美人局2話 転職神殿②
――というアホな妄想はさておき、ボクは残りの項目を確かめる。
身分
平民・一代貴族・貴族・王族のどれかを必ず持つ。
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平民
一般人。特に何も無し。敢えて言うなら搾取される者。
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階級
自身の上下関係。その役割。
種族/身分/職業で表される。
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始祖
世界に初めて誕生した生命体。
階級権力
・成長:世界に生まれたばかりの種族ゆえに限界が定まっていない。
・種の起源:種族能力の効果が成長する。
・神祖への道:通常種がロードに至る程の経験をすれば神祖へと変貌する。
・種族繁栄:多種族との間に生まれた子供は全て自分の種族になる。
・老いぬ身体:寿命は存在しない。
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自由民
何処の国にも所属していない風来坊。
階級権力
・神殿納税:国に所属しない代わりに神殿へ3倍の税を納める。
・移民:好きな国に所属することが出来る。所属した場合<領民>となる。
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取得職業
習得済みの職業。
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現職
現在就いている職業。
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美人局
条件:スタイルがいい、美人の女性であること。男を手玉に取る事で転職可能になる。一度に何人も手玉に取った場合はその場で強制転職する。
技能:【誘惑】【甘言】
限定:『悪のフェロモン』
習得:壺か絵を高額で売りつける。
備考:ゴ、ゴクリ……。分かってるんだよ、分かっているんだけど……。
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『悪のフェロモン』
効果:性質のよくない者を惹きつける。
備考:カリスマじゃないよ、フェロモンだよ(笑)
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【誘惑】
効果:自分の容姿を媒介に相手の思考力を低下させる技能。美人局の場合常時発動。
備考:いやぁ~参っちゃうなぁ。あたしってモテモテでぇ~。
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【甘言】
効果:しないと損する、そんな気分にさせる技能。美人局の場合常時発動。
備考:今ならなななんと! 同じ物がもう一つ突いて定価の3倍で買えるんですよ!?
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ふぁっ!? なんじゃコレ! ってのが実に多いこと多いこと。
もちろん想定済みというか、言葉の通りの物もあった。
でもまあ、あの門番さんが言っていたこともわかった。【甘言】って職業スキルだったのね……。まさに『ねえ、お願い』ってやつだ。
みんながボクの質問に快く答えてくれたのは、ボクの美貌だけじゃなくこれにも一因がありそう。常時発動ってあるしね。
ピンク色の淫乱オーラの正体は【情欲刺激】とばかり思ってたけど、どうやら【誘惑】もその内に入っているとみえる。
{(美貌+スリーサイズ)×(1+1×【誘惑】×『悪のフェロモン』)}×【情欲刺激】×種の起源=カモ~ン、襲ってくださいね♪
――ってところか。フルコンボでビッチって状態だ。まさに男ホイホイ!
淫乱オーラを収めるにはこの公式を0の値に近づければいいと予想される。
当然0にはならない。ボクは美少女だしね。おっぱいだって完璧さっ。
それを捨てるなんてとんでもないっ! って状態だし、前二つは死ぬまでお付き合いすることでけって~い。
はい、消去法から【誘惑】と『悪のフェロモン』で決まりました。【情欲刺激】と種の起源は種族的な能力で、喪失させるには死なきゃどうすることも出来ないし。
<美人局>でなくなれば、『(美貌+スリーサイズ)×【情欲刺激】×種の起源=襲いたくなるような超絶美少女』となり、下半身直結以外は大方排除出来ることだろう。むろん、真摯に口説いてくるものは残るだろうが。
全てを確認したあと、ボクは最初の目録の所まで戻し、無言でクレトマスさんに差し出した。
「ああ、言い忘れてましたね。確認が終わった後は守秘のためにも地面に叩き付けて壊してください。神秘石に刻まれた物は個人情報ですからね」
おっと、壊したら弁償させられるかと思ったけど、壊すべき物だったのか。
――これは後で聞いた話だけど、神秘石は壊せば聖域が新しく生み出してくれるという。何かで再利用出来るとして取っておくのは逆にいけないそうだ。
しかし今のボクにとって、そんなことはどうでもよかった。
「そうじゃな――って、待ってください!」
クレトマスさんが、渡した神秘石を頭上に振り上げたのでボクは急いで制止した。やはりいい人らしい。秘密と言うだけあってボクの個人情報を見ようともしなかった。まあ、スリーサイズが書かれてないからかもしれないけど。
クレトマスさんが動きを止めるのを確認するなりボクはお願いを切り出す。
「少し……相談に乗って貰いたくて……。もしかしたら見たらいけない義務が在るのかもしれませんが、そこを曲げてボクの<職歴>を見てくれませんか?」
「なるほど、そういうことでした」
クレトマスさんは鷹揚に頷き、ボクの情報が書かれている神秘石に視線を落とす。そして驚愕の表情を浮かべる。
「――っ!? こ、これは……!」
やはりこの世界の常識人からみても異常だったようだ。
始祖、サキュバス、そして1歳。つまるところ、この世界にボクの同胞は誰もいないってことになる。まあ、不死ではないけど不老みたいだし? 階級権力の種族繁栄で生めよ、増やせよと血族を作り出して行けばいいのだろうけど……。
ボクにそのつもりはない。男はノーセンキューだ!
『同性愛だって子供が欲しい』 著者:ミヅキ
おっと、現実逃避しちゃった、てへっ。
それはともかくとして、クレトマスさんは固まってしまい言語機能を失ってしまっている様子。それに不審を覚えたライラさんも覗き見して同様だ。ライラさん……チラ見は下品だよ。
とはいえ、何時までもこうしてここにいる訳にもいかない状況で。
チラッと後ろを振り返れば『まだか、まだか』と怖い顔をしたおっさんがいる。ウィンクして気を逸らしたけど、そう長い間引き留めておくことも出来ないだろう。まして、ピンクオーラを酷使したらおのおっさんが襲ってくるのは間違いないわけで。
ぶるりっ。おー、怖ぇぇええ。
なので、ボクは二人を揺すって気付けをした。
『――はっ!?』
二人は合わせたように声を出し、きょろきょろと首を動かすという同じ動作をしている、まるで双子のように。
「それでボク……やっぱりおかしいですよね?」
「あ、ああ……まさか始祖さまでしたとは」
「え、ええ……そうね、そうよね。どうりでおかしいはずだわ。色々無知だし、職業も知らないし、聞いたこともない程強力な魅了のオーラを纏ってるし」
え、何この反応。クレトマスさんに至ってはいきなり『さま』付けですか?
「ごほんっ。えーミヅキさま、あなたは『サキュバス』という種族の始祖さまだそうですが、私ども聖エルトリア教団では、種の保全のため、始祖さまを積極的に保護しております。具体的には伴侶の斡旋など――」
「ノーセンキュー! そんなのボクは要らないよっ!」
雰囲気が変わったと思ったら、突然アホな事を言い出したクレトマス。ボクは最後まで言わせじと言葉を遮るように否定する。こんな奴、呼び捨てで十分だ!
「――行って、……そうですか、それは残念です。確かに1歳ですしね。まだ気にすることもないでしょう。ただし、神祖に至る前に子孫を残して頂けねば困りますぞ。まあ、始祖さまとはいえ神祖の道は長く険しいですが」
神とつく文字だけにやはり神祖という存在は特別らしい。というか神祖に至れるから始祖は貴重? いや、まだ分からないな。種族が一つ増えればそれだけで世界に現存する種族能力が増えて多彩になるし、生活する上で便利になるから……ってことも考えられる。役に立つ能力かどうかは、ひとまず増やしてから考えることなのだろう。サキュバスは床上手ってか?
何にしても厄介なことになってしまった。
けど、クレトマスに見せたことは後悔してない。ボクは赤子で、庇護者が必要なのだから。
ミヅキ「階級権力はすべからくパッシブスキル(キリッ」
ライラ「たまに声に出す人もいるけど、概ねその通りよ」
ミヅキ「ふっ、若いな……」
ライラ「若いって……。あなたに言われたらおしまいよ」
ミヅキ「ボク1歳だしね……。でも便利だよね、パッシブスキル」
ライラ「そうね。だけど、義務も混じってるので注意が必要よ」
ミヅキ「な、なんだってー! ――って、よく見たら納税3倍とか書いてある!?」