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無職9話 職質と美人局




 巨大な壁と思っていた物は近づいてみるとどうやら街を囲む塀でもあるらしく、正しくは防壁と言ったものであった。くと四角で囲んであるらしい。

 そんな防壁に包まれてはいるが完全に包囲されている訳ではない。四方に一つずつ門が設置されていた。そこを通って街に入る訳なんだけど……。


 ボクたちは道なりに進み一番近くにある門に並ぶ。もちろん荷馬車の上で。なるべくギリギリまで乗せてもらうつもりだ。だってぐ疲れちゃうし。

 並ぶと言ってもそれほど列は長くはない。

 これが何時いつも通りなのかもしれないし、ボクたちが来る前にこの列が長くて他の三方の門に向かって偶々たまたま短くなっていただけなのかもしれない。


 そう思ってボクはレイジさんに訊いてみたのだけど、どうやら何時も通りのことらしい。余り重要な都市ではないらしく、それほど人は集まらないとのこと。

 そのおかげか、人集めの為にも入街税だけでなく物の通過税もないらしく、行商人としては有り難いそうな。


 ちなみにレイジさんの職業は<商人>で、行商人は職業ジョブではないらしい。役割って感じだ。

 自分の××を手に入れて<配送>の習得条件を満たし、ステップアップのために<商人>になったとのこと。

 ボクの耳には何を手に入れたのか聞き取れなかったけど、これが不思議な力でかき消されたというやつなのだろう。<ワーカー>さんの陰謀に違いない。

 それを聞き返したボクはまたライラさんに笑われてしまった。とほほ。

 聞いていると知っているって別モノだよね?



 ボクが落ち込んでいたとしても世界の刻は回っている。消沈していたらにいつの間にか門の直ぐ近くまでやって来ていたようだ。


 真下から見た防壁は大きかった。縦にボクの身長何個分だろう。

 女体化したボクの身体は大体にして150cm。この身長が平均より大きいのか小さいのかは分からない。ただライラさんより10cmばかり低いのは確かだ。悔しいです!

 そして門は鉄格子のような物ではなく、でっかい木の扉を開けるタイプのようだ。一部を金属で補強し、外敵を侵入させないための処理がされている。

 そこから分かることは街にあだなす敵がいると言うこと。

 それが人か、はたまたファンタジーにおけるモンスターなのかは知らないけど、やはりこの世界は思った以上に物騒なようだ。


 そんなことを考えていると、ついにボクたちの番に回ってきた。

 街の中に入るには<衛兵>の審問を受けないといけないそうだ。これが他所ならば入街税を差し出すことになる。しかし<ホリックワーカー>にはそれがないため早く審問が終わるという。これも列が長くならない理由の一つに違いない。


 門の左右に一人ずつ兵士の恰好かっこうをした男の人たちがいた、門番さんってやつだ。ご苦労様です。

 気付くとライラさんは左側の門番さんに手をかざされていた。


「風魔法師だな。よしいいぞ、次っ!」


 早いな。それに何が『よし』なんだろう。駄目じゃない職業ってことかな? 当然犯罪者系の職業はダメだと思うけど、もしかしたら無職もダメだとか?


 そんなことを考えていると右に位置する門番さんにボクは促されたので、ボクは荷台から降り立った。


「うっ」


 門番さんは鼻を押さえて後退あとずさる。

 どうやらボクのビボーに目がくらんだようだ。もしかすると降りたときに揺れた胸を凝視しすぎたのかもしれない。


「ふこしふぁて」


 たぶん、『少し待て』と言ったのかな。ジェスチャーで何となく分かる。

 それから数分。

 門番さんは落ち着きを取り戻し、キリッとした顔でボクの前へと戻ってきた。正直格好悪いです。


「身体を楽にして受け入れろ。『職質』!」


 職質……って事は無職と答えればいいのかな?

 口を開こうとした瞬間、ボクの身体の中に何かか入ってくるのが分かった。それはまさぐられるような感覚。つい「あぁん」と漏れてしまったのはワザとじゃないと言い張りたい! そこ、腰を退くな!


「な、なん……だと……。職業ジョブが……<美人局ハニートラッパー>……だと……!? お前のようなうら若き乙女がなんという職業に……。いや、お前のような美しい女性だからこそか?」


 先程興奮した門番さんにはボクのあえぎご――ごほんっ、うめき声が聞こえなかったらしく、というよりあまりにも動揺しすぎた為に気付かなかったと言うべきか。門番さんは何やら驚愕きょうがくの声をあげてワナワナと身体を震わせていた。


 ――ハニートラッパー? 何ソレ……?


「あまり男慣れをしているようには思えんが……転職を済ませてるって事は手玉にされた男がいるはずだよな……」


 門番さんはボクを見てぶつぶつとつぶやいた言葉は流石さすがに聞き流せる物ではなく、(めい)()()(そん)で訴えてやりたい!

 けど、どうやら門番さんはボクの職業がハニートラッパーでその内実を知っている様子。ボクはそれを知るためにも甘えるような声を意識して尋ねてみる。


「あのぅ、門番さん。その、ハニートラッパーって何ですか? どういう職業なのかよろしかったら教えてくださいませんか?」


 完璧だ。上目遣い、びた声、丁寧な言葉使い。そのどれもが以前のボクならば一発でやられてしまう威力を出せたと誇りたい。

 が、しかし、


「くっ、こいつぁ【甘言】かっ! その手には乗らんぞ。今すぐスキルを使うのを止めろ! 犯罪行為として処分するぞ」


「えっ?」


 ボクのおもいとは裏腹にヒドイ言葉を投げかけられてしまった。あまりな言いぐさである。ボクの媚びが効かないなんて……。

 だけどここで言い返したらボクをしょっ引きそうな雰囲気を出しており、内心で理不尽な暴言に怒りを感じつつも両手を合わせてペコリとお辞儀した。きっと何か言ったらまた難癖を付けられてしまうだろう。


 だけど目をうつろにして「俺もちょっと前にひっかかったんだよなぁ」などとぶつぶつと呟いてボクの方など見やしない。

 そんな時、隣に居た左側担当の門番さんがボクのところへやって来て、


「アイツはちょっと、最近悲しい目に遭ったからそっとしておいてやれ。犯罪って言ってのはアイツが自己防衛するためだから気にすんな。さあ、もう行った行った」


 と通過を許可してくれた。

 犯罪ではないという言葉を聞いてほっと息をつき、情けない門番さんの様子で怒りも消沈する。うん、自分よりあわれな人を見ると落ち着くってホントだね。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 防壁の内側は赤や白の煉瓦れんがで舗装された道で整備されており、それに従うように左右に石造りの建物が配置されていた。二階建て……いや、三階建てもある! こんな所からも村とは違う〝街〟という様子が窺える。また明らかに区画整理された街作りをしており、これが重要な都市でないとはとても思えないものがあった。

 難点を上げるならば街の中に緑が少ないことだろうか。赤や白や黄ばかり少し目が疲れてあまり外を歩いていたくない気分にさせられる。

 しかし目の前にある道は門からの通りで大通りと称してもよく、それだけにここは光の当たる場所である。つまるところ見栄えを良くしている可能性がある。

 ひとたび路地裏に出れば見るも無惨な状態……ということも考えられるのだ。


 ――と、少しディスってみた。

 区画整理されてるってことは計画的に作った都市だよね。なのに重要じゃないって事は何かあって落ちぶれたとみるべきかな、常識的に考えて。重要拠点だからこそ計画的に作るのが普通だもんね。

 

 ただまあ、他の場所で優れた都市が完成して要らなくなったと見るべきかな。でもそれじゃつまらない・・・・。ボクとしては闇の組織や秘密結社などがあって欲しいな。

 もちろんボクがこの街に住むつもりがないから言ってられることである。






転生七日目

ミヅキ「美人局って……」

ライラ「元気出しなさいよ。ピンクのオーラの一端が分かったんだしさ」

ミヅキ「……」

 ぴろろろ~ん。辻馬車に乗ったときが原因だよ。あと今回で無職編は終わり。

ライラ「え? 何この声? ミヅキ、知ってる?」

ミヅキ「知らない……」


※付録※

<衛兵>(複合派生職)

条件:冒険者・兵士

技能スキル:【最適行動】

限定:『速力減少』『職質』

習得:5年間、衛兵を務める。

備考:場所を守ることが仕事。


『速力減少』

効果:動きが遅くなる。

備考:俺も昔は冒険者だったが……少し前、仲間にいい女がいたんでな。それでつい夜這いを掛けちまったんだが、その時に膝に槍を受けてしまって今じゃこの有様よ。


『職質』

効果:相手の職業を調べる。

備考:お前、怪しいヤツだな。職業を聞かせて貰うぞ。


【最適行動】

効果:行動を取ったときに、無駄な行動だった場合何となく分かる。

備考:無駄を省いていけばいずれは……あの、桃源郷に……!


ミヅキ「また変なのが出た……。備考が備考になってないし」

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