リンとクリスティーナ
ふと目を開けると、そこはウィルとリンの私室だった。
まだ日付が変わるか変わらないかぐらいの時刻だろうか、部屋も外も真っ暗だった。
「わ…たし…」
体を起こそうとするが、力が入らない。
とりあえず、そのまま状況整理をする。
ずっと意識がふわふわしていたのを覚えている。
苦しくて、でも眠くて、ずっと寝ていた。
「魔病…」
確か誰かがそう言っていた。リンドグレーンの仕業であることも。
ようやく力が入るようになり、体を起こし、ベットから出る。
「っ…」
立ち上がろうとした途端ふらつき、ベットの柱に寄りかかった。
「一体何日寝てたの…」
ふらつきながらも、ドアまで歩き、部屋を出る。
人の気配はない。
「ウィル…」
何度かウィルが様子を見に来てくれていることは辛うじてわかったが、昨日からウィルの気配がしない。
篭りきった部屋にいたせいか、外の空気が吸いたくなり中庭に向う。
「涼しい…」
フォンテーンは一年中春の陽気で、昼は暖かく、夜は涼しい。
ぼんやりと空に浮かぶ光を弱めたアメルス…、この世界で太陽の役目をしている光を見つめる。
アメルスは一日中浮かんでおり、朝から昼に掛けてだんだん光を強め、昼から夜に掛けて弱める。
「………誰…?」
後ろから声が聞こえ振り向くと、そこには肩の辺りまである柔らかそうな茶髪の可愛い少女。見た目はまだリンと同じくらいで16歳前後。
「あ、えっと…、リンっていいます」
「リン…さん。あ、ウィルフレッド王の…。…私、クリスティーナ」
「クリスティーナ!?」
一緒に城に住んでいるのは知っている。
だが、ウルフの召喚の儀にも出席しなかったし、リンは中央塔で、ウルフは東塔に住んでいるため中々会わない。それ以上に、クリスティーナはあまり東塔から出なかった。
「ウルフが…、中央塔に行ったきり、中々帰ってこないから…」
なるほど。中庭は中央塔と東塔、西塔の連絡通路の役割をしている。
「リンさん、大丈夫?魔病…掛かったんでしょ?」
「あ、うん。大分楽になったよ」
そう言うと、クリスティーナはその透けて見えそうな金色の瞳でじっとリンを見る。
「………まだ寝てた方がいいよ。…黒い魔力が取り付いている」
「え?」
「私、見えるの。魔力とか、未来とか色々」
クリスティーナは何の感情も無く言う。
「リン」
ウィルの声が聞こえたと思ったら、後ろから抱きつかれた。
「心臓が止まるかと思った…」
部屋にいなかったせいだろう。ウィルは大分焦っていたようだ。
「ごめん、ウィル…んっ」
ウィルと向かい合わせになって微笑むと、口付けされた。
「部屋に戻るぞ。夜は冷える」
ウィルがそう言った直後には部屋に戻っていた。
「あ、クリスティーナ」
「…何か言っていたか?」
「まだ黒い魔力が取り付いているって…」
そう言うと、ウィルはリンをベットに寝かしつける。
「クリスティーナの言うことには従っておいた方がいい。あれは神の愛娘だからな」
神の愛娘?と聞こうとしたが、ウィルが触れている額から暖かい何かが流れ全身を駆け巡り、睡魔が襲ってきて意識を手放した。
神の愛娘、クリスティーナ。
なんか寝て終わるの多いな…