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銀色の翼  作者: 市ノ川 梓
第断章 悪魔の心臓
39/43

第三十八翼 悪名の愛


第三十七翼を投稿してから一週間が経ってしまいました…。

最近とても忙しく、小説を書ける時間をあまりとれなくて…まぁ言い訳です…。

すいませんでしたm(__)m


まだ落ち着きそうには有りませんが、何とか書き上げた話を投稿します。


では、三十八翼をどうぞ♪

「クローバー=ジョーカー=コロナ=ラヴマーク=ユース=シスシティ…。貴女そなた真名まなじゃ。吸血鬼以外には、簡単に教えるでないぞ。」

私はまた美しき吸血鬼に呼ばれていた。彼女はあの時と違い、淡い緑色のワンピースを着ている。変わらない王室に荘厳な玉座、眼を奪われる程の美しいじゅう

「…神殺かみごろしの連中には特にのう。」

女王吸血鬼はやはり長い脚を組んで深く玉座に座っている。赤ワインを片手に持って、これまた豪華な扇子をもう片方の手で扇ぐ…。揺らす真っ黒な前髪が風に吹かれて上下する光景が何ともおもむきがある…。それ以外の動きがこの空間にはなかった。何もが静止して動かない。まるで描かれた絵画の様…。クローバーは 前回会ったときに比べて幾分か笑顔だ。

「くくっ…。普段はコロナと名乗ると良いぞ。長たらしい名も面倒この上ないしの。」

こちらの反応を窺うように私の顔を覗いている。なるべく表情を顔に出さないよう上唇をきつく噛んだ。吸血鬼になってからいまいち力のいれ具合が分からなくなった。この身体は入れようとする力の10倍の力が出てしまう。噛んだ唇から血が漏れだしていた。

「神殺…。奴等はわらわ達と同じニンゲンに神と呼ばれる存在の者じゃ。」

「神…ですか…。」

すっかり恐怖心を忘れてしまった私は対等な立場でクローバーと話せるようになった。そもそも私が警戒する必要はないのだ。

「そう…正確には妾達が邪魔神、奴等が仁神じんしんじゃがの。まぁ…面倒臭い話は追々することにして、簡単に言ってしまえば、邪魔を殲滅することで生き永らえておる輩じゃ。」

「簡単に言ってしまえば…ですか。では簡単に言えば、神殺達は吸血鬼の敵であると?」

クローバーはグラスの中身を一気に口に入れてしまった。あのグラスが空になったところを見たのは初めてだ。いつの間に現れたのか黒い喪服に身を纏った執事のような男がクローバーの持つグラスにワインを注ぐ。今度のワインは透明だ。半分ほど注がれるとまた男は元々そこに存在しなかったかの様風も起てずに消えていた。

「まぁ、今はそう捉える方がよいかの。いずれ神殺と対面する時が来るのじゃ…。現物を見て敵か敵でない者か…。自分の目で判断するのが一番じゃ。」

さっきからクローバーの発言は一々引っかかる。何か隠しているのは間違いないはずなのだが…。

「はぁ…。今はそこに深入りしないようにします。」

「それが貴女そなたにとっても妾にとっても一番じゃ。」

またワインを一口。口に液体が吸い込まれ、その喉仏のどぼとけが上下する一環の動作はやはりニンゲンに見出せる美ではない。

「…で、妾に用とは何かの?可愛い娘の為とあらば何でも聞くぞ。」

にやりと汚く笑う吸血鬼。それは召使めしつかいの中で密かに血の芸術と語られているクローバーには似合わないものだった。

「吸血鬼の吸血衝動について…です。」

下唇から滴る血を舌で舐めまわす。…味はない。吸血鬼は表情一つ変えず質問を返してきた。

「…ほぅ…吸血衝動…とな?」

クローバーはまた汚く笑って美しい身体を玉座から持ち上げた。その瞬間だった。私とクローバーの間にある空間に何かが落ちてきた。それは突然そこに表れ音も起てずに床に落ちてきた。一瞬何が起きたのか理解できなかったが次の瞬間には今まで何を考えていたのかすら忘れていた。

―ニンゲンだ。

既にニンゲンの個体差になど関心を持たないようになっていた。眼で判断できる事と言えば精々性別くらい…。もうニンゲンを食糧としか見れなくなっていた。そもそもその物体がニンゲンだと教えたのは眼球などではなく、鼻だった。それは嗅覚で獲物を探す獰猛な肉食動物の様だ。とにかく今にでもそのニンゲンを喰らいたいと言う衝動が全身を支配してるのだ。あまり元人間としての判断は出来ないと思ってもらった方が良い。

「それじゃ、娘よ。」

ふとニンゲンに釘付けになっていた視線をクローバーの元へ戻した。さっきと全く変わらない立ち位置。

「それが、吸血衝動。」

またニンゲンに視線を戻した。…がそこにはニンゲンの姿は無かった。何も無かった。

「しかも相当感染が進行しているようじゃ…。妾にとっては喜ばしい事じゃがのう…。逆にここの召使達に危険が近づいているのも事実じゃ…。」

全くクローバーの話が耳に入らない。今私の思考は完全にニンゲンを探すことに割かれている。私が王室を闊歩している…。しかしこうして冷静に自分を視ることが出来ているのも自分だ。違う自分が勝手に身体を動かしている感じ…。

「どうしたものかの…。」

クローバーはゆっくり玉座に腰掛けた。またグラスのワインが減っている。

「血ヲオオォォオ!!血ハ何処だぁあ!!」

また勝手に喉が震えている。自分で自分の身体が制御出来ない…。

「全く…我慢の出来ない娘じゃ…。」

するとまた勝手に首が回った。今度のはまた別の力に動かされている。首は勝手にクローバーの方向を向いていた。必然的にクローバーと目が合う―。


―漆黒。

全てを支配する色。どの色にも動かされない孤高の色。どんな色も同色に染めてしまう絶対的強者。全てを無に還す色。全てを吸い込む色。そもそもそれは色なのか。神ですら凌駕した色。そして…

―全てのはじまり。


「大丈夫かの?妾の可愛い娘よ。」

はっとなって眼を覚ますと目の前には玉座から長い脚を放り出して深く座り込んでいる血の芸術。

立っていた、なぜか。普通気絶なりしていた生物は自分を支えられなくなってその場に倒れているものだが、立っていた。確かに自分の二本の足で立っている。

「すまんのう。無理矢理、覚醒状態にあった貴女を戻してしまったからちょいと力の誤差働があったようじゃ。気分はどうかの?」

無表情。それ以外ね表現のしようがない程無表情だった。言葉とは裏腹に心配している様子もなく、だからといって無関心な様子も伺えない。無表情だ、あの表情からは何も感じない。何も。例えるならまさしく死人の顔だが、全くその通りだと言ったらそれは違う。あくまで感情を持ち合わせている顔だ。しかし感情を持っていればどんな無表情をしたところで、少し感情が漏れ出してしまうものだがそれすらない。しかし感情を持っていると此方に思わせる表情だ。

「…いえ、特には。…やはりさっきの感情が…?」

「薄々は気付いていたか…まぁ、ここまで進行していれば嫌でも自覚するの。」

右手に握られていたワイングラスはもうそこには無かった。もう驚かない。この吸血鬼は普通にニンゲン一人を瞬間移動させられるのだから。…もしかしたらこの城ですら。

「まだ、完全には取り込まれていないようじゃが…。妾が何を言っているか分かるかの?」

「取り込まれる…あの人格に?」

ふむ…と手で顎をしゃくって考え込む吸血鬼。やはり一度目にすると暫くはその美しさに見取れてしまう。

「人格…ではないが…あの意識に飲み込まれたら最期じゃ。」

「…最期?」

「完全な死神と化す…と言われておるが…正確なところは分からず仕舞いじゃな。と言うのも大概の奴がその前に感染によって吸血鬼に成ってしまうからの―。



「…つまり、今の私は吸血鬼と死神の狭間にいる不安定な邪魔なんだ?」

「あぁ。てか吸血鬼も死神の一つなんだが、その中でも生物の魂を捕れるのは完全な死神だけだからな、お嬢。」

私とヤナギは王室をでて無意味に永遠に続く廊下を歩いていた。この廊下はダミーでどれだけ歩き続けたところで一生部屋に着くことはないわけだが、ヤナギは私と同じ歩数でぴったりと私の隣について歩いている。この執事は一応、私の味方の様だった。

「完全な死神?じゃあ吸血鬼は不完全な死神な訳?」

「うーむ…それは難しい質問だが…その解釈は半分正しくて半分間違ってるな。」

「どゆこと?」

「つまりは…死神と言う邪魔の括りがあってそこに吸血鬼もその完全な死神も所属しているわけだ。その完全な死神にも正式な名があるはずなんだが、邪魔にとって名を知られるってのは相手に自分の命の所有権を譲るようなもんだから…。」

「…ねぇ…説明、長くない?」

「すまんな、お嬢。俺も死神については深くは知らねーんだわ…。」

「全く…使えない執事ねぇ…。」

はぁ、とため息を吐いてヤナギから視線を前に向けると、突然眼とは鼻の先に十字路が現れた。この廊下は完全に他の空間と隔離されているらしく他の邪魔が侵入するのかほぼ不可能らしいが…。地殻が変動してる?

「あれぇ…こんなところに十字路なんて在ったっけ?…ねぇ…ヤナギ…。」

隣にいるはずのヤナギを見た。がそこには壁しかなかった。

「ヤナギー…どこいっ…」

動き始めると脚に変な感覚を覚えた。何かが脚に引っ掛かっている。下を見ると…

「ぎゃ…!!!!」

絶句した。そこには血溜まりの中で真っ青になって倒れているヤナギが有ったのだ。

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