朝起きるとそこには美形
わー、これどういう状況?
夢であってほしいという願望は見事に打ち砕かれ、現在私は美形で視界をいっぱいにしております。
体は美形に抱き枕のごとく抱きかかえられ、身動きがとれない。
『どうしよう…』
相変わらずにゃーしか言わない自分。普通にしゃべれるようになるまで最低三ヶ月。
『はぁ…』
思わずため息が出る。
とりあえず、この状況から脱しないと死ぬ。恥ずかしすぎて。
起こさないように身を捩ったりもがいたりしたが、ウィルフレッドの腕はびくともしない。
『つ、疲れた』
朝から何故こんなにも疲れなくてはいけないのだろうか。
起こそうと猫パンチを食らわすが、起きる気配がない。
仕方が無いのでウィルフレッドを見つめてみる。
『まつげ長っ!本当に美形だなぁ』
そういえば案外優しかったなぁ…。と昨日のことを思い出す。
最初は無口で怖い人だと思っていたが、そうでもなく、涙の止まらない私を優しく撫でて添い寝してくれた。
そこまで思い出して顔を熱くする。
『恥ずかしい…』
なでなでされて抱き枕にされながら一緒に寝るなど…。
「ん…」
ウィルフレッドの呻きにびくっと体が跳ねる。
閉ざされていたウィルフレッドのまぶたが開かれ、宝石のような碧眼が現れる。
「起きたのか…」
そう言って、私の頬に手を滑らせる。
私の心臓はバクバク言っている。
何ですかこの無駄な色気は!?死ねと言ってるんですか?そうなんですか?そうなんですね!?
そこに、ナイスなタイミングでアラーナがノックをして入ってきた。
私は今の状況に耐え切れず、体を先ほど以上にじたばた動かし、ウィルフレッドの腕から抜け出す。そのままドアに向い走り、部屋を飛び出した。
後ろでアラーナの声が聞こえるが、今の私はそれどころじゃない。私はとにかく走った。
『はぁはぁ、死ぬ』
着いた場所は庭らしき場所。色々な花が咲き、風に揺られている。
「あれ?黒猫。どっかから迷い込んできたのかな?」
声が聞こえたと思ったらいきなり持ち上げられて、声の主と目線を合わせられる。
『わー』
これまた美形である。金髪を風に靡かせて、ウィルフレッドと良く似た青い瞳で私の顔を覗き込んでくる。
「あ、黒猫って…。もしかして君ウィルの運命人じゃない?」
彼の友達だろうか?ウィルフレッドのことをウィルと呼ぶ人に出会ったのは初めてだ。
「にゃー」
「やっぱりそうか。俺はウルフガング・シーザ・フォンテーン。ウィルの従兄弟なんだ。ウルフでいいよ」
そう言われてみれば、何となくウィルフレッドと似ている。
「…ウルフ」
いきなり後ろから聞こえてきた声は、ウィルフレッドの声。
「あ、ウィル。おはよ。今ねウィルの運命人を捕まえたんだ。ねえねえ、紹介してよ」
そう言って、私をウィルフレッドに渡す。
「………こいつの名前はリン。捕まえてくれたことに感謝する。あとで褒美にカーライル産のランディパイを部屋に送る」
ウィルはそのまま踵をかえし、建物の中に足を向ける。
「マジ!?カーライルのランディパイうまいんだよなぁ…じゃなくて!え?ちょっ!それだけ!?あ、ちょっ、まっ、ウィル!」
呼び止めるウルフに目もくれず、黙々と歩くウィルフレッド。どこかしら怒っているように見えなくも無い。
『あ、あの…ウィルフレッド…さん?』
「ウィルだ」
声のトーンが低い。間違いなく怒っている。
『ウィ、ウィル、あの…ごめん…なさい?』
恐る恐る謝ってみるが、ウィルは私を抱えたまま無言で部屋まで歩き、部屋に入った途端私をベットに放り投げた。
お母さん、早くも貞操の危機を感じます。