無職7話 遊び人も立派な職業です
そんなボクの想いとは裏腹、ライラさんにはそれでボクを脅すつもりはないようだ。
お持ち帰りして性的に食べちゃったライラさんなら弱みをついてボクを肉奴隷にするのかと考えてしまった。というかボクなら多分そうしてる。だってボク、可愛いもの。あ、これ自慢ね。ぐへへ。
「あははっ。そんなに考え込まなくてもいいのよ。でも、やっぱりやることが何もないのね」
おっといけない。その気がないならそれでいいし、変な事を言っていない可能性も忘れちゃいけない。
――よしっ、ボクは言っていない。
これでOKさ。ボクの精神的にもそうだったとしておくことが良いことだしね。今は話に集中しないと。
「ええ、そうです。強いて言うなら昨夜のような事態になっても切り抜ける強さを身につけたいとしか……」
「うーん。強くなるならやっぱり職業を修めて転職を繰り返すことかしらね」
また職業だ。それに転職って……?
「ミヅキ、あなた今までどんな職業に就いてきたのかしら?」
どんなって言われても学生? としか言いようがないかな。あ、アルバイトの経験は入るのかな?
といってもこれは前世? でのこと。この世界ではプーさんだ。
「うーん……。強いて言うなら無職かな!」
ボクは胸を張って答えてやった。働いたら負けだと思っていると言わんばかりに。
「……え? ええ!? ちょっと待って!」
ライラさんはボクに手のひらを向けもう片方の手で額を抱えてしまった。
やはりこの世界でもプーさんはイメージがよろしくないのだろうか。でもボクぐらいの歳なら学生って可能性もあるんじゃ……。
あ、そうか。この世界は義務教育がないのかもしれない。
八歳にもなれば農作業として戦力に数えられそうだし、村娘設定なだけに無職というのはおかしかったのかも。家事手伝いと言うべきだったか。
「あなた……まさか<遊び人>すら経験していないの?」
「へっ?」
つい情けない声を出してしまったのは許して欲しい。ボクの中では無職=遊び人なのだが、ライラさんの中……というよりこの世界の常識では違うのだろうか。
もしかするとギャンブルやナンパなどしないといけないとか?
「……。その様子だと<遊び人>すらなさそうね」
うーむ。どうやらボクの認識とこの世界の認識が違う様な気がするな。
で、ボクは訊いてみた。職業とはなんぞやと。
そうしたら出るわ出るわ、ボクの知らない設定が。おっと設定なんて言っちゃいけなかったな。この世界の法則と言うべきかな。
どうやらこの世界では生まれついての才能がないらしい。もちろん性格や性質的な才能はあるみたいだけれど、肉体が絡む物やある程度感性が関わる要素などは全員生まれついて無能というのがライラさんの話から分かってしまった。
物を食べて栄養を身体に蓄える才能。
文字と言葉を覚えるための才能。
武器を振るう才能。
体力を付ける才能。
足が速くなる才能。
力持ちになる才能。
魔法を使う才能。
手先が器用になる才能。
物を作る才能。
料理を作る才能。
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と、上げればキリがないくらい、この世界は職業とスキルに支配されていた。この才能に関わるスキルがなければまったくの無能。何をやっても無駄ってことらしい。
だからボクに体力がないのもスキルを持っていないことが原因らしい。今の状態で鍛えてもまったく向上しない……って話だ。ううむ、世知辛い。
一応無職でも種族能力という物が使えるらしいけど、普通の人間――普人族は【子々孫々】という子作りの才能しかないらしい。
でもボクはここに来る前に聞いた声から普人族ではないような気がする。種族由来で女性体にされたくらいだし、きっと見た目が普人族に似た何かだと思う。
このほかにも階級権力というのがあるらしいけど、ボクには関係の無い物だろう。
それは関係ないので今は置いておく。
この世界における職業:遊び人は全ての職業の頂点に位置しているという。あ、逆ピラミッド状で話ね。
全ての職業は<遊び人>から派生し、<遊び人>を経由しなければ『特殊職』と呼ばれる特定動作をしないと就けない職業しかなれないという話だ。やはり世知辛い世の中だ。
そして職業は子供の内から始めるという事実がこの世界にはあった。つまり、子供の内に遊びましょう! ってことらしい。うん、確かに子供は遊ぶ職業だな。言われれば当たり前のこと、納得せざるを得ない話だね。
そんな訳で、<遊び人>にも就いていないボクはこの世界では圧倒的な弱者。下手したら子供より弱っちいって可能性も出てきた訳で――、
「やばい……やばいよぉおおお」
と頭を抱えている状態なんだよね。
「身体の成長も<遊び人>がないと成長しないのに……どうして知らなかったのかしら。私、ちょっと不思議でならないわ。あなたの親御さんどういうつもりだったのかしら」
そうなのだ。<遊び人>はよく遊び、よく食べて、よく寝る職業。つまるところ身体を作っていくための職業および職業スキル【快食快眠】を持つのだ。
この他にも職業には職業限定スキルという物がある。これは職業スキルとは違い、その職業でしか使えず転職したら失われるスキルである。それだけにステップアップしないで低位の職業を維持する者もいるそうだ。
<遊び人>の場合は『飲食半額』という料理店泣かせの恐ろしいスキルを備えている。もちろん一定以上の高級店は無効化されるみたいだけど、限界ギリギリのラインはスキルの効果範囲内となっている。世のお母さん、大助かりだ。
そう言った理由があるで、大人が<遊び人>でいるのは後ろ指を指されてしまうらしい。どこの世界でも、遊び人は社会情勢から排除される立場にあるらしい。
けれど罪に問われることはなく、鋼の精神を持ち得ていれば『なんぞのものか』と<遊び人>で居続けるものもいるらしい。他の職業でもそういった事情があるそうだ。
それと食うに困らない程度お金を稼いだ人は、後年<遊び人>で過ごす事なんて事もあるらしい。半額になった分他の生活費にあてるとか……。
これは最高神<ワーカー>が定めた法則であり、職業限定スキルに逆らうことは出来ないという話だ。
そう、あの<ワーカー>だ。
ボクが意識を失う前に聞こえたとある世界を治めているという転職神<ワーカー>と、ライラさんが話してくれた最高神<ワーカー>はどう見ても同一存在です。有り難う御座います。
ひとまずボクはこの<遊び人>から始めなければいけないのだろう。
<遊び人>になるためには通称『神殿』と呼ばれる最高神<ワーカー>を主神とする転職を司る神殿に行かないといけないらしい。
しかし『神殿』とひとえに言っても出来る所と出来ない所があるそうだ。具体的に言えば、最高神<ワーカー>が直接作り出した場所と、<法王>および<聖女>が聖域として定めた場所に建てた神殿のみが『神殿』と呼ばれるらしいのだ。
というかどっちも「しんでん」で凄く分かりづらい。ボクは出来る方を『転職神殿』もしくは『神殿』、無価値な方を『神社』と呼ぶことにしよう。もちろん心の中だけでね。まあ、用もないし『神社』には行くことはないだろう。
「あ、言い忘れた」
「何かな?」
もう何でも言ってくれてって感じ。この上何を言われたってボクは落ち込まない。だって既にライフは0なんだから。
「実は転職するのに抜け道があるんだ」
「ほう、抜け道とな」
少し……、いや、かなり気になる。抜け道って言葉、なんか魅惑的だよね?
「<司教>の限定スキル『転職業務』を使えば何処でも転職出来るって話。まあ、相当なお金をお布施しないといけないって話よ。これを使うと犯罪者系の職業に就いてても転職出来るってことだから」
ん? 犯罪者系職業とな? 何か嫌な言葉が出てきちゃった。
にしても犯罪も職業として認めてる? <ワーカー>さん、ぱねぇ。マジパネェ。
「まあ、ミヅキのような美人はどっちかというと犯罪される側だから気にする必要もないかな、ははっ」
犯罪者と癒着する聖職者、しかも司教……。聖職者が聞いて呆れるわ!
って、職業だから<司教>であって司教じゃないのかも。とすると聖職者じゃない可能性もあるのかな? 前の世界の常識が残ってると面倒臭い状況のようだ。
何にしてもそんな抜け道がある世界で、犯罪者系の職業がある時点でこの世界は綺麗な世界ではないのは確かなようだ。
<ワーカー>さん、早く何とかしないと。手遅れになっても知らんぞ! 具体的にボクが。
やはり……身を守るためにも強くならないといけない!
ボクはキリッと表情を引き締め決意した。
あ、ちなみに<法王>も<聖女>も職業らしい。どうやら一代に一人ずつしか就けない職業で、最上位職の中でもレア職業らしい。何ソレ、レア職業とか憧れるんですけど。
職業:聖女というとエロいイメージに感じるのはボクの心が汚れている所為かな? いいや違う! そこにロマンがあるのだ!
ミヅキ「遊び人って……無職と変わらないよね?」
ライラ「何を言っているの、ミヅキ。<遊び人>は歴とした職業よ。というより<遊び人>にならないでよく成長したわね、その胸」
ミヅキ「ちょ、胸のことは言わないで頂戴!」
ライラ「ちなみにあなたを運んできた<御者>の人。彼、たぶんだけどある程度成長するまで無職だったでしょうね」
ミヅキ「え? ソウフさん」
ライラ「名前なんてどうでも良いわ。あんなヒョロヒョロなんだもの。身体が育つまで【快食快眠】を身につけていなかった証拠だわ」
ミヅキ「へー」