初めての喪失感
朝起きると隣にいるはずのウィルがいなかった。
『ん…』
朝の日差しに意識を浮上させる。
「おはようございます、リン様」
挨拶をしたのはアラーナ。
ふと、隣に温もりを感じないことに違和感を感じた。
「ウィルフレッド様は、先ほどお仕事のほうに向われました」
アラーナは朝食の支度を始めた。
ウィルだって王である。
運命人のリンのために休暇をとっていたのだ。
本来ならば多忙なはずだ。
『しっかし暇だなぁ』
くわっとあくびをしてふかふかのクッションに顔を埋める。
最初少し部屋に放置されはしたが、それからはずっと付きっ切りだったのだ。
『なんか…』
自分の半分が無くなったかのような喪失感。
今まで傍にいるだけでドキドキだった。
それが災いしたのか、広い部屋に一人のせいか、シーンとした空気に物足りなさを感じる。
こんな気持ち初めてだ。
アラーナも屋敷の手伝いに行っていていない。
完全に暇を持て余していた。
その時、部屋のドアがノックされた。
「やっほ。元気してる?」
やってきたのはウルフだった。
「ウィルがいなくて寂しい思いをしてるんじゃないかって思ってね。そしたら案の定暇を持て余してるみたいで。あ、これ食べようよ」
ウルフは手に持っていたパイをテーブルに置いた。
「カーライル産のランディパイ。すごいおいしいんだ」
そう言うと、ウルフはテーブルの上に紅茶のセットを転送した。
「あ、首輪つけられちゃったんだね。さすがウィル。それね、王族に嫁いだ異世界から来た何も知らない運命人を護るために作られたんだよ」
そう言って、ウルフはパイを小さくしてリンの口に運ぶ。
リンは大人しくそれを口に入れる。
「フォンテーンの男は大体付けるね。それだけ運命人が大事だから。…いいなぁ、俺あともう少しだけど待ちきれないや」
ウルフはあともう少しで20になるらしい。
「しっかしウィルがあんなになるなんてね。初めて仕事に行くの渋ったらしいよ。今まで仕事馬鹿だったのに」
ウルフは楽しそうに言う。
「やっぱり大切なんだね、リンちゃんが」
トクンと心臓が高鳴った。
「リンちゃんもウィルと離れてみて感じてるんじゃない?喪失感とか。父さんが言うには、体半分が無くなったみたいな感覚だって言ってたけど」
ウルフに言われた通り、ウィルがいない喪失感をずっと感じている。ウルフには失礼だが、ウルフがウィルに変わってくれればいいのにと思ってしまうほどであった。
顔に出ていたのだろうか、ウルフが苦笑して言った。
「そんなに寂しいならウィルのところ行く?きっと朝からずっと根気詰めて頑張ってると思うんだ。ちょっと休憩させがてら行こうよ。パイ持って」
そう言って、パイを右手に、リンを左手に持ち、部屋を後にした。
それはまるで全てを失ってしまったかのような辛い気持ち。