで抱きしめて』といい、砕け落ちる瞬間がもっとも美しくなるという作品です。同型の『<少女への追憶>儚い夢の果てに』は神(になる予定のボク)もその散りざまに圧倒され、ただため息をついたとか」
そうなのだ。最初にあった壺は割れてしまったのだ。で、代わりに似たような壺を持ってきたのだけど、少し大きさが小さくなってしまっていて、さすがに金貨2枚というのもどうかと……思ったのだけど――、
「お……ぉぉ、確かに抱きしめたら……ごくりっ」
ボクを脳内でめちゃくちゃにするのに忙しく、ぶっちゃけ壺など見ちゃ居ない。まあ、計算取りなんだけど、ね。
「今ならこの壺、300マ……と言いたい所ですけど、今ならなんと! 50万マルクで、どうでしょう?」
さりげなく値上げする。300マルクを50万マルクに……もうバカかと。
『ルク』を省略したけど別にいいよね? 何も悪いことなどしていないし。
ちなみに胸を張って強調しているぞ! もう開き直りの精神だ!
「マモーン氏ほどの方ならこの良さが分かると思います。どうでしょう?」
と、そこで勢いよく上体を起こし、おっぱいを揺らすことを心がける。
追従するマモーン氏の視線。ボクは事が上手くいっていることに安堵する。が、しかしここで気を抜いてしまうわけにはいかない。ボクはフィニッシュを決めるべくマモーン氏へと近づいた。そして――、
「ねぇ、かってぇ~ん」
と腕に抱きついた。
「ぉおう。うん、そうだな! そうしよう。こ、これは私に相応しい物だ。買おう。是非買わせて貰おう」
よっしゃぁあああ! ――と、いけないいけない。言質ではまだダメ。ボクはニコニコ現金払い。掛け、ツケもノーセンキューさ。
ボクは胸の谷間から契約書をとりだす。昔はこんな事……ちょ、アホか!? と思ったけど、もうぶっ飛んだ行為は今更だ。多少の恥ずかしさはあるけど、それも【誘惑】へのスパイスの一つとなる。
この契約書はヨーク商会の正式な物であり、ここに来る前にライラさんに入手して貰い、それをボクが受け取っていた。だからこれにサインした時点でマモーン氏はゲームオーバー。
それをマモーン氏の前に置き、ボクの両手で彼の腕を契約書の前に持って行く。「さあ」と耳元で囁き、意志を促した。
「――【記述】」
マモーン氏は力ある言葉を呟く。職業スキル発動の言葉だ。むろん、声に出す必要はないが、低下したマモーン氏の思考では口に出さなければ発動出来なかったのだろう。
ここに一つの契約書が完了した。
売買契約書
品名 壺『<少女への追憶>壊れるまで抱きしめて』
価格 500,000
ヨーク商会<会頭>の名の下に、以下の者は上記で書かれている契約をここに承認する。印
販売者 ミヅキ 印 購入者 マモーン 印
マモーン氏が【記述】で記入したのは価格、購入者およびその隣の印に商会員として自身を表すマーク。ボクがあらかじめ用意していたのは品名と販売者とその隣の印字に母音だ。そしてヨーク商会の印には判子が押されている。
これにて契約はなった。もはやこの契約を破談することは出来ない。もしそんなことをしてしまえば商会員としての信用を失うだけでなく、ヨーク商会の<会頭>を敵に回してしまう。
この契約書の原書は『神殿』の機能を使い、神の力の一部が記録されており、それを職業スキルで複製したのがこれだ。なので、契約書を破ったり破談しようとしたりした瞬間、『神殿』に伝わってしまう。で、『指名手配』され、強制的に<賊徒>に転職してしまうわけだ。
つまるところ、<賊徒>になりたくなければマモーン氏は金貨5枚、ボクに払わなければならない。でもまあ、そんなことにはならないけどね。この契約書をこの建物の一階カウンターに持って行けば彼の口座から下ろされることになるし。TheEndってわけさ。
最終ラウンド、カウンターでボクのKO勝ち! イェーィッ!
マモーン氏には是非とも壺に込めた祈りの通り壊して欲しいね。まあ、証拠隠滅とならなくても合法なのでバレても問題ないけど。そもそも嘘は何一つついてないしね!
ボクは彼に【吸魔】を使い、その場を後にした。
転生一五日目
ミヅキ「【吸魔】便利、マジ便利」
ライラ「(……た、たしかに……気持ちいいけど……)」
ミヅキ「何か言った? ボクが言ってるのは魔力を持ってない人に使うと気絶させられるから便利ってことだよ。ただまあ、その瞬間すごい絶頂を迎えることになるらしいけど」
ライラ「(絶頂して気を失う? ああ、あれは気持ちよかった……。あれって、魔力が空になった証拠だったのね)」
ミヅキ「だからマモーン氏は起きてまずパンツの交換をしなくちゃいけないね(ゲス顔)」
※付録※
銀行員(複合派生職)
条件:商人・従僕
技能:【記述】
限定:『笑顔』『損失見極』
習得:3年間勤める。
備考:このまま右下がりが続くと……。
『笑顔』
効果:心情はどうであれ常に笑っていられる。
備考:(ちょっと何よ、こいつ……胸ばかりみて……。ああぁぁぁ! キモイのよ。どこかで死なないかな)
『損失見極』
効果:赤字になった原因が分かる。
備考:ぷぷっ、分かるだけでどうにも出来ねぇでやんの。もう手遅れだよ!
【記述】
効果:用紙の必要要項を埋める。
備考:契約書はよく呼んでからサインしろ。記入してからではもうどうにもならんぞ。
ライラ「ねえ、また何か出たよ?」
ミヅキ「放置で。きっと構って欲しいんでしょ? こういうのは放置してやるのが一番効くんだよ」
ライラ「あなた……本当に性格悪いわね」
ミヅキ「えっ? ボクは天使だよ」




