第六翼 殺意の翼
佑助の合図と同時に大和は手に持っていたフラスコの蓋を外した。
その瞬間、それまで佑助達を追い掛けていた機械兵たちは急にギシギシと音をたててばらばらになってしまった。残ったのは無惨になった無数の機械片…。一瞬の出来事だったため、何が起こったのか理解するのに時間がかかった。守はポカンとしている。
「軽く五万は居たぞ…それを一瞬で…機械兵にならなくて本当に良かったわぁ。」
コイツの蛇行運転のせいでこんな事態を招いたと言うのにお気楽な奴だ。
大和は自慢げに仕組みを説明しだした。
「まぁね。奴らの身体の基盤中枢部を酸化させただけなんだけど、即効性だからすぐばらばらになっちゃった。」
佑助は何が大きな殺気を犇犇と感じていた。それと同時に身体右半分に違和感。たぶん大和の劇薬の影響を自分の基盤にも少なからず受けてしまったのだろう。しかしここで症状を訴えれば自分が機械人間であることを晒すことになる。いつあの機械兵達のようにばらばらになるか分からない恐怖と何処からか感じる強力な殺意の恐怖が佑助を焦らせていた。
「おい、佑助?大丈夫かぁ!?」
守の一言で我に返った。足が震えている。なんだこの底の見えない恐怖は…。
「いや…すまん。何でもな…」
佑助は即座に振り返った。するとそこではばらばらの機械兵の部品達が急速に集まり出していたのだ。なにか形を形成している。
「なんだ…これは…。」
佑助はやっと強力な殺意の出所を確認することができた。部品達はみるみる集まって巨大な機械兵へと変形していく。巨大兵に変化していくと共にその兵達の殺意を吸収しているようだ。大和と守は余りの殺気にその場に呆然と立ち尽くしていた。
この殺気は…キセキ…いや、それ以上…
佑助は必死で背中に手を回して剣を抜こうとしたが指先一本も動かなかった。ただ巨大な殺意に立ち尽くし死を待つのみの身となってしまったのだ。
「身体が…動かない…っ…佑助ッ」
守は俺に助けを求めているようだかどうすることもできない。完全な巨大機械兵となった部品達はその拳に握る刃渡り10m以上の剣を守目掛けて振りかぶった。一瞬、硬直が解けたのかギリギリ致命的な怪我は回避出来たようだが守の腹を剣が見事に切り裂いた。
「ぐぁああぁぁあああっ!!」
辺りに真っ赤な鮮血が飛び散る。守はぐったりと倒れ込んでしまった。まずい…このままだと多量出血で最悪死んでしまう。
大和は返り血を浴びて真っ赤になっていた。それとは逆に顔面蒼白で目は虚ろで恐怖に染まっている。機械兵は続けざまに守に向かって動き出した。もう守に回避する程の力は残っていない。最期の一撃を決める瞬間だった。ガキンッ!!と激しい金属摩擦音が真空を揺らした。着地音と共に三人の前に立っていたのは偉大なる人物だった。