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無職6話 ボク、寝坊しちゃいました




 チュンチュン。チュンチュン。

 あー、だりぃ……。喉がガラガラで痛いし、力も入らない。

 あっ、ちなみにこれ朝チュンじゃないから。既にお天道様は昇っている。というかもう夕方に近いかも?

 けどボクはベッドから起き上がる気力はなかった。


 昨夜の――いや、今朝まで続いたねやの出来事はボクの快楽という快楽を刺激して、何をするにしても億劫おっくうにしていた。


「ボク……食べられちゃったんだね……」


 お姉さん――ライラさんは男役としてボクを抱くつもりはなかったらしく、最後の一線まではこえることはなかったのは幸いか。

 さりとてボクの身体がけがされてしまったのは事実であろう。『ビッチ』な人生を体験しておいて何を今更という感じだが、少なくとも今生においてはいまだに汚れ無きニューボディには違いないのだ。まあ、ボクもお姉さんの柔肌を堪能できたけど……。


「でも、何時いつまでもこうしている訳にはいかないかぁ」


 ボクは疲れを訴える身体の声を無視してベッドから抜け出す。

 伸びをするとプルンと揺れる胸元が少しうざったい。

 やはり慣れない。『ビッチ』のときもこれほどの肉感を持った身体ではなかったし。

 あの体験を送ってるときはもうちょっと欲しいななどと思っていたが、ブラジャー無き現在では邪魔以外何ものでもない。

 これが違う意味で自分の物だったらどんなにうれしかっただろう。しかし自分を愛する手段など存在しない。それに似たものを手に入れても今となってはただの同性愛になってしまう。

 男を愛する様に頑張るべきなのだろうか。それとも無為な同性愛を楽しむべきなのだろうか。

 どちらにせよ、今はこの世界に慣れるのが先決か。


「この世界にもあるといいなぁ」


 ボクはブラジャーを見つけ出す。必ずだ!

 ……いや、もし無ければ我慢するしかないけど。

 そのときは手ぬぐいで固定するか、サラシみたいに押さえつけるしかないだろう。そして暇を見て作り出す!

 ボクは拳をお天道様にかざし決意する。


「……おっと」


 急に立ち上がり、興奮して拳を突き上げたから眩暈めまいを起こしてしまった。どうやら貧血気味であるらしい。いや、体力が回復していないせいかな。

 ボクはベッドに腰を落ち着けて深呼吸を繰り返す。


「……あれ?」


 ボクは胸元に手を当てる。

 当てた先、つまり体内に違和感があった。

 暖かい。体温とは違う暖かさが胸の中にともっているのを感じる。少しもやもやっとして何だかもどかしい。これは一体何なんだ。

 痛みやかゆみを感じないから身体に悪いということはないだろう。弱々しくて心細い、そんな感じだ。


 ――そういえば、昨晩ライラさんに可愛かわいがられたときに何かが流れ込んで来た気がする。


 コンコン。


 いつの間にか考え事に沈んでしまっていたとその音で気付く。

 快調したとは言いがたい身体で音の発生源であるドアまで近づき、ゆっくりと開いた。

 ライラさんだ。彼女がドアをノックしたのだろう。

 自分が借り受けている部屋だというのにどうしてそんなことを……と思ったが、視線を下にやると両手に食事――片方ずつトレイを持っている――を抱えていた。

 でもノックは上の方で聞こえたような。頭突きでもしたのだろうか。いや、魔法的な何かでやったとボクはみるね。


 メニューの内訳はスープとパンのようだ。一皿と二つずつそれぞれ用意されている。

 もしかするとボクの分も運んで来てくれたのかな?

 ライラさんが(けん)(たん)()で二人前食べることも考えたが、それならばわざわざここに持ってくることもないので、一つはボクの物と推測する。

 器の中から湯気が立ち上っていることからスープの中身は熱々なのは一目瞭然。


 確かにこの状況ならば一度下に置かなければドアを開けることなど不可能だろう。

 ちなみに床はない。家の中だというのに地面は土がむき出しだ。

 それを嫌ってのことだろう。だってスープに土が入っちゃうかもしれないし。


 ああ、それにしても……。

 スープの匂いがボクのおなかを刺激してくる。お腹の虫がなるようなことはなかったけれど、もう限界。

 疑問に思っていた事全てを投げ捨てて、ボクの視線はライラさんの運んできたトレイに(くぎ)()けになる。ゴクッ、とても美味おいしそう。早く、早く食べたい!

 ボクはそんなライラさんもとい、食事を歓迎すべくドアを完全に開いて中へいざなった。



 ライラさんは部屋に入るなり中にあった机の上にトレイを二つとも置く。気付かなかったよ、あんなのあったんだ。

 どうやらボクは室内を物色する余裕すらなかったのだろう。でもあんな状態だったし、それも当然か。


「さ、冷めるから早く食べましょう」


 ライラさんは魔女ルックならぬローブを脱いでおり、身体の線が分かる服装に着替えていた。

 ボクが見たのはローブ姿と裸だけだったのでちょっと新鮮。恰好かっこうが変われば印象も変わるとはよく言ったもので、こんなライラさんを街中で見てもとてもレズなお方とは思えない。まあ、魔女もレズとはイコールじゃないんだけどね。


 そんなことを考えながらもボクの手と口は動いていた。はふはふ。

 温かいスープにみ応えのあるパン。うん、ぶっちゃけ不味まずい。けれど久しぶりに食べる温かい食事ということにボクは満足する。

 そんなボクの正面でライラさんは「あまり美味しくない」とつぶやく。止めて欲しい。せっかく感情をごまかし我慢していたというのに。


 ボクはそれを聞かなかったことにして目の前の食事と真摯に向き合う……。でもダメだった。はっきりと自覚させられてしまった。もうこうなったら何をしても無駄だろう。

 スープは塩分が薄いだけではなく入っている素材も少ないために味が余りしない。正直に言うならば味付きのお湯だ。

 パンにしても昔食べた100%ライ麦パンを彷彿ほうふつさせる硬さだ。めば噛む程に味が出て来るけれど、染み出る物は酸味。栄養素は高いかもしれないけどやはり美味しくない。

 またパンの硬さはスープに入れる事を前提にしているのかもしれない。けどひたすスープがこれでは満足のしようもない。というか、パンの酸っぱさをスープに移すと言われた方がまだ納得できる。


 その時金属同士が当たる音が響く。

 見るとライラさんがスプーンを皿に放り投げていた。もういらないとばかりに。


「ミヅキは腹、減ってるんでしょ? これも食べて良いわよ」


 ライラさんはそっと僕の前に皿を差し出す。

 おい、要らないからって押しつけるなよ。せめて口を付ける前に寄越よこせ。と言いたいけれど、謙虚なボクは「ありがとう」という言葉とともにそれを受け入れる。

 パンは食べきっていたみたい。ライラさんの手元には存在していなく、食べたという証拠だけが受け取ったスープの中に潜んでいた。

 その後四苦八苦してどうにか片付けた。


「そろそろいいかな?」


 ボクが食べ終わるのを見届けると、ライラさんは話しかけてきた。ボクに不味いメシを押しつけたライラさんは暇そうにしてたしね。少し休憩したいところだったが、まぁ仕方ないか、とうなずくことで承知する。


「ミヅキはこの後どうするの?」


 互いに名前を知り合ったのがベッドの上……というのはこの際置いておくとして、ライラさんのげんやもっともだ。ボクはこの先の事を何も考えていない。人里に下りることでいっぱいいっぱいだったし。


「昨日聞いた話だと何も考えてなかったって言ってたよね」


「えっ?」


 どうしてそれを知っているのだろうか。流石さすがにそこまで話した記憶はない。


「ふふっ、そんな不思議そうな顔をしなくてもいいじゃない。というより忘れちゃったのかしら?」


 ボクはどういう意味なのかとくと「寝物語に聞いたのよ」と答えてきた。左様ですか。快楽尋問恐るべし!

 もしかしたら余計なことまで話しちゃったかも……。記憶がないのって恐ろしい!

 両の拳を握りしめ、おのずとうつむいてしまう。『そこっ! もっとやって!』なんて催促してないよね? そんなことあったらボクもう男でいられない!







転生六日目

ミヅキ「素材重視で素朴な味を再現しました……って! これは素朴って言うより味がないんだよ! もっと具材入れて出汁を取ってよ、塩胡椒増量してなんて贅沢言わないから!」

ライラ「あら? 別に入っている物が少ないから不味いんじゃないわよ。というか塩胡椒は贅沢品じゃないわよ。入れてもしょっぱくなるだけで」

ミヅキ「じゃあ、なんでこんなに味がしないのを客に出してるの?

ライラ「職業:料理人のスキル【調理】を鍛えていないから不味いのよ」

ミヅキ「え? 料理は心じゃないの? 長く手間暇掛ければ掛けるほど美味しくなるって聞いたことあるけど」

ライラ「何処で聞いたのよ、そんなデマ。料理は職業スキル【調理】を持ってないとどんな高級素材を使っても不味いわよ」

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