ウィル欠乏症
「私に商談の期間の一週間を下さい。それでウィルフレッド様が私に見向きもしなければ諦めます」
あの日から3日、ユリアはウィルと共にいることが多くなり、リンは学園でワイアットと過ごすことが多くなった。
「…リンさん、妹はどうしてる?」
「妹?」
ワイアットに妹がいることすら初耳だ。
「ユリアです。ユリア・フォレスター。僕の妹なんだ」
「え!?」
いきなりの告白に驚くと、ワイアットはクスリと笑った。
「たしか今王城いるよね?ユリアは趣味で立ち上げた貿易会社が大きくなって忙しいから中々会えないんです」
そう寂しそうに笑うワイアットは、まるでしばらく恋人に会っていないというような顔だった。
ユリアさんが国一の貿易会社の社長であることは知っていた。それゆえにウィルがユリアさんを中々拒めないことも…。
だが、ワイアットと兄妹であることは初めて知った。
「ユリアさんは元気ですよ。昨日も一緒にお茶をしました」
お互いライバルではあるものの、仲は悪くなく、よくお茶や談笑をしている。
「そうですか。よかった、元気そうで。リンさんはあれからどうですか?」
ワイアットはいきなり眠って倒れたリンを心配していた。
「大丈夫です。あれは体質みたいなものでよくあるんです」
ここ最近は減ったんですけどね、と笑う。
「何か異変があったら僕に頼って。でないと…」
「リン」
後ろから抱きしめられ、振り向くとそこにはウィルが眉間に皺を寄せて立っていた。
「帰るぞ」
そうウィルが言ったときにはもうすでにそこは自室だった。
「お帰りなさいませ、リンさん、ウィルフレッド様」
そしてそこには既にユリアがスタンバイしていた。
「あ、ありがとうウィル、じゃあ私行くね」
そう言ってその場を去ろうとすると、腕を掴まれ動きが止まる。
無言の見つめあいが続いたが、ウィルが諦めたように手を離したのを見てすぐさまその場を離れた。
結婚を誓ったウィルのことを疑うわけではないが、やはり不安はある。一週間時間を欲しいと言われたが、何も二人きりにしろという意味ではないとユリアは言っていた。それゆえ、夜寝るときは二人一緒である。だが、ユリアとウィルが共にいるところをあまり見たくなかった。
「早く終わらないかな…」
あれからウィルもワイアットといてもあまり何も言わなくなった。
自分が付き合いでユリアと共にいることで、リンがワイアットと友達付き合いで一緒にいることに口を出すことはできないと思ったからだ。
お互いそこはわかって何も言わない。
「あれ?リンちゃん」
振り向くとそこにはウルフとクリスティーナの姿が。
「ウィルは…あぁ」
「大丈夫、リンさん…強いから」
クリスティーナがウルフに自身満々に言った。
「…ティニーが大丈夫って言うんなら大丈夫なんだろうな」
クリスティーナは神子、この世界では神の愛娘と呼ばれる存在であるため、その言葉一つ一つが言霊のような力があり、彼女が大丈夫と言えば大丈夫であり、大丈夫になるのだ。
そんなクリスティーナを愛しげに見つめるウルフはとても幸せそうで、今ウィル欠乏症寸前のリンにとってはとても羨ましかった。
ティニー、クリスティーナに対しての彼の特別な呼び方。大概皆はクリスと呼ぶが、ウルフはクリスティーナのことをティニーと呼んでいる。
何でも特別であるということをわかってほしいからだそうだ。本人がその本意に気づいているかは定かではない。
「ウィルを信じたいの」
ウィルは自分と結婚の約束を交わした。それを最後まで信じたかった。
「…そうか。大丈夫だよ、ウィルなら」
あと4日の我慢………。