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銀色の翼  作者: 市ノ川 梓
第一章 隠されし力 前編
29/43

第二十八翼 試練の翼

「…つまりは、俺等以外の暗殺部隊員と言うわけだな。」

皆が黙ってしまってから軌跡はゆっくりと話始めた。

「確かに都市伝説では暗殺部隊だとか言っていたが…。」

しかし、なぜ大和は起きたばかりなのに既に声が出ているんだ…?先に起きた俺ですらまだ喉が詰まって声が出ないと言うのに。守も軌跡も全く怪しんでいる様子がない。どんどん話は進む。ベッドに座り込ん…このベッド…わざわざこのために?あまりにこの部屋の雰囲気に合わなすぎて浮いている。

「だけどよぉ…それだけで断定ってのは…軌跡にしちゃあ根拠がないな。」

軌跡は少し考えてから返事をする。何か考えがあるのか…自分に何も証明となる物がないと3人の考えも鵜呑みにするしかない。

「仕方ない…奴等が何者か探りを入れる暇もなくボコボコにされてしまったからな。これくらいのヒントしか得られなかった。」

しかし、相手するのが精一杯だった俺からしたらそれは大したものだ。相手の正体など鑑みてもなかった…それは暗殺した人の名前など一々覚えてはおけず是非も言わず殺していたからかもしれない。

「なるほど…では今、考えうる正体として最もそれが可能性の高いものだな。」

あの動き…あの戦闘慣れした攻撃…実際、それが最も妥当な正体だ。

「しかし…なぜ、9番隊の奴等は俺達を襲ってきたんだ?」

「それは…分からん。あまり味方と期待してはいけないようだ。」

守が珍しく…と言うと語弊があるかもしれない。守が黙って動かない…まるで今、軌跡と大和の話の内容が全く自分に関係ないと言い張るように。

「…敵の可能性も?」

「ああ…否めないが、100%敵…と言う訳でも無かろう。少なくとも俺達は生きている。」

「此処に連れてくるのが目的…と考えるのが順当だろう。」

大和がベッドから降りてきた。もう調子が戻ったのか…。

「しかし、これからどうする?ここから出るか?」

守が重い口を開いた。やはり聞いていることには聞いていたようだ。

「ふーむ…しかし、外は大荒れだ。あの様子じゃあ、下山は無理だろうな。」

「下山?」

「ああ、ここは氷山の一角だな。外は吹雪だ…暗くて辺りは良く見えないが。」

だから一つしかない窓がガタガタと揺れているわけだ。

「さっき、着陸した場所には氷山など無かった。」

大和が窓から外を覗いている。これまた部屋の雰囲気に合わない真っ赤なカーテンを開くと縁に雪が積もっているのが遠くからでもうかがえる。

「大分、移動させられたみたいだな。…とにかく今動くのは危険だ。暫く、様子見。」

「…いつ奴等に襲撃されるか分かったもんじゃ無いけどな。」

やはり守は何かと軌跡の意見に突っ掛かりたがる傾向にある。親にぶつけられなかった反抗期の反動か?…年下の俺が言えた事じゃない事は承知の上だ。

「しかし、守…バンクに居たお前なら痛い程氷山の恐ろしさを知っているだろう?」

大和が二人の間でそれを(なだ)める。いつもの構図だ。

―因みに『バンク』とはかつて守が所属していた7番隊の先鋭部隊の名だ。バンク…ここでは命を残す(貯蓄する)と言う意味が込められている…らしい。

守は大和の言葉を聞いて少し黙った後に了解、と言う何とも機械的な返事をした。相変わらず暖炉付近から離れない…そんなにこの部屋寒いか?

「佑助はずっと黙ってるが反論とかないのか?」

まるで俺に反論されることを期待しているかのように軌跡は聞いてきた。俺が軌跡に対して服従の意思しか示さない事に不服を持っていると言うのは充分承知している。…俺は軌跡を尊敬し目標としているが仲良しこよしのお友達ではなく、あくまで仕事の上司としての話だ。…あまり人と馴れ合うのは好まない、と言うか苦手だ。

「はい。私はあくまで貴方の部下ですから。」

「…そうか…ならよい。」

これはこれで良い関係だ…と思っているのは俺の一方的な価値観の押し付けだが。


―笑わせるな。

そう言って小屋に入ってきた女は小柄な癖にやけに重装備だった。腰には四本の拳銃、肩からはマシンガンか何かの銃弾が左右からクロスにかけられている。背中からスナイパーライフルらしき銃身の細い武器が見え、後ろ腰には手榴弾が何個も並べられている。挙げ句の果てには首からガスマスクのような物がかけられていた。その少し幼げがある顔にはあまりに不釣り合いだった。服装は一般的なゲリラ戦や野戦で使われる、アーミー柄だ。このことから遊撃兵であることが分かる。

「貴様等、その程度の力量で暗殺部隊を名乗るなど…片腹痛し。」

目を合わした守が立ち上がって異様な睨みを切らしている。

「はぁ?」

「分からんのか…あの程度の兵と殺り合えないとは…弱者にも程があると言っておるのじゃ。」

ちょっと話し方が古風だが出ているオーラと言うか殺気は犇々(ひしひし)と感じることができた。一同、怯まずには居られない。

「お前が9番隊のリーダーか?」

軌跡が質問すると女はふっと鼻で笑って見せた。

「付け上がるなよ、青二才。いくら貴様等がGC最強と呼ばれようとうちらの隊長がわざわざ腰を上げることなどありえん。」

一々話すことが癪に触る。

「…全く、藤咲もどんな教育してきたのやら…。」

女がボスに罵声を浴びせた瞬間、軌跡が女の元に駆け寄りというよりほぼ瞬間移動し額に拳銃を突き付ける。

「女…これ以上、父上に失言してみろ…明日はないぞ。」

女は驚きもしなかった。無表情のまま微動だにしない。

「ほぅ…少しは、様になってるのか。」

そう言うと女は軌跡の持つ拳銃を瞳に写した。その瞬間だった。静寂のなか拳銃が唐突に大破したのだ。なんの前触れもなく、それが当たり前の事象のようにバラバラになった。部品は辺りに散らばり銃弾だけが音を立てて床にゆっくりとおちていった。あり得ない光景だ。急に何か動作があった訳でない。女が拳銃を見つめただけでバラバラになったのだ。少なくとも人間に成せる業ではない。

「まぁ…いいだろう。私の名は…今井真樹。今日付で貴様等の長官だ。」

女は名乗り、自分が俺達の長官であると、そういったのだった。

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