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魔性の女を目指して  作者: 物化
6/7

第6話

「はっ、はっ、はっ」


早朝4時半。日課のランニング中である。いつもならばまだ寝ている時間なのだが、早くに目が覚めてしまったのでこの時間に走っている。他の理由などは特にない。理由を無理矢理挙げるのであれば、今日はお弁当と朝ご飯の当番だからちょうどいいかなあ、という程度である。


「はっ、はっ、はっ」


さすがにこの時間だと人がいないなあ。4月の早朝の空気はまだ冷たくて走りやすい。


入学式から1週間が経ち、私は友人たちと落ち着いた心地の良い日々を過ごしている。優衣ちゃんや楓ちゃんともすっかり仲良くなれたし大満足な日々だ。段々と2人以外の人とも少しだけだけど話せるようになってきた。


そんな大満足な日々ではあるのだけれど、やはり目標は『魔性の女』である。正直、私は確固たる意思があって『魔性の女』を目指しているわけではない。まあ前世の私の夢というか目標?みたいなものなのだから大事にしなければいけない。そもそもこの日課のランニングも『魔性の女』になるための身体作りのためなのだ。男を魅力するために頑張らなければ。前世の父も言っていた。「不安から努力が生まれ、努力が自信へと変わり、自信が勇気となるのだ」と。よし、自信を持って男を魅力しよう。一歩踏み出す勇気を持とう。努力は継続しているのだ。そろそろ自信くらい出てきても不思議ではない。


「はっ、はっ、はっ」


そういうわけで私は走る。ランニングや料理の時限定の髪型であるポニーテールを揺らして。


カタン。

突然郵便受けが閉まる音がした。


なんだろうと前を見ると一軒家の前に自転車に跨った男が一人。男の特徴はツーブロックの髪型に悪い目つき。身長は180センチくらいあるだろうか。


私はその男を知っていた。入学式の日に目が合った同じクラスの男だ。確か名前は立浪龍馬くんだったかな。授業中によく居眠りする印象が強い。その印象と見た目によりヤンキーなイメージだ。


「お?」


私の視線に気がついた立浪くんはこちらを向いてその鋭い目つきで私を見る。少々びびっちゃうけど挨拶くらいはしておこうと、私はその場で立ち止まり右手を上げた。


「おはよう、立浪くん。朝早いね」

「おおー、お前こそ朝早いな。えーっと『魔性の女』の里中だっけ?」


やはり自己紹介が印象的だったのか私と始めて話す人は、まずこの話題を口にする。自己紹介で『魔性の女』宣言するくらいなのだから少々いじってもいいかなー的なスタンスなのだろう。こちらからはあまり歩み寄れない性格なので、正直かなり助かっている。この話の流れで「俺も誘惑してよー」みたいなことをよく言われたりもするので、『魔性の女』になるのも時間の問題じゃないかな?失敗したと思って落ち込んでいたあの自己紹介は実は成功していたのだ。入学初日に友達2人と自己紹介成功という偉業をいつのまにか成し遂げていた。怪物1年生里中凛の爆誕である。


しかし立浪くんとやら、見れば見るほどいかつい。でも案外こういう男はちょろかったりするのだ。雑誌の特集である『いかつい男の惚れさせ方』にも書いてあったし。うん、最初のターゲットは立浪くんにしてみようかな。まずは簡単そうな人で練習しなきゃ。


えーっと確か、雑誌ではこう書いていた。『いかつい男にはまず自分を弱く見せることから始めよう』と。


「や、やだなーもーう。私がそんなことできるように見えるのー?」


困ったようにしてみた。立浪くんの見た目が怖いから3割増しで困ったようになってしまった。雑誌によると次にいかつい男はニヤニヤしながらこちらをいじってきたりするようだ。いかつい男は「俺ってどSだから」とよく言う習性を持っているらしいので、こちらは弱い発言をすれば効果的なようだ。さあ、どう来る。立浪くん!


「ん?あぁ、悪い。ちょっとした冗談だからそんなに困るなよ」


た、立浪くうううん!?ここで謝ってくるの立浪くん!?


「え?あぁ、うん...。困ってなんかないよ?むしろ困り知らずだよ?うっふっふ」


『いかつい男の惚れさせ方』使えねえええ!

も、もうダメだ。私にはもう参考になるような知識も経験もない。立浪くんの気遣いのせいでさらに困っちゃったよ!


「困り知らずって言葉初めて聞いたぞ。まあ確かに良いトコのお嬢さんって感じだな」


ま、まさか...極めつけに褒めてくるなんて。完全に『いかつい男の惚れさせ方』の奥義「私ってどMなんだー。えへへー」ができなくなってしまった。もう私には当たり障りのない会話という武器しかない。まさか初期装備で戦う羽目になるとは。


「そんなことないよー。すごく普通の家庭で育ちましたから。つまらないくらいの普通っぷりです」


うん、完璧。100点満点の当たり障りの無さ。


「...普通、か。......おっとジョギングの途中だったよな?邪魔したな。そんじゃまた学校でな」

「あ、うん。こちらこそ新聞配達の邪魔しちゃったみたいで。じゃ、またね」


立浪くんって意外といい人なのかも。見た目が怖いだけの普通の人なのかな。でもさっきの一瞬だけ、私が当たり障りの無い返しをした時にものすごく怖い顔をしていた。同時に悲しい顔をしていた。何かまずいことを言ってしまったのではないか。


...うーん。やはりここは謝るべきなのかな。もし私の勘違いで謝ってしまったとしてもそれはそれで会話のネタになる。私の最初のターゲットとして狙いを定めたのだから会話のネタは多いに越したことはない。とりあえずは謝るタイミングときっかけ作りだ。


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