無職5話 ボク、食べられちゃいました
ボクはベッドの上に立ち、『掛かってこれるなら掛かってこいや、オラァッ!』という意気込みの元、頭の上でブンブンと鞭を振り回す。
この世界に転生したときは頼りなく感じたけど、今となっては最適解だったとボクは思う。だってボクの腕力じゃ金属武器や石斧なんて持てないもの。あ、弓は論外ね。
正しい選択をしたという想いがボクを強気にしてくれる。試しとばかりに少し身体の小さめな男に鞭を打ち据えた。
バチーンッ!
うわっ、痛そう……。
鞭と言えば『ビシッ』『バシッ」だと思っていたけど、実際は『バチーンッ!』なのね。
ボクの身を脅かす敵だというのに少し同情してしまう。きっとボクは根が優しいのだろう、と自分で褒めてみる……ってそんな場合じゃなかったね。
ボクは「ごめんなさい」と繰り返し呟きながら男たちを打ち据えていく。きっと見る者が見たら『じょ、女王様……』と跪かれるだろう。黒で赤なスカートを履いているのではまり役だし。これでスリットと蝶眼鏡があれば完璧だね!
「あっはははは!」
なーんか楽しくなってきたぞっ。
ビシーンッ! バシーンッ! と跳ね返る反動すらも少し心地よい。鞭ってすっごい武器だったんだ。殺さず痛めつける。まさに防衛の為の武器だね!
そんな感じで最初に抱いていた危機感が抜け落ちてしまった。それがいけなかったのだろう。
ボク一人に対し、ボクの身体を狙う男どもは無数。数人、打ち据えてやっつけたとしても全く意味のないことだった。それに痛みしか与えてないから、いずれ復活するというのを忘れてた。
ボクが悦に浸っているあるとき、最初に打ち据え死んだように地べたに転がっていた男が立ち上がり、ボクを後ろから抱き抑えたのだ。
――しまったっ!?
悦に浸っていても背後が死角なのは気を付けていた。でも倒した相手――下は考慮に入れていなかった。
ボクはもがくも筋力のなさから振り払えない。鞭を持つ片手は自由なれど、後ろに位置する男に対しどうすることもできずにそのまま寄り切られ、再びベッドへと押し倒されてしまった。
ボクはいつの間にかひっくり返されて手足を押さえられていた。残すは服という名の身に纏う頼りない防具ばかり。
千切られたら『着る服が無いし、嫌だな』なんてどうでも良いことばかりが頭をよぎる。
どうやらこの場に至ってすら危機感は薄く、焦ることはないようだ。ビッチさんの経験ゆえだろうか。
ああ、ヤダヤダ。きっとこのまま何処か客観的な視点を保ちつつ犯されなきゃいけないんだ。そう思うと気が滅入ってくる。
せめて足が自由なら、あのお馬さんと同じ様に金○を蹴り飛ばしてやれるのに……。
そんなことを考えている内に、ボクを連れ去った男はスカートをめくり上げ、下着――ブラジャーはなかったけどパンツはあった――へと手を掛けた。そしてゆっくりと下ろしていく。
未だ誰にも見せたことのない秘境が晒される。ボクでさえまだ見ていないのに……。
男たちは鼻息を荒くして今か今かとその時を待つ。
――って、おい、コラッ! お前、酔っぱらってたんじゃねーのかよ! おい、余裕あんな。酒乱設定、何処行った!?
そしてボクの下半身は生まれたままの姿となる。
ん? あれ? ボクにとっての生まれたままって着衣状態じゃね? なんて思いつつも、男たちの押っ立てた棒とボクの足を開かそうと迫る手を見たときに、遂にとある感情が決壊する。
「イヤァアア――――ッ! 誰か! 助けて! お願い、助けて!」
よくもまあ、こんなに大きな声が出せたもんだと思う気持ちと身に迫る恐怖を同時に感じつつ、最後の抵抗とばかりに足に力を込めた。
ボクはこの場に及んでも精神的に犯されるという恐怖以外は感じていないらしい。それどころか――身体は迫り来る出来事に期待してなのか、股ぐらは濡れてしまってすらいる。どうなってんだ、コレ。ボクは期待なんてしてないのに……。やっぱビッチさんを継いでしまったのか?
「はぁ~い。お任せ♪」
その時、軽い調子の声がボクの耳に届く。とても場にそぐわない女性の物だ。それに続き『ぐぇぇぇぇぇええええ!』と男たちの合唱――もとい悲鳴も入り込んでくる。
一体何が起きたのだろう。ボクの目の前には壁のような男の身体があり状況を確かめる事が出来ない。ただ、女性が男たちに悲鳴を上げさせているのが予想できるばかり。
しかしそれに釣られたのか、ボクの足を押さえている男の力が抜けた。
――っ。
今だっ!
ボクは膝を振り上げ、のし掛かっている――たぶんキスをしようとしている――大男の股ぐらに打ちつけてやる!
必ぃ殺っゴールデンクラッシャアアアア!
嫌な感触が膝に残る。それは生暖かく、柔らかくも硬いというアレの証拠。うぅ……、他人のなんて触れたくもなかった。
しかしその成果は十二分にあった。男は飛び上がるようにボクの上から立ち退く。ひ弱なボクでも急所ならダメージが入るようだ。
ちなみに大男が退いた方向はボクの顔の先。つまりパオーンが見えてしまった訳で。
うーん、デカイ……。この性転換する前のボクではとても及ばない立派な物をお持ちでした。
だからといってそれを味わいたいなど毛程思わない訳です。どうぞお帰りはこちらです。
そんな男の主張をしていた強姦魔だが、撃退と同時にボクの腕を押さえていた者を吹き飛ばしてくれた。
窮地まであと一歩という状態を脱出したボクだったが、未だ現在、安全というには及ばない状況に立たされている。近くに落ちていた鞭を拾い上げボクは再び身構える。パンツ何処行った、と探す暇もない程だ。
そこまでやって漸く声の主の正体を確かめる。
するとそこには男たちがひとかたまりにまとまっていた。何か網の様な物で包まれて。
その隣にその犯人であろう、黒いとんがり帽子を被ったお姉さんがいた。
如何にも魔女ですと言った体裁。一瞬コスプレでもしてるのかと思ったが、この世界には魔法が存在することは今ボクを襲っている男たちから聞いているので知っていた。つまり彼女は本物の魔女なのです。
きっと網の様な何かは彼女の魔法なのだろう。
そしてその彼女が指を私の周りの男たちに向け、何かを呟いた。
と、同時に太い糸が指から放たれ、男たちに迫るとパッと蜘蛛の巣の様に開いて包み込んでいく。あれ? もしかして助かった?
男たちはもがけばもがく程、蜘蛛の巣に絡め取られるようにこんがらがっていくのが見える。最初は離れていたにも拘わらず、やがては下半身をむき出しにしながら肌を触れ合わせるように組み合っていく。おっと、ボクもむき出しだった。
サッと辺りを見回し、動く者が居ないのを確認するとボクはパンツを回収してソッと足を通していく。
が、しかし、お姉さんに背を向けてしまったのが間違いだった。敵を倒してくれたからと言って味方であるなんて誰が保証してくれよう。
ボクは敵を倒してくれたことで安心してしまった。そしてボクは無防備に背中を晒し、パンツを穿くという所行をしてしまった。
そんな愚かなボクに対し、男たちに向けたのと同様の魔法を飛ばした彼女を誰が文句を言えよう。
――もちろんボクだ! 当然の権利だよね。
「ちょ! 止めてって! ボクを助けてくれたんじゃないの!?」
「むふふ。男たちからは助けて上げたけど……ご褒美が欲しいかな」
この場においての絶対的強者のネコを思わせる笑みに何も言える訳が無い。それとご褒美という言葉が何か淫靡的な意味に聞こえてしまう、魔女的ルックだけに。
ボクのほうが可愛くてエロティックなのはこの際置いておく。
お姉さんは糸で捕まえたボクを釣り竿のリールのように巻いてボクを手元へとおびき寄せる。そして――。
「――フィィィィイシュ!」
と高らかに声をあげた。
うーん、この世界にも釣りはあるんかぁ……などとどうでも良いことを考えて流れに身を任せるしかなかった。
ボクは身体を守ることに必死で体力を使い切ってしまったみたいなんだ。動くのも億劫だ。
三〇分も歩けば休憩を必要とするこの身。全力で暴れれば当然疲れるよね? でも、精神集中していたからその疲れを感じていなかっただけで、一度切れてしまったら、もうどうにもならなかった。
お姉さんはボクの身体をなで回しながら「アナタは戦利品。だからアナタは私のものよ」などと言ってきた。なにをアホな言っているのこの人。
でも、そう思ったのはボクだけじゃなかったみたいだ。
「ふざけんじゃねぇ! そいつは今日俺様が頂くんだ!」
「その次は俺の予定だったんだ!」
『そうだそうだ!』
ボクが蹴っ飛ばした男とそれに巻き込まれた男が立ち上がり、何か理不尽なことをほざきやがった。それに呼応するように捕まった男たちが声を合わせる。
というか何か勝手に決めてんだって感じだよね。しかもこういったときだけチームワークがいいし。
「うるさいわ。アナタたちにこの子は釣り合わない。アナタたちなんて場末の娼館がお似合いよ!」
そう言うやいなや、魔女のお姉さんはもごもごと何かを口ずさみ、杖をかざす。あ、杖は気付かなかったな。
そして最後に力ある言葉を解き放った。
「受けなさい! <シルブンネット>っ!!」
杖の先端にある宝玉らしき物が光を放つ。その瞬間、
ゾクリッ。
何か良くない物――ゆのつく身体が無い奴――が部屋の中に入り込んできたような気がした。ボク、アレ苦手なんだよね……。
黒く平べったいカサカサ動くアレと同様にどうしても克服できない。
そんなことを考えていると部屋の中が五月蠅くなる。具体的にいうと男たちが五月蠅い。
「お、おいっ……それはやりすぎじゃ」
「お、俺たちを殺す気かよ……」
男たちのおびえは尋常じゃない。ブルブルと身体を震わせ、動けるならばこの場を直ぐに立ち去ってしまいたい、そんな感情が読み取れた。
「大丈夫よ。動かなければ5分くらいで効果は切れるわ」
「5分も動かずにいられるかっ!」
うん、無理だよね。たぶんピクリともしてはいけないんだろう。そんなの不可能だ。
ボクは思わず男たちの言葉に頷いてしまう。未遂だし、流石に殺したいくらい憎んでるわけじゃないので、それは勘弁して欲しいところだった。
何よりも殺すって言葉が出た以上、この場が血で溢れてしまうことだろう。流石にそれはゴメンだった。
「まあ、がんばって。シルフやっちゃって!」
お姉さんが何かに呼びかけた途端、部屋の中を風が舞う。とても強い風だった。
室内でどうして風が発生するのかはわからないが、原因は分かっている。お姉さんだ。お姉さんが何かやったとしか考えられない。
そのお姉さんが起こした魔法は、薄くて見えづらいが白い縄――おそらくかまいたち――のような何かで未だ無事な男二人を包み込もうとしていた。先程縛られた男共と一緒に。
今回の魔法は男たちの様子から殺傷力を秘めた物であるらしい。先程の男たちの様子からそれとなくは感じていたが、白い縄に触れた所から赤い血がタラリと流し始めている。
少しでも動かないようにと頑張ってはいるが、どうしても白い縄に触れてしまっている状態だ。
でも、お姉さんは言葉の通り殺すつもりはないようで。男たちをそれ以上締め付けるようなことはなく、あの程度のケガで収まっていた。
「じゃあ、私はこの子、連れていくわね」
細身のお姉さんの何処にそんな力があるのか、ネコのようにボクは首根っこを押さえられ持ち上げられてしまった。
「今夜は寝かせないから」
耳元で囁かれた言葉の節々に興奮の色が感じられ、『ああボクは食べられちゃうんだ』と、ただ無力に苛まれることしかできなかった。まあ、男とは違ってそれほど嫌悪感もないけれど。
彼女が泊まっているであろう家に連れ込まれると、ボクは一晩中身体をまさぐられ続けてしまった。ボクはそれに「あぁん」と喘ぐことしかできない。
激しい戦いだった。というかお姉さん、激しすぎ。まさか女同士であんな事が出来るなんて……。
そして憐れにも虜とされてしまったボクが眠りにつけたのは、窓の外が明るくなってからの事だった。
――ボク、女性を相手に初体験を迎えちゃいました……。
転生五日目終了
謎のお姉さん「ふぅ……。良かったよ、ミヅキ」
ミヅキ「ぐすん、ぐすん」
謎のお姉さん「そういえば意外と冷静だったけど、あれ何か理由でもあるの?」
ミヅキ「う~んとねぇ、多分だけど……身体の気持ちかな? 心は怖いし、キモイって思ってたけど、身体が最悪、受け入れても良いんじゃないかって感じかな。もしかすると過去に似たような経験をしたからかも……」
謎のお姉さん「へ-、身体に引っ張られた感じなんだ。じゃあ私も訊いてみようかな」
ミヅキ「え゛……」
謎のお姉さん「あ、ミヅキの荷物はちゃんと回収したから安心してね。じゃあもう一回いただきまーす」
ミヅキ「いやあああああぁぁっ!」