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銀色の翼  作者: 市ノ川 梓
第断章 悪魔の心臓
34/43

第三十三翼 悪夢の愛

「お嬢、お疲れ様。…どうだった、初めてのクローバー様は?」

王室を抜けると壁に寄りかかっていたヤナギが直ぐに寄ってきた。ふぅ、と溜め息をついてから顔を上げた。

「あんなの見たら自分に自信なくすわ…。」

ヤナギはニヤリと笑った。

「だろうな。勿論、クローバー様だってお嬢の美貌に惹かれて吸血したんだろうが、あれは生き物の比でない。あれになろうと思わず、自分なりに磨いていくしかないな。」

私が長い廊下を歩き始めるとその三歩後ろからついてくる。

「それで、どうする?これからお嬢は何をするのか。」

「…。」

歩む速度を上げた。がヤナギはしっかりとそれに着いてくる。抜け目がない…。

「まぁ…取り敢えず…寝る。」

「そりゃ、名(迷)案だな。」

「ちょっと!(迷)って何よ!?別に迷ってなんか無いわよ!!」

「別に俺は迷い子なんて言ってないぞ、お嬢。」

「あんた…音だけでなんとでも言えるからって…。」

「そう、怒るな。頭に血が昇るぞ。」

「もう、昇ってるわよ!」

黙って歩く…歩く…歩く…。もう、随分歩いたが…全く用意された(らしい)部屋が見当たらない。それどころか他の部屋すら一つもない。どんだけ広いんだ、この屋敷…。

「おい、お嬢。」

「…何よ、ヤナギ。」

「まさか歩いて部屋に向かおうとかしてるのか?」

「…だったら?何か悪い?」

「悪い。そうしたら一生…未来永劫、お嬢は部屋で寝れない。」

私は歩みを止めた。振り替えってヤナギを見る。

「は?どゆこと?」

ヤナギは困ってるのか馬鹿にしているのか、分からない笑顔を浮かべていた。

「全く…お嬢、手をとれ。」

「へ?う、うん…。」

もう、警戒する必要もなく手を乗せる。その瞬間、辺りの景色が変わってしまった。誰かの部屋の様だけど…。

「…どこ。」

「お嬢の部屋だ。」

回りの景色の変化も驚いたが…。

「え…ひっろ。」

あまりの広さに喜ぶ所か、呆然としてしまった。

「…聞いてなかったのか、クローバー様の話?この屋敷は、他の邪魔の対策として廊下を永久迷路にしてるって。」

「…うん。」

「だから瞬間移動術使わないと、部屋に着かないって。」

「うん。」

「まぁ、クローバー様の美しさに見とれて…。」

「ひっ…ろぉおおおい!」

走って、部屋の端にあるよく写真とかでみるお嬢様が寝てるベッドに飛び込んだ。

「ふっかふか!!」

同時に5人は寝れる広さだ。空間の無駄遣いも良いところ。25mプールくらいあるかな(プールサイドも入れて)?しかしこの部屋にはこのベッドしかない。やはり此くらいで…。

「…ここは寝室だ。」

「マジで!?」

いつの間にかベッド横で突っ立っていたヤナギが答える。

「じゃ、じゃあこれ以外の部屋もあるってこと?」

「…聞いてなかったのか?」

ヤナギが少し怪訝そうな目で見てきたが気にしない。

「そっかー凄いねぇ。」

ベッドの上で大の字になって見た。それでも端まで2mはある。

「他には、リビングルーム、ダイニングキッチン、寝室2、ゲストルーム、ワインセラー、使用人部屋、書斎、ワインシャワールームがある。…あぁ、あと元人間のお嬢にと特別に風呂と言う奴も完備しているらしいが…。」

「至れり尽くせりだねぇ。あとでクローバーさんにお礼、しとかないと。」

「確認、しとくか?」

「ううん、いいや。取り敢えず、寝る。」

すると、ヤナギは振り替えって出口に向かった。

「ヤナギ…どこ行くのよ。クローバーさんに聞いたけど、あんた私の執事なんだって?」

ヤナギはまた振り替えた。笑顔だ、満面の。

「その通りだ、お嬢。全く聞いていなかった、と言うわけではないようだな。」

「…。…その執事は常に主人の側に仕えるとか言ってたけど?」

ヤナギはゆっくりお辞儀をして、また寝転んでいる私の目を見つめる。

「…俺は、ディナーの準備をする。出来たら呼びにくるからそれまで寝てて良い。」

とだけ言うとさっさと出ていってしまった。

なんか冷たい…。まぁ…ヤナギは私を何とも思ってないようだし、安心した。初めて会ったときに美女だとか言われて多少面食らったがあれも社交辞令か。私は…佑助を…。

ヤナギが部屋から出たのを確認して、ベッドから這い上がった。ベッドの横の全身鏡の前に立ち、自分を見た。そこには何も映っていなかった。最初は鏡ではないのかと疑ったが、ベッドの枕を鏡に映すと確かに枕は映った。しかし…枕が…浮いている。と言うかやっぱり私が映っていない、移らない。私が着ている血まみれのドレスも移っていない。

「ぎゃ…ぎゃああぁぁあ!!!!!!」

悲鳴と共に腰が抜けた。枕がぶっ飛んでいった。アナウンスが聴こえる…全部屋にスピーカー完備か…。

『やっぱりか、お嬢…。』

声の主はヤナギだった。ちょっと馬鹿にした口調が鼻につく。

「何がよ?」

立ち上がってから、スピーカーに向かって話し掛ける。ヤナギに聞こえているのだろうか。

『俺等は鏡に映らない。やっぱり聞いてなかったか…。』

なぜか、私の行動がバレている。

「なんで私が鏡に驚いているってわかんのよ!?盗撮?変態!!」

『お嬢の驚きそうな事など丸分かりだ。』

「…うー。」

全く…とまたヤナギの溜め息交じりの独り言。

『…では俺等の弱点は?』

「えっと…吸血鬼だから…十字架とかニンニクとか…あっ、満月の月!」

はぁ…と今度ははっきりと溜め息がスピーカーから流れる。

『…それは、人間界の吸血鬼の弱点だろ?それに最後のは狼男の変身方法だ。』

「そーだっけ?」

『…純聖の血だ。』

「えっ、何が。」

『俺等の弱点。』

「純聖の血って?」

『極一部の人間の持った神より与えられし血だ。』

そこから、長いヤナギの純聖の血についての説明を聴かされた。一応、唯一の弱点と言うわけで聞いておいた。

「…つまりは、その純聖の血を持つ人間を吸血すると存在が消滅されるって訳ね?」

『お嬢にしては上出来だ。』

「また、馬鹿にしてるわね…。」

『ついでに言っておくと、俺達にはどんな攻撃も効かない…当たらないが、その純聖の血を持った奴の攻撃はちょっとかすっただけで大ダメージ…。その上、純聖の血が練られた武器の攻撃も効くから注意な。』

「つまりは、不死身じゃない…って事?」

ふぅむ…中々鋭いな、誉めてやる…。ってどっちが執事よ。

『純聖の血によって傷負っても、高速治癒能力で直ぐに癒えてしまう。…治癒速度を越える攻撃、もしくは心臓を攻撃されない限りは…な。』

「もし、そうなったら…死ぬ。」

『人間的に言えばな。しかし、我々邪魔とは既に死んでいる死神だ。正確には消滅するだけだ。後に何も残さない。』

「…とにかく、その純聖の血にだけ注意していれば良いわけね。」

『大方な。しかし、最近はもっと危険視すべき物質が確認されたらしいが…。』

…?

『まぁ、結論としては鏡には移らん。』

「じゃ、なんでここに鏡なんか…。」

『お嬢を馬鹿にするためだ。』

「なっ!!…明らかな悪意を感じるわね…。」

『安心しろ、お嬢は確認するまでもなく絶世の美女だ。』

「…。」

『まだ、食事には掛かりそうだ。寝てて良いぞ。』

そこでアナウンスは切れてしまった。ベッドに座って瞳を閉じた。自分の寝間着姿をイメージして…目を開く…。すると見事にイメージ通りの姿になっていた。どうやら変態に成功したようだ。そのままベッドに横たわった。ふぅ、と安堵の溜め息。

「なぁに私、吸血鬼の世界に慣れ親しんでるんだろ…。早く、人間に戻りたい…。佑助に会いたい、抱いて貰いたい…。」

何かが外れた音がした。ベッドのシーツをぎゅぅと握り締めた。掛け布団はないが寒さも暑さも感じない。吸血鬼とは変温動物(?)だったのか、知らなかった…。

「でも復讐を果たすのは此方こっちの方が都合良いかも。…ちょっと利用してやるか。んで目的果たしたら戻る方法、探そ。」

でも、不思議と涙が流れ出した。自分の意思に反して涙を流し続けている。頬をつたいベッドシーツを濡らす…。

「あれ、目にゴミ入ったかな…。」

しかし、全ての物質の干渉を受けない吸血鬼の目にゴミが入るのも変な話だ。まだ涙は止まらない。

「うぅ…ゆうすけぇ…。ちかぁ…。待っててぇ…必ず、必ず帰るからぁ!!うぅ…。待ってて…。」



独り泣いていた、あの頃。あの頃はまだ人間としての感情を持ち合わせていた。あの頃、私は私自身が涙も血もない怪物に成ることなんて思っても見なかった。これから最強にして最悪の吸血鬼に成るまでそうは掛からなかった気がする。当に、佑助と言う人間や知佳と言う奴の事など忘れてしまったのだから。

今の私を満たすのは殺戮だけだ―――。

約束通り、第三十三翼の公開です。

また舞の話でしたが如何だったでしょうか。ちょっと変な執事とお嬢である舞の掛け合いを中心に書きました。なぜ、クローバーが舞を選んだのか、詳しい話は次話で語られます。ってな訳で次回も舞のお話です。別に佑助の方が行き詰まってる訳でないのですが…。ここは舞の吸血鬼話の大事な部分なので。


今日は久し振りに大雪ですね。この調子じゃあ明日は休みか!

明日も、二話くらい更新出来るかな。


では。


追伸、第三十二翼~を悪魔の心臓として別章として扱うようにしました。その方が分かりやすいかなと思いまして…。

しかし第一章が終わった訳でもなく…。ですので、今までの第一章を前編としておきたいと思います。なお、第断章は10話編成にしました。もう暫く、舞にお付き合いください(笑)。


2012.1.23 市野川 梓

1.24 追伸

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