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銀色の翼  作者: 市ノ川 梓
第一章 隠されし力 前編
30/43

第二十九翼 未知の翼

「…。」

(だんま)りだ。それは状況理解のための長考ではない。…混乱の沈黙。

いきなりこの大荒れの天候の中、小屋に飛び込んできた重装備、小柄な女が口にしたのは今のこの状態の俺達にとってあまりに不都合な内容だったから…と言ってしまったら大概の恐怖は取り払われるだろう。しかしそんなに人間と言う生物は強く創られていない。

―あの女が起こした…あくまで俺の、俺個人の考えだが、あの女が拳銃に目線を合わせた途端にその物は木っ端微塵になった。それは明らかにあの女が意図的に行った事であり、それはあまりに恐ろしい力だった―最も、と言うのは他の三人もそう考えてるだろうが。あれがもし人間に向けられた場合…想像するのも恐ろしい。まるで拳銃はそう有ることが自然であるかの様にそこにバラバラになっていた。

「…にんげん…じゃねーのかな。」

それは弱々しい普段の守からは想像すら許さない食物連鎖の頂点に睨まれた最下位の者の様だった。流石に…守も怯むか。

「少なくとも…人間…には見えたな。」

それ以上でも以下でもない、人間…の姿をしていた。それは人間にはあんな事が出来ない…と言う先入観の先に成り立つものではあるが。素直に人間である事を肯定した。

「確かに、人間の器としては正しい呼吸をしていた。さらに…殺気、と言うかオーラに近いものでしたがそれは人間の比でしたね。」

大和は場面によって口調を変える。それは彼らしくけじめをつけての事の様だがあまり場面変換が正しいとはおもわない。それはさっきまでは適当な返事だった…と言うことを自供しているようなものだ…が当の本人は真剣な様なので今は、黙っておく。

「ふぅん…見た目とオーラ…ねぇ…相変わらず二人は仕事的にしか他人を観察できないのか…?」

むぅ、と言って大和は黙ってしまった。そう言えば随分前の話だが、女使い上手…と言うとあまり良い印象は与えないかも知れないがそんな守に仕事人間の大和が結婚したいと、相談したことがあった。この御時世だ。結婚なんて世間知らずも良いとこだが、面白そうだから相談に乗ったのだ。流石に戦時中とは言え、お見合いと言う伝統は残されていた。最も、あまり登録している女の人も少なかったが、しかし中に奇跡的に超絶大和のどストライクの女性がいた。なんやかんや有り、その女性とお見合いすることとなったのた。

が、結果はやはり大失敗。どの様に相手の女性にアプローチしたのか聞くと、その人が特有に持つ殺気を感じ取って女性の知られたくない事まで全て読み取ってしまったと。それは仕事人間大和にとって初対面の人物にする当たり前の事だったのだが、これを聞いた相手側が激怒に似た羞恥の形相を浮かべて、帰ってしまったのだ。それを聞いた守は大和に最後に優しく肩を叩き言った。

「お前―ある意味最強の女キラーだわ…。」

…こんな事があって以来、大和は人の殺気を読み取ることは止めたのだ。


―なんて、俺が過去の記憶ばかり思い起こそうとしているのは現実逃避なのかもしれない。

「しかし、彼女の言っていた事が本当で有れば俺達のすべき行動は一つしかないと思うが?」

大和はこう言う未確認生物…いや未確認超能力と言うべきか…なものには動揺を見せない。…しかし声が僅かに上擦っている。

「軌跡?」

大和が話し掛けても全く反応を見せない。

「おい、軌跡隊長…?」

軌跡はベッドに前屈みに座って動かない。守が軌跡の顔を覗きこんだ。唸り声を…軌跡は何か…苦しんで…。

その瞬間だった。守の怒号が小屋に満ちた。

「ふせろぉぉおおぉお!!」

一瞬何が起こっているのか分からなかった。小屋がなかった。また木材と呼べぬ小屋の破片が辺りにぶちまかれ、それが自分の頬をかすりたらりと血が流れた時、我に帰った。また、俺はあの現象を目の当たりすることなった。

―爆破…大破され暖炉の火は真っ先に消えてしまい、俺達は猛吹雪の中に投げ出されたのだ。無防備であまりに寒い…雪による寒さも鑑みたとしても寒すぎる…。吹雪きの中から小さく刃がぶつかり合う音が微かに聞こえた。

「…け!…す…や…け!」

いきなり背後から前に倒された。思いっきりうつ伏せに積もった雪に埋もれてしまった。同時に俺を倒した本人が一緒に雪中に飛び込んだ。口に冷たい雪が入ってくると一層寒さを感じてしまう…息が苦しい…。

「だれ…っ!!」

一瞬前に自分の身体あった上空に爆発が起こった。無論、倒れていたので爆風に巻き込まれる程度のものだった。しかしまた、あの爆破だ…奴はどこにいる?

「佑助…早く行け、ここは何とかする。さぁ!」

俺と一緒に倒れた…俺を倒した人間が話し掛けてきた。同じく口中雪にまみれ、上手く喋れない様子だ…どこか聞き覚えがある。

「聞こえないの…かっ!!」

俺を助けた(?)彼は途端に立ち上がり頭上で刃の旋律を奏で始めた。

「大和と守は先に行かした、佑助、行けっ!」

大和、守は先に…。俺の理解力はかなりの低い値だと思う。現に彼の正体に気付いたのは気付かされたからである。軌跡隊長は戦っている…相手は…大方、あの女だ。長考の余地はない。俺はすぐに積雪の束縛を解き、コンタクトディスプレイのスイッチを入れた。…大和と守は、そう遠くまで行ってない…しかし…別行動か…。ここは…相性的に。

「俺は、守を追いますっ!!」

一目散にその場を去った。こうしている間にもタイムリミットは刻々と迫っている。

「この女は…任せろ。」

実際、この吹雪きの中では相手に聞こえている訳がないが、自分に決意する意味を籠めて…。

「…あまり、失望させないでくれないかのぉ…GC暗殺部隊隊長さん?」

この吹雪きの中、女の声は透き通るよう…基、脳に直接送られる超音波のようだった。

全身に激痛が走り続けている…意識を一瞬でも緩めたらジ・エンド。今までの敵とは次元どころか宇宙が違う。まるで人の身を持ってしては勝てない、傷一つ付けられない、そんな様だった。

「…。」

次の攻撃が体力的に最後になりそう。一撃で仕留めるには…アのチからヲ…。

「肩に力入れすぎかのぉ…。」

全く隙がうかがえない。奴は…本物だ。9番対が何か知らんが本気で殺しに行かなくては次こそ本気で昇天する。

「ふっ…次が最後だ…。」

俺は二つの(まなこ)を閉じた。

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