エイジー・リンドグレーン
ちょっとグロイ表現あり
目を開けると暗闇が広がっている。
『何…?』
事の発端は、中庭でのんびりをしていた時であった。
「リン様、お飲み物はいかがですか?」
今日の付き添いはアラーナではなかった。
彼女はちょうど来ているお客様のお世話をしている。
「にゃー」
侍女の問いにうなずき、水を貰う。
ふと、頭を撫でられる。
その手から何か暖かいものを感じ、中庭に挿し込む日差しも手助けして眠りに落ちたのだ。
「お目覚めでございますか?」
目覚めるとそこはもう中庭ではなかった。
話しかける女の声は、間違えなく城の侍女の声。
目隠しをされ、どこにいるかもわからなかったが、この状況でまだ城の中にいるという事は考えにくい。
「主が参ります。もう少々お待ちください」
しばらくすると靴音が聞こえ、部屋に誰か入ってくる音がした。
「やあ、こんにちは王妃。俺の名はエイジー・リンドグレーン。ある団体のリーダーだ」
そう言う男の声は冷たい。
「俺達は異世界から運命人が召喚されることが許せない奴らを集めた集団さ。皆異世界から来た運命人に恨みを持っているんだ。俺もその一人。どこの世界からやってきたか知らねえが、俺の運命人は異世界の狂人に殺された」
静かに言う男の言葉には怒りが隠れていた。
「てことで、運命人を比較的何もできない動物のうちに殺しちまおうって言うのが俺達さ」
体が恐怖で震える。
必死に逃げようと体を動かそうとするが、動けない。
「逃げられねえよ。魔法かけてあんだ。最初の三ヶ月は異世界から来た運命人は安定してねえから魔法は教えられねえんだ。だから抵抗すらできねえのさ」
クククッと笑いながらリンドグレーンが近づいてくる気配がした。
「よかったな。元の姿に戻れて。だが苦しいかもな。まだこの世界に馴染みきってない体を本来の姿に戻してやるだけだ。知ってるか?世界に馴染まないと体が壊れてくんだよ。少し押しただけで骨がボキボキ折れてって、少しつめを立てただけで血が噴き出すんだ。呼吸だってまともにできやしねえ。そうやってだんだん苦しんで仕舞いには殺してくれって俺の足に縋り付くんだ。優しい俺はな、殺してやるんだよ。確実に死ねるように首吹っ飛ばしてなっ!あははははははははっ!」
大笑いするリンドグレーン。
そして笑いをぴたりと止め、リンに近づく。
『い、いやぁ!』
「ククッ、にゃーにゃー言ってもわかんねえよ」
リンドグレーンはリンの目の前まできて、横たわってるリンに手を翳す。
すると、リンの下に魔方陣が現れ、光出す。
『…っあぁぁぁぁぁぁああああ!!!』
途端に体が変わっていく感覚。
全てが元に戻っていく。
「あぁぁぁぁあああ!!!」
そして息苦しい。
叫ぶともっと苦しいのに、体が変わる感触に声を上げずにはいられない。
全てが変わると同時に息苦しさがリンを襲った。
「はっあ、は、は…ぁ、っは、は」
うまく呼吸ができない。
「どうだ気分は?しかし綺麗だなお前。殺してしまうのがもったいないくらいだ」
そう言ってリンの髪を撫でる。
気持ち悪い。
「さ…ら…いで」
「ん?聞こえないな」
「さわ…ないでっ」
流れる涙は止まることを知らないようだ。
男が耳元で囁く
「今から地獄を味合わせてやるよ」
その囁きはまるで魔王の囁き。