差し込んだ光
まだ目を覚まさないのか…?
「ウィル、そろそろ」
ルシアがウィルに仕事の催促をする。
あの事件以来、ウィルはリンの傍を離れようとしなかった。
リンは体こそ何ともないが、精神はボロボロだった。
あれから一向に目が覚める気配は無い。
「頼むから仕事をしてくれウィル。お前に仕事をさせなければ、私は研究に取り掛かれない。リンが目覚めが遅くなるだけだ」
ルシアは魔術の優秀な研究者でもある。
今回は、リンが早くこの世界に馴染ませる魔方陣の研究をしている。
無理やり変換させられたリンの体を再び動物に変えるのは、リンの体がもたないと判断されたからだ。
ウィルは無言で机に向う。
リンは常にウィルの近くにいる。
魔法で宙に浮かされ、何にも触れぬようにされている。
「…見込みはあるか?」
「………わからない。こんなこと初めてだ。リンドグレーンがあんな無茶なことをして、尚且つそれに耐え切れた運命人なんて過去にいなからな」
ルシアはそれだけ言うと、部屋を去った。
後に残ったウィルは、顔を手で覆った。
「リン…」
「…お母様」
ルシアの研究室にはサラがいた。
「私も手伝うわ。ルゥちゃん一人で大変でしょ?ウィリアムの許可を取ってきたの。何よりリンちゃんのためだから」
サラは見かけによらず、とても頭がいい。
ルシアの頭の良さはサラから受け継いだものだ。
「ルゥちゃん、これ見て」
サラが手にしているのは古びた本。
「これは…、運命人の召喚の儀が始まった時の…。【異世界からの運命人とこの世界】…」
本を開いてみる。
「っ、お母様!この魔方陣、まだ途中ですが、これなら…」
「えぇ、リンちゃんをこの世界に馴染ませることができるかもしれない」
それは24代目の王および、初代魔術師の資料だった。
先の見えない闇に光が差しこんだ。
「ウィル君!できたわ!」
バーンという音と共に部屋に入ってきたサラ。その後ろにはルシア。
「この魔方陣を使えば異世界から来た運命人をすぐにこの世界に馴染ませることができる」
「すぐに準備する」
ウィルは、すぐさま立ち上がり、部屋を出て行った。
初めてリンがこの世界に召喚されたときの部屋には、リンを早急にこの世界に馴染ませるための魔方陣が描かれている。
その魔方陣の上には、リンが青白い顔で横たわっていた。
「始める」
ウィルがそう言うと、魔方陣が光りだした。
そのまま光がリンの体に入っていき、最後にはリンの下の魔方陣は消えていた。
「リン…」
ウィルが近づくと、先ほどまで青白く、浅い呼吸を繰り返していたリンの頬に赤みが差し、呼吸も穏やかになっていた。
「まだ意識が戻るまで油断できないが、ひとまず安心だろう…」
ルシアの言葉に、ウィルはリンを抱きしめた。
リンが穏やかに呼吸しているのを見て、自分の中の波も穏やかになった気がした。
次回、リンちゃんが目を覚ます!




