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美人局4話 鬼畜にはなれない、ボク天使だから……



 昨日、慰謝料として受け取ったのは銀貨8枚で8,000マルク。そして『神殿』でライラさんが払ってくれたのが銅貨5枚で50マルク。で、ボクが最初から持っていた金貨は10枚で100万マルクだった。

 『神殿』も、宿としての役割を果たす民家と同様におつりは返ってこないので、ボクがあの時、金貨1枚を出したとしたら10万マルク弱の損失だったという訳で……。ライラさんには足を向けて眠れないな。


 ちなみにだが、最小単位としての1マルクは灰魔石という雑魚魔物の身体の中にある魔力を含んだ石である。ぶっちゃけ魔力がスカスカのクズ石だ。1マルクだしな。

 で、それが10個で銅貨1枚と交換が出来る。

 そして銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨5枚で白魔石1つ、白魔石2つで大銀貨1枚、大銀貨10枚で金貨1枚。その先は黒魔石、大金貨、魔結晶、精霊貨と続く。


 白魔石、黒魔石、魔結晶はクズ石ならぬ灰魔石と同様に魔物から入手する魔石だ。魔物は必ず体内に魔石を持っており、身に宿す魔力が強ければ強い程、落とす魔石の種類が変わるのだ。そして灰から白、白から黒と変わるごとに強さの壁が一変する。魔結晶ともなると最上位職で固めたパーティで討伐するような魔物でしか手に入ることはない。

 まあ、入手法なんて知っても、推定ガキンチョより弱いボクには関係のない話である。


 何故なぜいきなりお金の話をしたのかというと――。

 お金を使ったからな訳で。つぼ、絵画、そしてよく分からない謎な物を買い回るとき金貨を使用していた。


 慰謝料としてもらった銀貨もあったが、ボクはそれを使わなかった。

 小銭(という程でもないが)はあると便利だし? 庶民でしかないボクにとっては金貨は少し大きすぎる単位なのだ。15マルクの串焼きを買うのに10万マルク差し出すバカとか正直ね、ボクは拳で抗議してもいいとすら思っている。


 換金所を利用するのも無料ただじゃないから、ボクだって出来うるならばやってしまいたいし、その気持ちも十分に分かる――が、余所よそでやれ。お前、入る店間違えてんぞ! と言ってやりたい。

 ボクのおもいはどうであれ、金貨を使うならせめて『これで買える物を全部くれ(キリッ』くらいはやって欲しいところである。



 ボクは目の前にある多種多様な物品に目を向ける。


 至る所にヒビが生えている花瓶、素人が書き殴ったとしか思えない絵(?)、粘土を適当に固めて焼いただけの謎なモニュメントなどなど……。

 中にはまともな物も混ざってはいるけど大抵はぶっちゃけゴミの様な物で(というかゴミだ)、ボクとライラさんの部屋は山となりあふれていた。これ、全部昨日買った物なんだよね、3万マルクで。端数はボクの色気でまけさせた、具体的には8321マルク程。ホントバカだよね、男って。クスッ。


 で、こんなくだらない物を何のために買ったかというと、もちろん! 衝動買いではない。お金に換えるための物、ハニートラップを仕掛けて売るための物品だ。


 見てよこの壺! このひび割れ具合が実に味を出しているでしょ? たくみの技としか思えないよね!

  この壺の仕入れは43マルク。新品なら220マルクってところ。まあ、ゴミだし……ぼったくりもいい価格だったんだけど、コイツを20万マルク――金貨2枚で売ろうと思ってるんだよね。すごいでしょ?


 それでこっちの絵はね……とある神様(になる予定の始祖)が絶賛した名画ってことで売り出すつもり。これは(ほお)をツンツンしてもらった物なんだけど、53万マルクでどうかな? って思っている。私の絵画は53万です……な~んてね。


 でねでね、こっちのモニュメントなんかはゴミ捨て場に捨ててあった物がなんと! 200万に化ける予定だ。わずかな時間、絶世の美女をとりこに出来る効果があるという。主に金銭のやり取りの合間だけね……ニヤッ。

 他にもまだまだ売りつける予定の物が山程ある。全てを売れるとは思わないが、ここで当面の(10年くらい遊んで暮らせる)生活費を稼ぎ、職業ジョブの習得に励む予定となっている。


 これの計画を立てたのはライラさん。やっぱり女って怖いよね。男がバカなだけかもしれないけど。まあ、これが上手うまくいってもいかなくともボクはこの街に住めなくなるだろう、恨まれることになるだろうし。いや、元から住むつもりもないけど。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 発散するボクの淫乱オーラ。それが街を浸透していくと同時に、『悪のフェロモン』で強欲なる者たち獲物をおびき寄せるべく精力的に<ホリックワーカー>を練り歩いていた。

 ライラさんは離れてボクを護衛している。習得している職業ジョブスキルからしてその方が有用なのと、獲物の見極めをお願いした形だ。


 今日もボクは富裕層が住んでいる区画へと足を向ける。


「おはよう御座います」


 すれ違う人にボクは満面の笑みで挨拶をしていく。

 これまでボクに手を出そうとした者はいない。ライラさんが省いたという訳ではなく、単に以前の<冒険者>が粗野で下半身直結してただけのことなのだろう。長く顔を合わせて会話していないことにも理由がありそうだ。【甘言】、それが作用していないからとボクは見ている。


 こうして歩くのも疲れるし面倒なことではあるが、これもお金のため。

 そして疲れたら近辺にある喫茶店へと足を運ぶのが日課となりつつある。

 もう既に七日――一週間程この行為を続けていた。


 まあ、そんなわけで……ぶっちゃけ行動がお年寄りっぽいこともあり、顔見知りになるのは当然そういう年代の方々ばかりなので。

 うん、正直ね、彼らをだます……っていうかハニトラ掛けるのも気が引ける。年金生活(かどうかは知らないが)をしている方々のお金をむしり取るのも何だしねぇ。毎日喫茶店にいることも考えて<遊び人>という事もありうるし。

 というか……そもそもお年寄りにボクのピンクオーラって通じるのか?


 ――ライラさん……作戦失敗じゃないかな……。


「やあ、ミヅキちゃん。今日もいらっしゃい」


 考え事をしていると、この店のマスター――マルゼフさんに話しかけられた。

 マルゼフさんはカイゼルひげのよく似合うナイスミドル。若き頃<冒険者>、そしてその上級職の<探索者>であったこともあって、優しい面持ちながらもすきのない立ち居振る舞いをみせている。むろん素人目だ。ボクに()()しなど分かるはずもないからね。


「あはは……、今日も疲れたので寄っちゃいました」


 この店は店員を雇っている。メイド服だ! このエロ親爺おやじめ! ――かどうかはさておき、そんな経営スタイルなのでわざわざマスターがカウンターからへ出てくる必要もないわけで。

 そんなマルゼフさんはボクが来る度、こぞってこちら側へやってくる。うーん、やはりエロ親爺か。あんたにはがっかりだ、なんちゃってナイスミドルだよっ!


「そうですか……。これはサービスです」


 コトっと小さく音を立てテーブルに現れるケーキはショコラ。ボクの視線を(くぎ)()けにする憎いやつだ! いただきますっ!

 ボクが手を掛けたのを見届けると「ふふっ、それではごゆっくりどうぞ」と言葉を残していくマルゼフさん。エロ親爺なんて思ってごめんなさい。



 ケーキを堪能――ごほんっ、休憩を終えて店を出ると、そこは腰に手を当てて憮然ぶぜんとした姿のライラさんがいた。


「ちょっと、ミヅキ。あなたね……本気でやるつもりあるの!?」


 というか怒り心頭のご様子だ。どうもボクが喫茶店でのんびりしてたのが気にくわないらしい。一緒に入ればいいのに……。


「そうはいってもね、ライラさん。ボクの体力をめちゃいけないよ」

「……そのくらいは分かってるわよ。――でもね! あなた、いくらでも機会あったじゃない。あのマスターとか……常連のネコ連れのおばあさんとか――」


 如何いかにもお金を持ってそうでしょ! と、中々に鬼畜な事をおっしゃる。ボクにあの老人たちの生活を壊せとな? ボクは天使サキュバスだからそんな悪いことは出来ない、出来るわけがない! いや、まあ、だからってやらないって選択肢はないし、他人の人生を破綻させるつもりなのは変わらないけどね。でも、せめて罪悪感を抱かない相手を狙いたいところなんだよね、ボクは。自分、不器用ですから!


 やはり、第二回会議が必要に感じた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――むなしい勝利だった。


 鬼畜な事をおっしゃったライラさんではあったが、何も本心から老人をおとしめたいと思っていたわけではない。真摯にお願いしたあと、ベッド上での説得を試みた。

 以前の情事は初めてという事もあり、受け身であったこともあって負けてしまった。いいようにされてしまった。でもボクはサキュバス。ねやであって普人族のライラさんに敗れていい存在じゃないんだ。

 で、攻勢を仕掛けた結果がこれだった。


 ボクが男――インキュバスであったならライラさんは白濁に染まっていただろう。でもボクは女で、棒もなければ玉もないのでそれはありえない。少し残念な気持ちはあるけれど、悪いことばかりではない。

 男であったならばここまで長時間戦えなかった。ナニがとは明言しないが、出すと共に終わりを遂げてしまう生き物なのが男なので、女となったボクは体力の許す限り戦え続ける訳で――。

 

「あ、あっ、ああぁん! も、もう、やめてぇっ! 分かった、分かったからぁん!」


 【吸魔】により際限のない快楽とそれを増幅する【情欲刺激】により息も絶え絶えなライラさん。甘い吐息が淫靡いんびです! それと魔力ご()(そう)(さま)でした。

 サキュバスにとっての魔力は、吸血鬼にとっての血液――姿を維持するのに必要らしい――な物と同じ……って訳でも無いらしい。同様に快楽を与えるというのにね。吸ったからといって味もないし、その行為が必要かと言われると甚だ疑問だし。生後一五日でデータが少ないからたぶんだけど、やらなくても生きていけるそんな感じがしている。

 吸い取られた方も一晩ぐっすり休めば回復するし、こと【吸魔】を意識しての行為に関してはだけボクは疲れない様子。これは酒池肉林でもやって無限の魔力を得ろと<ワーカー>さんは仰っているのだろうか。そうだ、そうに違いない!


 ――ふっ、ボクが美の神になるのもそう遠くではないな。最高神公認ということらしい。


 吸った魔力は全部が全部蓄えられるわけではなく、吸った値の1/100ほどがボクの最大値に加算される形だ。なのでやればやる程ボクは強くなる! さらに始祖の力で使えば使うほど能力が増大するのだから、魔力増加は次第と加速していくだろう。もう、魔力を増やす才能スキルなんていらないんじゃないかな? 魔力が強い人に寄生すればいいよね?

 いまは魔法を覚えてないので魔力を持っても意味はないのだが、いずれは……そう、いずれはボクは――。

 そのためにも早く脱!! <美人局ハニートラッパー>をしなければならないんだ!






転生15日目

ライラ「ぜぇ、はぁ……。ぜぇ、はぁ……」

ミヅキ「灰魔石を基準にレート換算すると――」

灰魔石1

銅貨10

銀貨1000

白魔石5000

大銀貨10000

金貨100000

黒魔石500000

大金貨1000000

魔結晶5000000

精霊貨50000000

ミヅキ「――って感じだよ。精霊貨とか国家間でのやり取りにしかまともに使われない。大金貨は商会の掛け金払いなんかでやり取りされるみたい。ちなみに灰魔石以外の魔石は基本、取引としては使用されないよ。あ、魔石は素材や魔導具の燃料に使われるからインフレはしないよ。その代わりに一部公共料金がない感じになってるかな」

ライラ「お金は数えてても増えないわよ?」

ミヅキ「あ、鬼畜魔女が復活した……」

ライラ「誰が鬼畜よっ!」


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