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無職4話 ボク、大ピンチ!




 ――武器や防具は持っているだけじゃ意味がない。ちゃんと装備をするのを忘れるなよ!

 ――そんな装備で大丈夫か?


 という感じの装備ではなく、名称としてのソービ村。

 名前を聞いたとき思わずむちを確認しちゃったね。大丈夫だ、問題無い!


 みづき は 革の鞭 を 装備した


 おっと、脱線しちゃった。

 この村はやはり『村』というだけあって何処どこか閑散としている。ぶっちゃけ何もない。

 建つ家はまばらで木造建ての一軒家だ。少しボロい。先祖代々とまではいかないが長く住んでいるのだろう。

 平屋の家の屋根はわらの様な物で覆われており、雨が多いのだと予想させる。まあ、ここら辺暑苦しいし、それも納得だ。傾斜はさほどないので雪は降らないと予想がつく。


 さて、そんなソービ村ではあるが、つじ馬車が通ってあるだけはあってかちゃんと宿が設置されている。

 立派、というほど大きい建物ではないが、一階は――宿だけは二階建てだった――住民たちの酒飲み場も兼ねてるらしくそれ相応の広さを設けている。というかこの村にこんなに人いるの? ってくらい混雑している。満席どころか、自分の家から椅子を持って来て一角を占領していさえしている様子。お前等、酒好き過ぎんだろ。

 ……まあ、村に何もないからかもしれないけど。

 そんな喧噪けんそうの中にボクはいた。


「へへっ、嬢ちゃんいでくれや」


 ボクに話しかけるのは道中馬車の中で一緒だった冒険者。無料で乗せてくれた――『雇われ』らしいので代金を肩代わりしてくれた――ソウフさんを端に追いやってぼくの隣を占拠している。実に図々ずうずうしい。

 やはり冒険者というイメージの通りの存在か。職業という枠には収まってはいるがゴロツキ同然。正直、酒臭いしもっと離れて欲しい。


「しっかし、こんな美人と巡り会えるなんてな。ソウフの旦那の馬車に乗って正解だったぜ」


「ああ、本当にな。しかも久しぶりに見る女がこれだぜ? 堪んねぇ」


 酒臭い息をまき散らしながらボクの身体をめるように見つめてくる冒険者。ホント止めて欲しい。

 女体となったこの身体。ボク自身素晴らしい物と自負しているが、人に見られるのは少し……ううん、かなり嫌だ。それが性的な物だとするならより嫌悪感が肥大化する。というか隙あらばお尻を触ろうとするのはマジ止めて欲しい。殺すぞ貴様ら!


 ――ボクの鞭の出番ももうまもなくかもな。


 むろんそんなことは出来ないし、するつもりもない。

 ふっ、だが考えるだけなら自由だからな!

 ボクは心の中でコイツらをいつくばらせてたたいていく。ふぅ、満足満足。


「――ところでYO。おJOさん、KYO泊まるばSHOは決めているのKAI?」


 もうボクの中ではソウフさんの口調はこれで決まってしまった。だって、行動の至る所でソウルを感じるんだ。むしろ狙ってるよね?

 おっと、それよりも……。

 確かにソウフさんの言うとおり宿をどうするかが重要だ。村に来た以上野宿は流石さすがに勘弁。願わくはベッドの上で惰眠を貪りたいところである。


 ちなみにだけど、宿として機能しているのはここだけだ。けど、泊まるだけなら民家を借りればいい。多少お金を握らせれば床を貸してくれる事は道中で教わっていた。

 てか、村娘って設定なんだから「そんなこと知ってるはずだろ?」とかれる覚悟はしてたのだけど……やはり脳内が『エロと金』で埋め尽くされた男の冒険者。ボクの胸に視線が(くぎ)()けであった。だからそんなことを気にする余裕もないようで、ボクの尋ねた事を考えもしに教えてくれた。ホント、バカだよね、男って。

 つい先日まで男だったのは棚上げにしておく。


 その事を踏まえれば、コイツらと同じ宿に泊まりたいとは思えない。そんな事したら多分……いや、絶対に()()いを掛けられる。この世界の鍵がどうなっているのか知らないけど、木造建築の宿では仮にあったとしても信頼できない。

 けどボクの手持ちは金貨のみで。

 村人は金貨に対するお釣りなどもらうなんて事は出来るはずもないだろう。というか最低いくらという気持ちだから返ってこない。まさにこれは困ったぞ! という状況だ。


 ――よしっ、決めた。コイツらを酔い潰そう!


 夜這いも出来ない程泥酔させれば問題無い。他に選択肢はないし、ボクにお酌されれば彼らも本望だろう。


 身を守るために決意したボクは愛想良く男たちを酔い潰していく。ここの支払い? そんなのボクは知らないね。だってボクは飲んでいないから!

 彼らの財布をも空にするためにもボクはびを売った。ボクにいやらしい視線を向けたのを後悔するがいい! けっけっけ。


 しかし、そんなボクを嘲笑あざわらうかのように事は進む。

 ボクは考えていなかったんだ。酔わない体質、悪酔いする性質、そして端から眺めていた村人たちを……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ボクは今ベッドの上にいた。というか投げ飛ばされた。

 ここは先程の酒場の二階――つまり宿の機能を備えている部屋だ。

 ボクを投げ飛ばしたのは顔を真っ赤にした冒険者。とても大きな身体をしていて目の前に立つと壁がそびえ立っているかのように見える。

 そんな人物がボクの前に立ちふさがっていた。


 彼は明らかに悪酔いをしている。もしかすると意識がないのかもしれない。酒乱だ。酒乱がいた! 酒は飲んでも飲まれるなよ! って飲ませたのはボクだったァッ!



 先程――その男は突如「よぉし、酒の次はオォォォオンナァァァだっ!」と叫んで立ち上がり、お酌していたボクを脇に抱えて階段へと向かいだした。

 それに続くようにして、素面しらふの男たちと関係のないはずの村人が次々と立ち上がる、まるで「ふっ、次はオレの番だな」と言わんばかりに。

 そんな男どもは彼に続くようにして階段を上り始めた。

 そしてこの部屋へと連れ込まれてしまった訳で。もちろん抵抗したさ。でもボクの力ではどうすることも出来なかった。それどころかベッド投げられたときは「きゃっ」と女らしい悲鳴を上げてしまう始末。

 ボクは心も女になりかけているのかもしれない。



 そして現在ボクを連れ去った、目の前に立つ男の他に、入り口のドアから次から次へと男たちが姿を現している状況だ。先ほど動き出した男どもだ。

 見える男たちの瞳にはギラギラとした炎が宿っており、それが肉欲に因る物だというのがはっきりと分かった。え……と……ボク、ここで食べられちゃうの決定?


『げへへへっ、げへ、げへへへ』


 男たちはゾンビの様にのそりのそりと近づいてくる。感染するところとかマジゾンビ。

 おいっ、酔ってないやつはどういうつもりだ、訴えてやる! やっぱりコイツらはバカなんだ。

 ただゾンビと違う所がある。ゾンビは(どんな相手にも変わらない態度をとる)紳士だが、彼らは迫りながらズボンを下ろし始めている。ちょ! 汚いの見せないでよ!


 ――ヤバイ……ヤバイよぉ……。


 どこかの芸人さんの様に、ギャグではなくマジで焦る状況であるにもかかわらず、意外にもボクは冷静に事態を確認していた。これはおそらく感情が麻痺まひしちゃったのかもしれない。色々あって疲れてたし、ね。

 それがこうを奏したのかもしれない。もし違っていたとしてもこの状況ならば歓迎すべき事だ。

 でもまあ、意識がしっかりしてるってことは、最悪の場合は……。


 そんな訳でボクは打開策を考える。

 どうにかして壁のようにたたずむ酒乱の男を排除してドアから逃げる……なんて選択肢は採れそうもない。大男にはじき返されずに済んだとしてもゾンビの様にどんどん増えてくる男たちまでは排除できる訳がない。

 入り口に向かったらBADEND直行だ。


 ならばボクの進むべき道は後方、つまり窓だ。

 二階から飛び降りるのは怖い。けれど今の状況じゃそれ以外に逃げ道は存在しないのだ。きっとケガするだろうな。でも犯されるよりマシ。しかも輪姦りんかんなんて……。

 ――かえでの記憶を思い出す。

 ボクは覚悟を決めた。


 さあ、飛び降りようとしたその時だ。突如ドアの先、廊下側から「ぎゃああああああっ!」という叫び声が聞こえてきた。

 振り向いてしまった。えっ、何? どうなっているの? と。

 聞こえたのは恐らくおこぼれを預かろうとした、初動が遅れた村人たちの声だろう。それが断続的に聞こえてくる。

 何が起きてるか分からないけど、たぶんひどい目に遭ったに違いない。ざまあみろ! もう一度、ザマーミロ!


 と、そんなことを気にしてしまった所為か、いつの間にかベッドの周りを男たちに囲まれてしまった。やっば、下手()いた……。

 この状況に追い込まれてしまえば窓から逃げるようなことすら出来そうにない。

 相変わらず男の叫び声は聞こえるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。どうにかして逃げないと。


 ――ボクは腰に収めている鞭を装備した。


 男には勝てないと分かりつつも戦わなければいけない時があるという。それがボクの今だ。

 女になってから我が身に降りかかったのは皮肉としか言い様がない。でもボクは戦いを選んだ。

 さあ、掛かってこいっ! 勝てないまでもギッタンギタンにしてやる!






転生五日目

ソウフ「HEHE、どうせ俺は……」

ミヅキ「そういえば、ついでとばかりに酔い潰してたかな。というかさ、一人で落ち込んでないで助けに来てくれよ。ちょっとくらいサービスしてやるからさ(っても、投げキッスくらいだけどな)」

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