第十二翼 永遠の翼
「舞、別れないか?」
その一言は宙に浮いて中々耳に入ってこなかった。まるでその一言が世界の時間を止めてしまったような。この狭い空間に二人と閉じ込められてしまったようだ。やがて舞は頭で言葉の意味を理解した。自分はフラれた。佑助に捨てられたのだ…。急になぜ?しかし私の佑助への思いも本物なのだ。自分の想いも聞いてほしい。…そうしたら考え直してくれるかもしれない。しかし口は言うことを聞かなかった。
「なん…で?…んでよ…?佑助ぇ…」
舞は泣いていた。佑助と下の名前で呼ぶのは子供の時以来だ。口が勝手に動くとはこの事を言うんだ。
「…。」
佑助は黙ったままだった。居た堪れない時間が過ぎていく。佑助は一向に口を開こうとしない。時間がやけにゆっくり流れているように感じた。
その静寂を破ったのは、ゴンドラ内に流れたアナウンスだった。
「さぁ、もうすぐてっぺんだよ!モッチーがカウントするから良いポーズをとってね!」どうやらもうすぐ頂上らしい。だいぶ地上から距離ができていた。夕陽が丁度、作り物の海に沈んでいくところだった。そしてこれは頂上でキス写真を撮るためのアナウンスのようだ。当然そんな気にはなれない…。
「3…2…1…ハイ、ポーズ!」
そのアナウンスと同時にシャッター音。虚しくもそのシャッターは無駄になった。ただ黙っている男と泣いている女の子を撮影しただけ。アナウンスは続いた。
「わぁ…綺麗に撮れたよ!ゴンドラから降りたら受付に写真、取りに来てね!」
愉快な声が無くなったとたん、また静寂が空間を支配した。夕陽が沈みかけている。海がオレンジ色に染まっている。
暫くすると舞が口を開いた。
「…わっ私は佑助がっ…大好きだよ…?」
舞は涙を堪えて今まで伝えられなかった佑助への想いを素直に伝えた。それは偽りのない真実の愛だった。佑助は黙って聞いていた。結局、私の想いを佑助は分かってくれたのだろうか?
その後、佑助も舞への思いを素直に伝えた。舞は泣きながら聞いていた。声を出さずにずっとすすり泣き…。舞の膝の上は泪でびっしょりと濡れていた。
やがてゴンドラは地上に着いて二人は遊園地の出口に向かった。写真はもちろん取りに行かずにすぐに観覧車から離れた。お互いの思い伝えてからと言うもの一言も言葉を交わしていない。出口へ歩いている二人の間には微妙な空間があった。舞はずっと俯いたまま、佑助は柄でもなくぼーっと何も考えずに歩いた。いつの間にか夕陽は沈んで辺りは暗くなった。その暗さの中でライトアップされた照明が綺麗だ。佑助が溜め息を吐くと急に舞が立ち止まった。
「ねぇ…?折角だし、イルミネーション観に行かない?」
佑助はこのまま遊園地から出るつもりだったため多少面食らったがいまできる最大限の笑顔を作って、
「うん。」
と一言。イルミネーションは出口の近くの噴水広場でやっていた。中にはカップルもいたし、気まずい。舞は近くのベンチに腰掛けた。イルミネーションを観ているのか…?
「…私たち…これからどうなるの…?」
舞はなるべく周りのカップルに聞こえないように気遣い小さな声で呟いた。すると佑助は舞を背にイルミネーションを前に観ながらそっと言った。
「このままさ…ずっとこのまま…。」
このまま?それって…?
「…恋人のまま…ってこと?」
また考える前に口にでた。佑助は考え直してくれたのだろうか。
…そんな儚い希望はすぐに砕かれた。
「親友のままってことさ。」
…親友?佑助はまだ私達が恋人同士で無かったとき、私達の関係を「親友」と表現したことがあった。その時はどういう意味か深く考えなかったが、今はとても引っ掛かる言い方だ。舞は慎重に聞いた。
「親友って…?」
佑助は少し考えてから言った。
「家族同然の友達…ってことかな?俺もあんまり深く考えた事ないけど。」
舞はまた泪が出てきそうだった。だがここで泣いてしまったら佑助を傷つける事になる。舞は必死で泪を堪えた。
「これからも…親友?」
佑助の肩が少し震えているように見える。佑助もやはり辛いのだろうか?
「あぁ…。親友だ。俺は舞が助けを求めてくればどんな所からでも駆けつける。だから舞も俺が困っている時は側にいてほしい。…これが恋人としての最後のお願い。」
舞は最後と言う言葉を聞いてついに泣いてしまった。またすすり泣き…。しかし佑助は振り向かなければピクリともしない。ずっと舞に背を向けて動かないままだった。佑助はまだ黙っている。舞は気が落ち着いてから
「もっもちろん!!」
ちょっと強気で、でも寂しそうに言った。
「良かった…。」
佑助は安心したように言葉を口にした。舞にはどんな気持ちで佑助がいるのか分からなかった。ただ一つ分かるのはこれからも私は佑助を愛し続けるということだけだ。
きっと、永遠に。




