第5話
私は教室の自分の机で後悔していた。またもやである。
いやね、すぐに魔性の女は無理だと思ったよ?だからせめて友達が欲しいなあって思ってたよ?いやー、甘かった。甘かったよね。
自己紹介でいきなり大声で『私は魔性のになる!』なんて目標を宣言した人が友達ができるわけないよね。私に友達ができるであろうか、いやできない。...うん、反語である。まだ皆は習ってないだろうなー。へっへっへ、参ったか。私と友達になればお勉強くらいなら教えてもいいんだぞー。あ、今の私すごく嫌なやつだ。こんなんだから友達ができないんだ。
「うああああぁ」
小声で唸る私。ぐりぐりと額を机に擦り付ける。何をやっても気が紛れない。
むくりと机から顔を上げると、ちょうど教室から先生が出て行こうとしていた。そしてざわつき始める生徒たち。ふむ、ホームルームは終わったようだ。帰宅時間である。周りを見渡すとひそひそと話している人がちらほらいた。これは...私の話題だろうか。ううう。
ネガティブな想像をしながら私は無言で立ち上がり教室の外へと向かう。明日からの計画を立てなきゃな...。
「ねえねえ!」
んん?元気そうな女子生徒の声が聴こえる。
友達と話しているのだろう。いいなー、友達。私も欲しいなあ。
「ねえってば!里中さーん」
「えっ?」
あれあれあれ?うそ、マジで?今私の名前呼ばれたよね?しかも女の子から。うおお。
私は歓喜しながら振り向く。この機会、逃してなるものか。
「おっ、やっと気付いてくれたー。」
そこには女子生徒が二人。一人はにこにこと私に微笑んでくるショートが似合う元気そうな女の子。
「優衣ちゃん、いきなり後ろから声かけたらびっくりしちゃうよ?」
もう一人は八の字眉毛が特徴的なボブカットの女の子。 うん、二人とも可愛い。仲が良さそうだけど中学から一緒なのかな?
「こ、こんにちは〜。えっと...」
名前を思い出そうとして固まる。思い出せない。同じ教室に居たのだからクラスは一緒なのだろう。
そういえば自己紹介の前後は自分のことで精一杯で何も聞いてなかったっけ。
「んん?あっ、まだ名前覚えてなかった?私は早乙女優衣と申します〜」
「私は佐野楓と申します〜」
早乙女さんのノリに早乙女さんは合わせたのだろう。少し照れながらの挨拶である。 とても可愛い。
「私は里中凛です。よろしくね」
冷静に返す私だが、実はこの時心の中でガッツポーズ。やったあぁぁぁああ!
「うんっ、よろしくー!ねえねえ凛って呼んでもいい?」
「ずるいよ優衣ちゃん。私も、その、凛ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん」
私はにこりと笑って言った。
そういえば凛って呼ばれるの家族以外初めてだ。今までの私の人間関係って一体...。あっ、やばい。嬉しすぎて泣きそう。ああ、顔が熱い。
ん?なぜか早乙女さんがにこにこと笑いかけてくる。そして佐野さんは顔を赤らめてながら微笑んでいる。何故か二人とも「うおお...」と唸りながら。
「えっ、どうかした?」
「ううん!ただ表情がコロコロ変わっておもしろいなーって」
「うんうん。とても可愛らしくて和みます。ほっこりします」
「え、いやいやいや!そ、そんなことないよ!?2人の方が可愛らしいよ!!」
本心である。しかし二人はそんな私の言う事なんてどこ吹く風と顔を合わせて笑っている。優しく微笑んでいる。もうニッコニコだ。
そんな二人に釣られて、私もついつい笑ってしまう。ニコリと。三人合わせてニッコニコニコだ。家族以外と心から笑って話したのは久しぶりだろうな。いや、初めてだったかな。まあ何でもいいかな。早乙女さんや佐野さんと共にいる時間がこんなにも心地よいのだから。細かいことはどうでもいい。
このようにして、私は無事初日の目標を達成した。花丸の達成スタンプを押してあげたいほどの成功だ。
余談だけれど、今夜の晩御飯はお赤飯だった。家族が皆笑っていた。ニッコニコニコニコだ。なぜだろう。