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銀色の翼  作者: 市ノ川 梓
第一章 隠されし力 前編
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第二十七翼 孤独の翼

一人だった。

誰も周りに居なかった。いや、その時はそんな事より自分が生きていることを不思議に思った。つまり俺も幼かった。取り巻きが俺の未来についてとやかく言ってくることに嫌気がさした。もう、実験は嫌だ。苦しい…。もうどのくらい歩いただろうか、どれくらい殺しただろうか。俺の通る道は屍がつみあげられ、血がべっとりと俺の足跡を残した。そろそろメンテの時期だったのか、いつもに増して腕が痛む。太陽が沈んで…月が光って…太陽が昇って…月が隠れて…また太陽が沈んで…既に二日は経ったはずだ。いい加減施設の敷地から出れただろうか…。まだ足は動く…逃げてやる…強くなって戻ってきたらあの研究員共は皆殺しだ。それくらいの報いを受けて貰わなくては気が済まない。必ず、戻ってくる…。


親を友を失って、右半分の体を失った。あれば綺麗な天の川が見える七夕の日だった。

「アメリカでは天の川ってミルキーウェイって言うんだよ。ミルクの道って意味なんだって。」

母。父とは日本に帰って来たものの相変わらず再開を果たせずにいた。

「佑助は短冊に何をお願いしたの?」

美しい母。優しく時には厳しい母だった。俺はそんな母を愛していた。

「(俺は…何を願ったのか…。)」

母は笑顔で返す。

「さすが佑助ね!必ず叶えてもらわなくちゃ!」

母が俺から短冊を受け取り、大きな笹に引っ掛けた。

「ね!?」

俺もつられて頷いた。


―その願いは叶わなかったのか。織姫と彦星は再会できたのか。…きっと願いは届かなかった。現に母はこうして大量の血を流して倒れている。もう意識もないだろう。あまりの恐怖で身体が動かない。俺は…母を助けなくちゃ…。僕が護らなくちゃ…。父さんと約束したんだ…母さんは俺が守るって…でも母さんは死んだ。心臓を一突き。即死だった。自分の命の危険なんて頭に無くて、ただ脳は母の死を認めようとしなかった。涙すら流れなかった。その場に立ち尽くして…夜空を見た。 あまりに綺麗で…本当にミルクの道だ。僕もあのミルクの様に溶けて居なくなってしまいたい。母さんは…どの星だろう。いっぱい見えすぎて分かんないや。ねぇ…母さんは…。

母が死んだ。それを確認できたのは、自分の痛みが俺をこの地上に還した時。最初は何が起こったのか分からなかった。ふと自分の身体を見ると右肩から右足にかけて身体が無くなっていたのだ。途端に激痛が身体を回った。肩から脚まで右体半分の感覚が完全にない。俺は立てなくなりその場にぶっ倒れた。しかし不思議と出血の割には意識がはっきりとしていた。深い微睡みの中で暫く見ない父の姿が浮かんだ。父は…俺と母が死んだら悲しむだろうか。それとも…。

隣で安らかに眠ったように倒れる母を見て苦しみからそっと消えた。

俺の―人生は少しは意味の有るものだっただろうか…。


うう…っ…。

目を覚ますと視界にはいつものメンバーが居た。ここはどこだ…いつの間にかベッドで寝ていた…あの女がここまで運んできたのか?それにしては身体に損傷や痛みがない。

ベッドから起き上がるとそこは小さな丸太造りの小屋だった。暖炉が一つとベッドが四つ…隣のベッドには大和が倒れている。悪夢でも見ているのか唸り声を揚げて苦しんでいる。怪我は…ないようだ。守が暖炉の近くで座り込んでいた。

「ユウ…起きたか…。」

あまり調子が良くないのか声がなんだか暗い。声を出そうとするが…また出ない。

「やっぱ、お前も出ないか…大丈夫。暫くすりゃあ出るようになる。どうやら俺等に怪我はねぇみてぇだしな…。」

確かに軌跡も、守も目立った損傷がない。もちろん自分もそうである。痛みすらないのだから、怪我など擦り傷一つ残っていない。

「…と言うことはあの嫌な記憶も…。」

…守に活気が無いのはそう言う意味か。

「やはり皆、一様に己の記憶の断片を見た…と言うことの様だな。」

軌跡も…となると大和も恐らくそうだろう。

「ユウ、一回すげー唸り声揚げてたぞ?」

…嫌な過去を見たような気はあるが果たして自分がどんな記憶を見ていたのか…そこが全く消えてしまった。手もこんなに汗ばんでいるのに…まるで夢の中の記憶を誰かが意図的に無くしているようだ。そっと頷いた。

「やはり、俺等を襲撃したのは例の9番隊の奴等らしい。」

そう言えばここはどこなんだ?あまりの環境の変化についていけていない。

「んで、そんなことわかんの?」

「俺が戦っていた奴の胸にEARTHの刺繍があった…。」

「部隊帯は?」

(部隊帯とは一瞬で自分がどの部隊に所属しているか分かるように部隊別に支給されている帯のこと。隊員は右腕に巻いている。)

「…黒だった。」

「黒ぉ!?確か、黒って…。」

「…暗殺を意味するスラングだな。」

いつの間にか大和が目を覚ましていた。額から汗が流れている。眼が少し赤い…泣いていたのか…。


「伝説の暗殺部隊…。」

急に小屋の鉄製のドアが力強く開かれ冷たい風が部屋に入り込んできた。そこにはやけに重装備の小柄な女が立っていた。

「笑わせるな。」

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