第4話
私は教室の自分の机で後悔していた。
入学式などの行事を淡々と、黙々とこなしてしまった。何事もなく粛々と進めてしまった。
まあ何人かのチャラい先輩には声をかけられたよ?でも奴ら必ず複数人で囲みながら誘ってくるんだもん。超怖い。
魔性の女ならどう対処するんだろう。適当にお話して心を掴むのかな。
だとしたら私には向いてない気がする。ただでさえ友達もいないのに...。
まあまあまあ。
終わったことは仕方ない。ここからです。ここから今日という日を実りのある日だったといえるようにするのならば、やはり自己紹介で大成功を収めるのが一番でしょう。
万が一、自己紹介で爪痕を残せなかったとしたら。まあ、それでもいい。挽回はいつでもできる。
だがしかし譲れないこともある。友達が欲しい。切実に。
私は友達がすごく欲しい。
中学生の頃には何人か学校で話すくらいの人はいたけれど、放課後に遊んだことはない。その頃は人見知りに加え料理に、勉強に、美容のための運動にと色々と努力していた時期だからね。だからどうしても家族以外の人と接する時間が無くなっていたのだ。
よ、よし。友達を作るぞ。私は....。
まずは机の上に肘を置き、祈るように手を組み俯いたこの姿勢を変えなくては。
暗い子だと思われてしまう。話しかけづらいことこの上ない。
とりあえず姿勢を良くしてみよう。ピンと背筋を伸ばし、少し顎を引いてから椅子の背もたれにきちんとお尻をつけてから真っ直ぐ前を見つめてみる。
おっ、男子生徒と目があった。ショートカットでツーブロックのゴツい男だ。結構強面だなあ。
「..........」
えっなに?全然目を逸らさないんだけど。怖い怖い怖い。しかも真顔じゃん、やだわー。私もまた真顔なんだけれど。
「......」
たまらず目を逸らしてしまった。真顔で目を逸らしてしまった。しまった、これじゃあ私が感じの悪い人みたいじゃん。
私はただ人見知りなだけだよ!という目線を再び強面男に向けてみるが、強面男はすでに窓の風景を眺めていた。くっそー、せっかくの男だったのに。
「おーい、ホームルーム始めるぞー。と言っても今回は自己紹介とかで終わっちゃうけどな」
坊主頭のいい感じに日に焼けている、いい感じのおっさんが教室に入るなりそう言った。我が1年1組の担任である。
セオリー通り出席番号順に自己紹介が始まった。
やばい。何も考えていない。というか緊張で全く考えがまとまらない。
今日からは全て初めての体験になるのだから本当に緊張する。
ドクッドクッと心臓の高鳴りを感じる。まるで心臓が耳の横にあるようだ。
「じゃあ次は、里中!」
「は、はい!」
うおお、まじか。いつの間に私まで回ってきたの?自己紹介の内容まだまとまってないのにー。
皆の目線が私に集まる。中にはヒソヒソと話す男子もいる。うああ、この空気日本人のほとんどが苦手だよ。人見知りの私は尚更苦手だよもう。と、とりあえず何か話さなきゃ!
「さっ、里中凛...です」
震えながら声を絞り出す。
次は、次は何を言おう。早く何か言わなきゃ!
よろしくお願いします?これはテンプレだからつまらない。
友達100人欲しいです?これは子供っぽい。
えーと、えーと。私はここに何しに来たんだっけ。
「あっ、わっ私!魔性の女目指してます!!」