それぞれの主張
「リン…」
躊躇いがちに自室の扉を開ける。
その姿はすぐには目に入らなかった。
よく見ると布団が人一人丸まった形で膨らんでいた。
「リン…」
一瞬布団を捲るのを躊躇った。だが、それも一瞬でゆっくりと布団を捲った。
そこには丸まって眠っているリンの姿があった。その頬には涙の跡がある。
「…すまない」
謝罪の気持ちが湧いてくる。だが、それ以上に喜びの気持ちがあった。
リンが自分のために嫉妬したことは間違いない。それがとてつもなく嬉しかった。
リンの頭をそっと撫で、腰まである艶やかな黒髪の束を一房手に取り口付ける。
「ん…」
リンのまぶたが開かれる。
「うぃ…る…?」
「リン…」
その小さな顔を両手で包み込み、口付ける。
「…ふっ…ん…ウィルっ…」
生暖かい何かが手に触れ、口付けを止めてリンを見ると泣いていた。
「っ…」
「…泣くな」
親指の腹で涙を拭う。
「ずるい…。ウィルはずるいよ…。そうやって期待させるっ!こんな夢見たくないっ!」
「…夢じゃない。現実だ。俺を見ろ」
イヤイヤと首を横に振るリンの頬を包み、再び口付ける。
「俺はリンを愛してる。俺はリンを傷つけた。だが今俺はリンが俺のために嫉妬してくれたことが嬉しくてたまらない」
ぎゅっと自分の腕にリンを閉じ込める。
「嫌い!他の女の人に触られるウィルが嫌いっ!こんな醜い感情を持った私も嫌いっ!」
半ば泣き叫ぶように訴えるリンを、より一層抱きしめる。
「ユリアさんのところに行かないで!私だけをっ…」
リンに深く深く口付けながらベットに押し倒した。
普段わがままを言わないリンが初めて自分の気持ちを主張したことに、たまらなく愛しく思えた。
「リン、俺を見ろ。俺だけを見ろ…。他の男に笑顔を見せるな」
その夜、ウィルはリンが求めるままに愛した。
「あ…」
次の日、学園も休みの日のため中庭で本を読んでいたリンは、同じく中庭にやってきたユリアに気がついた。
「リンさんにお話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
「あ、はい」
無意識に右手の薬指の指輪に触る。
「ウィルフレッド様の運命人があなたということを承知で私はウィルフレッド様をお慕いしております。あなたがいてもその気持ちは変わりません。私は私なりにウィルフレッド様にアピールさせていただきたいと思います」
ズキリと胸が痛んだ。
「私はリンさんと正々堂々と戦いたいのです。それでウィルフレッド様があなたを選んだとしたら私は諦めます。………どうしても好きなの。地位や財産なんかじゃなくてあの方自身に惹かれたの。この気持ちに嘘偽りはないわ」
ユリアは切なく笑う。
そんな彼女に、彼女の言葉が本気であることを悟った。
それゆえに、リンは一人の女として対等に戦おうと思った。
「…私もウィルが好きです。ウィルだけは譲れない。だから…」
私も正々堂々と戦います。
甘すぎた…
ユリアの入る隙はどこにあるのだろう…