第3話
ふうー。
ランニングを終えてシャワーを浴びてすっきりだ。 ついでに歯磨きもしたから完璧だ。
時刻は7時45分。ちょうどいい時間だろう。
再び制服に着替えて鏡の前へ。
そして回転する。
くるり、くるり。うん、可愛い。
もうすぐ俺も高校生だ。高校入学と同時に私の魔性の女へと変わるのだ。うまい具合に勇気が出たらだけど。
というより魔性の女って何すればいいの?
受け答えとか何て言えばいいのだろう。
身体ってすぐ許しちゃえばいけるかな。
いやー、でも男の力って強いし怖いわ。
まあいいか。これ以上考えても何も思いつかないだろうし。よしこの件は保留でいいかな。
とりあえず朝食を食べようと1階へと降りて、リビングへ。
「おはよーう」
家族へ挨拶。挨拶は人としての基本だ。これには魔性の女も性別も関係ない。
これは前世、今の親にも共通して教わった。
「あら、おはよう。ご飯できてるわよ」
「うむ、おはよう。高校入学おめでとう」
「ありがとう。父さん、母さん」
我が両親だ。
母さんははにこにこと笑顔を絶やさない優しい人だ。いつでも家族のことを1番に考える優しい人だ。そして何よりまだ若々しい。まるで20代後半という見た目だ。一緒にいるとぽかぽかしてあったかい気持ちになれる。
父さんはオールバックの銀行員。まるで警察官のような体格と面構えの強面なおっさんだ。職業柄、几帳面な人だが何というか可愛い一面もある。以前ペットショップで父さんを見た時は驚いた。すごく緩んだ顔で犬を見ていた。まあ、私も可愛いと思うよ?ペキニーズ。
「おおー、姉ちゃんおはよーう!」
後ろからでかい男がやって来た。私の弟である秋也だ。爽やかに切り揃えられた短髪の爽やかイケメンである。身長188センチの身長を活かしてバスケのセンターというポジションを2年から任されている。食べることと体を動かすのが好きらしく、たくさん食べないと痩せていくという女の子からしたら何とも羨ましい体質だ。
「おはよう、秋也。今日もでかいね」
「姉ちゃんは今日も可愛いねえ」
むにゅり。
ほっぺを摘ままれた。
もむり。
うおお、今度はほっぺを揉んできた。
弟このやろう。
げしっ。
「うおおっ、脛はずるいよ!姉ちゃんはすーぐ暴力振るうから彼氏できねえんだぞー」
「私はまだ本気出してないだけだし」
「そんなダメな奴の言い訳みたいなこと言ってるから彼氏できねえんだぞー」
うぐっ。いいじゃん別に、彼氏なんかできなくても。
あっ、違う。私は魔性の女になるんだ。
「こらー、いい加減朝ご飯食べないと2人とも遅刻するわよー?」
とのほほんとした口調で母さんは言った。
なるほど、遅刻か。
入学式で遅刻なんて後々の魔性の女計画に役立つなあ。あっ、でもそれってすごく目立つじゃん。
......よし遅刻はだめだ。
やはり魔性の女になるにはこの性格が1番の障害になりそうだなあ。
そんなことを思いながら私は食事を済ませ、登校の準備をして玄関を出る。
「いってきます」
さて、ここから私の高校生活が始まる。
魔性の女への偉大なる第一歩だ。
無理せずゆっくりやっていこう。
とりあえず当面の目標は、交通ルールを守ることと考え事をしながら歩かないことかな。