捕食者との甘い一時
わーわーわー!
どうしようどうしようどうしよう!!!
「リン、何故逃げる」
部屋には既にアラーナの姿はない。
ベットに放り投げられた私は、猫の本能で見事にベットに着地。急いで逃げようと足を浮かせる。
だが、すぐさま私の上に乗ったウィルの腕に行動を阻まれる。ウィルとの距離わずか2センチ。
「勝手に外を出歩くな。お前は仮にも王に嫁いだ身。いつどこで誰に襲われるかわからない」
今ここであなたに襲われそうです。
ウィルがしゃべるたびに、耳に吐息がかかってぴくぴく耳が動いているのがわかる。
『ご、ごめんなさい』
猫である私は、着地したときに必然的に仰向けのような状態になり、真上に乗っているウィルの状態がわからないが、声のトーンの低さや、地味に強くなっていく腕の強さに本気で怒っているのがわかる。
だから怖い。めちゃくちゃ怖い。
ブルブルと体が震える。
『ほ、本当にごめんなさいっ!』
体も尻尾も丸まっている。
「…フッ」
不意に上から笑いが聞こえたような気がしたと思ったら、頭にちゅっとキスされて影が無くなる。
「飯にするぞ」
何事も無かったかのようにベットから降りるウィル。
『ウィル…?』
恐る恐る身を起こしてウィルを見る。
「あまり部屋から出るな。出るときは必ず俺かアラーナかウルフに付き添いを頼むこと。それが条件だ」
いつの間にかテーブルの上に用意されている朝食にお腹が鳴る。
ウィルの傍まで行くと当たり前のように抱き上げられ、ウィルの膝に乗せられる。
『えっ!?うぃ、ウィル!?』
「お前はペットじゃないんだ。床で食べさせるわけにもいかない。テーブルの上に乗るのは行儀が悪いだろう」
そうですね、でもどうやってウィルの膝の上でご飯を食べろと言うのですか。
ウィルは、置いてあったパンを一口サイズより少し小さいサイズに千切り、私の目の前に持ってくる。
これは俗に言うあーんというやつですか…!?
「どうした?食べろ。毒など入っていない」
いや、そういうことではないのですが…。
未だに目の前に突きつけられるパンと、無言の威圧が圧し掛かり、渋々パンを口にする。
『お、おいしい…』
そう言うと、ウィルの空気がやわらかくなったような気がした。
その後、ウィルの膝の上でウィルにあーんされながら朝食を無事に全て食べきった。
ウィルも朝食を食べ終わったと同時にソファーに連れて行かれ、ウィルに毛並みを確かめるように撫でられながらウィルの膝の上で硬直している私に、ウィルは衝撃的な言葉を放った。
「リン、この後は俺の親族に挨拶することになっている」
『親族…?』
「俺の両親と妹、叔父、叔母、従兄弟、甥、姪、祖父母、曽祖父母」
わー、大家族なんですねー。
超長寿だから曽祖父母がいることに驚きはしませんよ。むしろ曽曽曽曽曽祖父母がいたって驚きませんよ。
というか私何か挨拶しないとだめですよね?
でも猫だから伝わりませんよね?
それを理由に挨拶しなかったら無礼にあたりますよね?
それにウィルのお父様とお母様って言ったらもちろん美形でしょ?
従兄弟のウルフだって美形だったし。
美形×たくさんって…。
どうしよう、自分が惨めに見える…。
絶対自分が霞んで見えるでしょう。
どこにいるかわからないくらい霞むでしょう。
「ウィルフレッド様、リン様、皆様がお集まりになりました」
アラーナが入ってきてそう告げる。
「わかった」
ウィルは私を抱き上げ、部屋を出た。
それと同時に私は大パニック。
ウィルの膝の上で硬直していた体は、益々硬直し、まるで石のようだ。
その上、心は想像した美形フォンテーン一家によって崩壊寸前。
お母さん、私をもう一度美形に生みなおしてください。
そしてリンちゃんはこれからご飯をウィル様の膝の上で食べることになるのです。