魔病を患いました
…なんかふわふわする…。
何だろう…。
「………っ!……ンっ!………リンっ!」
ゆるゆるとまぶたを上げると、そこには焦った顔のウィルがいた。
まわりは暗い。
まだ夜中だろう。
「凄い汗だ…、熱も高い」
ぼんやりとした水桜織の額に手を当てるウィル。
「リンドグレーンの事もあるからな…。疲労が熱となってでたのか…?」
生憎、ウィルには医学の知識がない。
ウィルは上着を着て部屋を出て行った。
「はぁ…っ…」
昨日強制的に帰宅させられた後もリンの震えは止まらなかった。
リンドグレーンの名前を聞くだけで気分が悪くなったが、近くにいるかもしれないと思うと、緊張と寒気に押しつぶされそうになった。
「うぃ…る…」
夜ウィルに包まれても寝ることは儘ならず、かなりウィルに迷惑をかけてしまった。
「リン様!お加減はっ…!?」
ウィルはアラーナを呼びに行ったらしい。
アラーナが血相を変えてリンに駆け寄った。
「まあ!凄い熱!すみませんウィルフレッド様、ルシア様を呼んできてもらえませんか?」
「ああ」
ウィルは再び部屋を出て行った。
「リン様、安心してください。ルシア様はこの城の医師でもあるのです。すぐに楽になります」
アラーナは魔法で出した濡れタオルでリンの汗を拭きながら言った。
「大丈夫か、リン」
ルシアが部屋に入ってきてリンの額に手を当て、次に肺の上らへんにも手を当てる。
「これは…、魔病だな。恐らくリンドグレーンに対する負の感情に付け入ったのだろう…。こんな複雑な魔病をばら撒く奴はリンドグレーンしかいない。普通の薬では治せない。今から魔草を探す。この魔病の薬は珍しいシュラビータの花びらを使わなければならない。少し時間がかかるかもしれない…」
「シュラビータ…難しいな…」
シュラビータは希少な花で、フォンテーン王国とレヴァイン王国の国境付近に生息している花だ。
「見つかるまではなるべく眠るしかない。眠り薬を調合するからそれを飲ませて寝かし続けろ」
そう言ってルシアは足早に部屋を出て行った。
シュラビータという花は本当に少ない。見つけたら幸せになれるという程見ることが少ない。
実際、ウィルも見たことは一度も無い。
「厄介なものを…」
今度会ったら必ず殺すと心に決め、リンの熱で赤い頬を撫でる。
「あぁ!」
アラーナがいきなり声を上げた。
「す、すみません、突然大きな声を出してっ!でももしかしたらリン様を助けることができるかもしれないんです!」
そう言ってアラーナは部屋を飛び出した。
「これはっ!そうか!でかしたぞ、アラーナ!それなら私も今すぐ転送する」
アラーナが持ってきたのは一輪の花。
それは先日、サラがウィルの生誕祭の際に購入した何の花の種でも作ってくれる花、カルシフという花であった。
「種だが、時限操作の魔術を使えば早く咲くだろう。ちょうど私もウィルもそしてお母様も時限操作の魔術を扱える少ない魔術師の一人だ。私からお父様とお母様に説明しよう」
それから早急に話がまとまり、ウィリアムが臨時で執務をし、ウィルとルシアと、カルシフを同じく使わずに所持していたサラがカルシフからシュラビータの種を作ることに専念することになった。
リンはルシアの薬によって眠りについている。
ウィルはリンに口付けをし、部屋に強力な結界を張って、ルシアの研究室へと急いだ。
待ってろ、リン…。