祭りの後の幸せな夜
アイリーンと護衛に来てくれたルシアと長い間挨拶をしたり、話していると、いつのまにかパーティーはお開きになったようで、ウィルとシリルさんが迎えに来た。
「リンちゃん、また学園でね」
アイリーンとその場で離れ、リンもウィルと共に私室に戻る。
部屋に戻ったリンとウィルはお酒の入ったボトルを持って、バルコニーに出た。
生誕祭の名残はまだ続いているようで、町はざわざわと夜の雰囲気を醸し出していた。
「ウィル、お疲れ様」
ウィルのグラスにお酒を注ぐ。
「ああ。リンも」
「あ、私は未成年だから…」
「未成年?」
あれ?この世界に未成年はないのかしら?
「向こうの世界ではお酒は20歳になるまで飲んじゃだめなの」
「そうなのか…。…だが、ここはフォンテーンだ。リンも飲める」
「え…、まあ、うん」
上手く丸め込まれ、お酒を手渡される。
「…そういえばウィルっていくつ?今日が誕生日ってことは、私が召喚されたときに誕生日じゃなかったってことだよね?」
「…俺が20の誕生日の時は、色々あって俺の周りが整っていなかったからな。下手にリンを召喚して、守りきることができるとは言えない状況だった。この世界では20のうちに召喚の儀を行わなければならない。だからあんな中途半端な時期だった」
ウィルはお酒を口に含む。
「そうなんだ…」
リンもお酒を口に含んだ。強いアルコールの香りにくらっときたが、凄くおいしかった。
「リン…」
「ん?」
呼ばれたかと思うと、ウィルの顔が目の前にあった。
そして、右手の薬指に冷たい感触。
「うぃ…る?」
「本当は一年後の誕生日に婚礼の儀の申し込みをするのが普通なんだ…。だが、俺の都合でリンを召喚するのが遅くなってしまった。一緒にいた時間はたったの三ヶ月だが、俺に一生付いてきてくれないか?」
え!?えええ!?これってプロポーズ!?
「な…んで。だって私たちもう…」
「異世界からの運命人は、リンのように身を守る術を持っていないこともある。一年間、学園に通って防御の術を学んでから婚礼の儀をするのが普通だ。それに、たとえ運命の人であっても、すぐには受け入れられない。万が一、相手が嫌だった場合を考えて、一年後に婚礼の儀の申し込みをする」
「指輪は…」
この世界では既婚者が指輪をつけるという習慣は無いはずだ。
「婚礼の証は異世界人の方に合わせられる。俺の母上はたぶんリンと同じ世界から来たんじゃないかと言っていた。だから、婚礼の儀のことは母上に聞いた。それで…」
だから指輪を…。
確かに、サラさんは左手に指輪をしている。
「なんで右指?」
「婚礼の儀の時に左指につける。俺もリンが学園を卒業するまで婚礼の儀をするつもりはない。予約の証と、リンが俺に付いてきてくれるという証になる」
微笑まれながら言われた言葉に顔が熱くなる。
こつんとおでこがぶつかり、ウィルの顔が間近にくる。
「リン、大切にする。たった三ヶ月だったが、俺にはもうリンじゃなければだめだとわかった。ずっと一緒に、死ぬまで一緒にいたい。俺と一生一緒にいてくれないか?」
ウィル以外の人が隣にいるのを考えられるかと問われれば、答はNOである。
「はい…」
そう言った瞬間に唇を塞がれ、強く抱きしめられる。
「何があっても絶対に離さない」
「あ、ウィル。ちょっといい?」
ウィルからのキス攻撃を一度止めさせる。
「これ」
部屋に入り取ってきたのは、5日前に買ってきたペアのピアス。
「お誕生日おめでとう、ウィル」
ウィルの前にピアスを出す。
「この二つのピアス対になってるんだよ。ウィルの瞳と私の瞳の色」
「俺はこっちがいい」
ウィルが取ったのはリンの瞳の色。
「リンの瞳の色を付けていたい」
「う、うん、いいよ。じゃあ、私はウィルの瞳だね」
赤くなった顔に気づいていないフリをしながら、両耳に青いピアスを付ける。
「なんか…、ウィルと一緒になったみたいでドキドキする………っ!」
いきなり横抱きされ、ベットに押し倒される。
見えたのはベットの天蓋と、ウィル。
ウィルの両耳には、リンの瞳と同じ色のピアス。
「リン。もう我慢できない。リンの全てを俺にくれないか?」
「っ!え!?…っん」
返答も無しに、口付けをされた。
「…優しくする」
もう、羞恥でうなずくことしかできない。
ウィルはふっと笑って事を進めた。
今までで一番幸せな夜。
長くなってしまった…。