第1話
「その軟弱な態度は何だ!」
聞き慣れた男の怒号が聞こえる。
これは私の夢だ。そして前世での自分の記憶だ。
生まれ変わってから頻繁に見るのだからすでにもう慣れてしまった。
前世の父は10歳前後の男の子に怒鳴り、時には暴力をもって躾をしている。その方針は『男らしく』だ。少々やり過ぎな躾のような気がするのだが、前世の父は妥協することなく前世の私を躾をしていた。
男は前を向いて堂々と、はきはきと大きな声で話せ、弱いものを助けろ、女子供に手を出すな、常に全力で物事に取り組む、法律を厳守しろ、常に向上心を忘れるな、などなど。このような躾を前世の私は受けてきた。
ただ前世の私は内気、人見知り、運動音痴とあまり男らしくない性格なので、その躾はあまり意味のないものとなっていた。
そのままでは父の怒りを買ってしまうため、私は父の前だけでは常に男らしくあるという何とも男らしくない能力を得た。簡単に言うと内弁慶だ。
そして前世の父の教育を受けてきて、私には気づいたことがあった。
女の子の方が楽なんじゃないか...?
女の子は男からちやほやされ、優しくされ、守られる。
そして中には男の財産目当てで近づき、その全てを根こそぎ奪っていくような魔性の女と呼ばれる者もいる。
男らしい男でも騙される、そんなすごい存在がいる。男の中の男を超える存在。
男らしい男になれないのなら、男らしい男を超えるためには、魔性の女になるしかないのではないか。
まあそんなことは前世の私には不可能だった。性別の壁は厚い。自分でもくだらないことを考えていたなと思う。
高校入学の前日、そんなことを考えながら私は歩いていた。ぼんやりとしながら歩いていた。
そしていきなり、ドンっという大きな音と衝撃を感じた。
そこで私の夢は終わる。前世の私はそこで死んだのだ。