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無職8話 淫乱ピンク



 さて、どうせ強くなるならライラさんの様に魔法を使ってみたいという誘惑に駆られる。ファンタジーな世界に来たならば譲れないね!

 ボクの容姿的も前衛に出るよりも後方でチマチマとやるほうがお似合いだと思う。むしろイージーモードの姫プレイも可能なんじゃないかな。うへへ。


「……なんか心配になって来ちゃったな。肌を合わせたこともあってもう他人って言い切れないし」


 ライラさんはそう言って下を向きぶつぶつとつぶやいている。

 今は普通の恰好かっこうだからいいけど、本来の魔女ルックでそれやったらすごく怖い。もし隣にいたらソッと席を立ち数歩距離を置くね!


「――よしっ、決めた! 私がしばらく面倒を見てあげるわ」


「え?」


「大船に乗ったつもりでいていいのよ! 私を姉だと思って甘えて頂戴」


 ニッコリと微笑ほほえみそう告げる。

 うーん、百合ゆり? おねえさまぁんってやつですか? 皆さん、綺麗きれいなお姉さんは好きですか? ボクは好きです。まあ、ライラさんは綺麗なお姉さんって感じじゃないけれど。

 そんな感じで考え事をしていたからか、ライラさんは(ほお)を膨らましボクに抗議してくる。うん、ないわ。そんな子供っぽい仕草で姉は流石さすがにないわ。


「もう、私が付き合ってあげているっていうのに……何が不満なの?」


「えっと、ボクの身体が持たないんじゃないかなって……」


 そう、そうなのだ。仮に行動するとしてもレズなお姉様と毎夜のごとくレズプレイなんてしたらかえでじゃないけど、ボクが死んでしまいそうな気がする。あ、そう考えると楓って恐ろしい女だったんだな。あのムカツク教師の気持ちも少し分かってしまった。悔しいですっ!


「……これは言うまいって思ってたんだけど……」


 ――ッ!?

 まさか……ここでボクの嬉し恥ずかし台詞せりふで脅すのか!?


「…………私、同性愛者じゃないわよ。というか同姓と肌を合わせたのもあなたが初めてよ」


「は?」


 恥ずかしそうに告げるライラさんに聞き返したボクは、悪くないったら悪くない。いやぁ~、流石にそのジョークは笑えないかな。あんなことやっておいて。


「あなたをこの村で見たとき、何故なぜかそうしないといけないって気分になったのよね。何が何でも抱きたいって。だけどこう見えても私、イケメン好きだからそれだけに自分の心が信じられない状態だったのよ」


 「だからとりあえず試してみたのよね、あはは」と言われてもとても笑えない。何じゃ、ソレって感じだし。

 とりあえずで抱かれるボクは一体……。

 うちひしがれるボクに対しライラさんは、


「結局昨日は燃えちゃったけど、もう大丈夫よ。あなたが出しているピンク色のオーラは覚えたから」


「はい?」


 ピンク色のオーラ? ああ、淫乱ピンクの事ね……ってボクの髪は淫乱ピンクと呼べるほど下品な色じゃないよ!


「あ、やっぱり無意識だったのかな? もしかしたら未発見の特殊職のスキル効果なのかもね。あなた、自分を襲ってくれ……みたいなオーラだしてるよ」


 ……。

 イマナンテイッタノ? ジブンヲオソッテクレ?


 どうやら思っていた以上にボクは、受動的な淫乱ピンクの要素を兼ね備えていたようだ。オー・アール・ジィー。ガクッ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あの日、ボクはあまりにもショックを受けたため気を失ってしまったようだ。

 そんな理不尽、冗談じゃない! と、起きてからライラさんの指導の元、その淫乱オーラを抑える練習をしてみたけど――。

 残念ながらお主にはその素養がないようじゃのぅ、出直せいっ! という状況に追い込まれてしまった。


『それにしても心配だわ。アナタ可愛かわいいもの。私が言うのも説得力ないけど、例のオーラを抑えられたとしてもきっとこのままじゃ誰かに食べられちゃうわよ』


 と、嫌なお墨付きまでもらった始末で。

 ただでさえ可愛いボクがそんな妖しげなオーラをまとった状態で、一人でいる訳にも行かなく、ボクはライラさんの好意を甘えることにして、早速近隣の『転職神殿』のある街<ホリックワーカー>へ向かうべく馬車の中でたゆたっていた。


 現在乗っている馬車はソウフさんが操っていた物とは違い、とてもこぢんまりとしており、というか荷台に乗せて貰っていた。うん、青い空が清々すがすがしいね。

 そんな馬車の持ち主はレイジさん。自前だそうだ。彼もソウフさんと同じ様にアフ――ボンバーヘッドをたしなんでいた。

 どうやら運び屋系の職業で流行はやりの髪型らしい。けど、あの妖しげなポーズはソウフさん独特の物だったらしく、ボクの腹筋は震える事なくレイジさんと会話をすることが出来ていた。

 あ、レイジさんはソウフさんとは違ってヒョロヒョロじゃない。彼はちゃんと小さい頃は<遊び人>として頑張っていたのだろう。

 どうやらこの世界では『アフロ』よりも『もやし』のほうがレアらしい。そんなソウフさんが第一接触者なボクは――もしかしたらレア運が結構いいのかもしれない。と、思っておく。


 ソウフさんで思い出したが――。

 昨日の昼、ボクが寝入っている時に泊まっていた民家に来てくれんだよね。ボクが寝てたんでライラさんが応対してくれたみたいだけど、「こんな事になるなんて……」と謝ってくれたらしいんだ。ただ純粋に会話を楽しみたかったそうで、あんな事になったことで申し訳なさそうにしていたそうな。

 ライラさんが言うにはうそはついていないらしい。目を見れば分かるとのこと。

 で、肝心の用件は――謝罪はついでらしい――昨夜の主犯を引っ立てて行くから心配するな、って話だった。実に有り難いことだね。

 ボクのオーラに釣られてかしらないけど、だからってギルティなのは変わりない。もっと耐えろよ。何故かはしらないけど、ソウフさんだって耐えていたんだから……。利かなかったって線もあるけど。

 でも、しんに有罪とされるかは分からないらしい。詳しくは『神殿』で調べてみないことにはいけないとか。

 また『神殿』かよ、という思いはあったものの、神が関与しているなら何かしらの方法で正しい裁きがされるのかもしれない。そこでボクに意図があったかとか、男たちに操られていたかなどを考慮して判決が下るそうな。痴漢に優しい世の中だね、<ワーカー>さん!

 


 ――と、こんな感じで一昨日の夜の出来事は終着した。

 さて、話を戻そうか。確かレイジさんの馬車についてだったかな?

 (つじ)()(しゃ)が出ている以上、荷台に人を乗せるなんて事は本来しない。というか本当はやっちゃいけないと商会のルールで決まっているそうな。

 しかし、ボクが<遊び人>だったので特別に許された形だ。歩けと言われても体力ないからね。<遊び人>である以上、カネもねぇだろ? というのも理由の一つ。

 職業に就くことを条件に<ホリックワーカー>にボクたちは乗せて貰っている形だ。

 ライラさんはそのボクの護衛ってことでOKだったらしい。


 それにしてもホリックワーカーとは何の冗談かって思う。そんな所に連れて行かれるボクは悲劇のヒロイン!? ボクはその街には定住しないぞ!

 いや、まあ、聞く話によるとブラックな所ではないそうだが……。やはりイメージ的にボクはノーセンキューさ、ハハハッ。


 そんなことを考えながらもボクはライラさんと職業の話や常識を教えて貰っていた。

 ちなみにいつまでライラさんが付き合ってくれるかというと、ボク自身がある程度自己防衛出来る様になるか、強い恋人が出来るまでとのこと。

 ボクは可愛いからぐ出来るなんてライラさんは言ってたけど、正直な話、ボクは男の恋人なんてまっぴらゴメンだった。

 あの夜の経験がより一層男を嫌悪するようになっていた。触りたくないほど拒否反応を示すことはないが、屈強な男や肉食系はどちらかといえばご遠慮願いたい。だからボクからは働きかけることはないだろう。草食系は話しかけてくることもないだろうし……。

 ここに奥手ならぬ、お一人様が誕生した。


「それにしてもライラさんってそのとしで強いよね。あんなに大勢の男の人倒しちゃうし」


 まずはおだてる。そこに愛をそそげばそれは真実と化す。もちろん上辺だけだが、な!


「それほどでもあるかな。ふふふっ」


 ライラさんは照れ隠しとばかりにとんがり帽子を深く被り直す。ちょっと可愛らしい反応。

 今のライラさんは魔女ルックだ。昨日の様に街女らしい服装の方がオシャレでいい気がするけど、戦闘服ともなればファッション性は二の次という事なのだろう。決してライラさんのセンスが悪いということではない、断じてね。


 あ、そういえば言ってなかったかな。

 ライラさんだけど実のところ容姿はパっとしない。浅黄色の肩まで掛かる髪に茶色の瞳はこの世界では一般的であり、少しあかが抜けてるだけのThe一般人って感じだ。まあ、ブサイクって訳じゃないけど平凡なんだよね、努力はしているけれど。

 けど、ボクと一緒ならえないライラさんも目立ってしまう、しかも悪い方に……。これが格差社会か。

 それでもなお、ボクと一緒にいてくれるというのはライラさんが優しいって事なんだろうな。多少はボクを食べちゃったという贖罪しょくざいの気持ちもあるかもしれないが。

 ううん、そんなの関係ない。ボクと一緒に来てくれるという意志はどんな感情を抱いていても尊い物なのだ。あ、よこしまな気持ちなら是非キャンセルで。



 さて、早速煽てて調子に乗り始めたライラさんに強さの秘密を聞いてみよう。教えを請う立場として正座と敬語は標準装備です。


「ところであのとき使っていた魔法。あれってどういう物なんですか?」


「ん? ああ、あれは<魔法使い>の【下位魔法】の一つ、マジックネットだよ。最後に使ったのは<風魔法師>の【風魔法】とマジックネットの合わせ技さ」


「あれ? でもシルフって……」


 シルフと言えばボクのイメージ的に精霊。あのときはゆ……ゴニョゴニョとかと思ったけど、超常的な精霊があの場へと召喚されたとするならあの悪寒も納得出来る。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、精霊もゆ……ゴニョゴニョも『見えないけどいる』というのは同じなんだから。


「【風魔法】は契約した風の精霊から力を借りて、他の習得している魔法に精霊の力を乗せるって職業ジョブスキルなんだ。ちなみに私はシルフと契約している。結構凄いことなのさ」


 凄いですね~、とボクはとりあえず褒める。シルフとの契約がどれほど凄いことなのか分からないし。


「で、あの時シルブンネットを使ったのは……職業ジョブの習得条件を満たすため……かな? 今の私は<風魔法師>に就いているから」


「ふむふむ」


 余談にはなるが職業ジョブの習得条件は不思議な力によって他者に伝わることはない。特殊職の転職条件も同様だ。その職業ジョブに就いて初めて分かるとのこと。これは常識らしい。

 教えてくれないのは決してライラさんがケチという訳ではない、決して。


「相手を捕縛するだけの能しかないマジックネットもシルフの力を使えば十分に殺傷力を与える事が出来る。あのとき男どもが恐怖してたのはその事を知っていたから――っと、そろそろよ、ミヅキ。ほら、見えて来た」


 促されるように前方を見ると、ここからでも見える大きな壁が存在していた。


「あそこの向こうが<ホリックワーカー>よ」






転生七日目

ミヅキ「ワーカホリックが正しいらしいよ?」

ライラ「誰に言っているの?」

ミヅキ「さあ?」


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