第十七翼 刹那の翼
―GC、総隊長室にて―
いくら呼んでも暗殺部隊の面々はコロニーへは来なかった。昔から私は心配症であったため嫌な予感ばかりして冷や汗が額から流れる。こんな私が今や地球、人類の命運を握っている事など本人すらあまり自覚が無い。人類最強の戦士だと讃えられ伝説の戦士として世に名を知らしめた事もあった。があれは人々が勝手に作り上げた偶像崇拝なのだ。ゼアールに恐怖し助けを求めた人々がそれから逃れるために仕立てられた偽物のヒーロー…。あのゼアールのGC中枢部へのハッキング以来正直、焦りが隠せなくなった。もうゴードンは魔術を復活させたのだ。はっきり言って今人類に魔術に対抗するすべはない。今ゼアールが奇襲をかければ尽く人類は壊滅してしまうだろう。…しかしまだ人類は生き残っている。私は人類の長である限り人類を絶滅から身を呈して助けると決意したのだ―。
あの悪魔の七夕…昔の私は愛するひと一人も救うことが出来なかったのだ。
優…。どれだけ謝っても戻ってはこない。ピアノの才能に長け、世界…いや宇宙で活躍すべき人だったのだ…。しかし彼女は私の目の前で瞬きをするのより早く未来を奪われた…。自分の無力さを呪った。自分は何のために生きているのか…これから何を愛して生きていけばいいのか…。
よく考えたらあの時に私の人としての時間は止まってしまったのかもしれない。
総隊長が一人焦っていると室外から連絡がはいってきた。慌てて受話器を取る。
「こちら、EARTH最高指令部。どうだった?」
通信の声の主は慌てているように早口で応えた。
「そっそれが…大変なことに…。」
心臓の鼓動が高鳴る。
「どっどうしたって…?」
思わず声が震えてしまう…あの悪夢が脳裏を過る。
「それがどの部屋にも暗殺部隊の方々の姿がなく…。」
「それで…?」
「しかし部屋には何も争った様子はありませんでした…しかし面々の残された携帯端末に暗号の様なモノが…。」
画像が転送された。この文面は…。
「我々には何を意味するのか…さっぱりで。あと…各部隊長の武装が残ってました…。」
この暗号は暗殺部隊しか使用しない文面だ。4人とも緊急コールを同時刻に送信している…。そして内容は
「ゼアール 奇襲 助け 求める」…。
間違いない…ゼアールの奴らはSuperNovaのメンバー全員を拘束したのだ。GCのセキュリティは厳重だが魔術に対抗するものは何一つない。SuperNovaだって魔術を使われたらさすがに歯がたたないだろう…。
幾らなんでも早すぎる…。魔術を甘く見すぎていたか…?
「どう…されますか?」
やはり私がやらなくては。これ以上隊員を不安にさせてはいけない。
「私が動く…。各部隊長に緊急通信を開け。」
「はっ!」
各部隊長を部屋に呼んでにGC厳重警戒命令を出した。暗殺部隊が拘束された事は伝えなかった。部隊長が4人もいないとなると防衛ラインに致命的な混乱を引き起こすことになる。特に軌跡が居ないと明日のゼアール強襲作戦を実行することが極めて厳しくなってしまうのだ。7番隊副隊長に隊長の荷は重すぎる…。
とにかく急がなくてはならない。ゴードンは殺るときは殺る男だ。何としてもあいつらの命だけでも守らなくては…。今の私にゴードンを倒す術はない。こうなれば…最終手段に手を出すしかない…か。
男は大きな身体を椅子から持ち上げ横に有る本棚に並んでいる本を一冊奥へと押した。すると天井から音をたてて酷くくすんだ大剣が降りてきた。邪剣『刹那』…伝説となった大剣である。真の使用者の前にしか姿を現さない幻の剣。終末を呼ぶ獣が封印されていると言われている。男が邪剣を握るとドス黒いオーラが刃から出てきた。刃が血の赤に染まっていく…。男は吐血した…口から血が垂れていく。
「光の戦士がどうした?弱っているぞ…ククッ」
刹那は男に語りかけた。刃には身体が真っ赤な自分が映る。
「久しぶりだな見ないうちに老けたか?」
男はふっと笑って見せた。
「まだまだ現役だ。でないと困る…。」
剣を背中の鞘にしまうとため息をついた。一瞬でも隙を見せればこの剣に喰われてしまう。さて一刻も早くゼアールへ向かわなくてはならない…。男はセンターへ向かった―。