希望峰は遠くない
赤道の、ひりつくような熱気。
共鳴する紺碧の海――大西洋の入江が続くこの場所で、
重厚なガレオン船は、純白の熱から――その根底に宿る気性を失わず、遠い昔にあの青き空と交わした故郷への凱旋の誓いを胸に、また、あの高くたなびく雲へと思いを馳せながら――
男たちは、世界の果て――「希望峰」を目指して旅立つ。
海風は、息が詰まるほどに。
出港は、未練を残す。遠ざかる水平線を見つめる誰もが、地上に余韻を抱いている。ある者は置いてきたウィスキーを、
ある者は港の恋人を、
またある者は故郷の情趣を懐かしむだろう。
舳先が大海へと向き、足元を震わす水面の振動が鳴り響くたびに、未練はただ募っていく。口に出せぬ別離の恐怖――男たちは沈黙する。
しかし、彼らは発たねばならない。未知なる大海に生死を賭けて。
海水の塩気を味わいながら――口の中いっぱいに広がる辛い潮気を、洗い流せぬまま。
船員たちは、どん、どんと響く足音に合わせて帆を張り、錨を上げる。
遠ざかる歓声――老いた者たちは、もはや耳を傾けない。
失足、失踪、そして年輪から滲み出る失笑が、彼らの喪失――希望に満ちた心の喪失を作り上げたのだった。
若者たち――弾力に満ちた筋肉質の肉体を持ち、輝かしい未来を夢見る男たちは、腕がもげんばかりに左右へ振って彼らを見送る。
彼らにとって出港とは、巡礼者の一歩に等しい。
乾いた砂漠の熱風、マラリア、黄熱病、壊血病、脚気――すべては、彼らにとってささやかな悪魔の悪戯にすぎない。若者たちは、見事にそれを乗り越えるだろう。
残るものは、黄昏の上に立ちのぼる残像――
やがて陸地が視界の外へと呑まれたとき、彼らはようやく互いの孤独を確かめ合う。
いや、正確に言えば――孤独を開け放つのだ。男たちの対話とはこういうもの――蓄えてきたラム酒を分かち合いながら。彼らにとって口とは、飲み込むためにあり、吐き出すためにあるのではない。
彼らにとっては、百の言葉よりも一杯の酒こそが、万病に効く妙薬なのだ。
隠してきた孤独を存分に開放し――船に乗る誰もが互いの孤独を、丁寧に舐め合うように分かち合う。
重圧感。しかし、不快な圧迫感ではない。コンクリートの壁からでも咲く菜の花のように、
その雰囲気こそが、彼らを真の巡礼者へと生まれ変わらせるのだった。
そして彼らは、その崇高な儀式によって、一月ほどの旅路の幕を開け――また閉じるのだろうが、のろのろと這うようにして船倉のハンモックへと眠りを求めるのだった。
――――
だが――荒ぶる海上では、束の間の眠りすら容易には与えられない。
酒に酔い赤く火照った彼らの顔も、海の怒りに青ざめることだろう。
打ち寄せる波。波は甲板に触れるようで、触れぬようで。白い飛沫を船にべしゃり、べしゃりと無骨に浴びせる。船は、一度高く舞い上がったかと思えば、また激しく落下する。
揺れ動く船内――海は彼らを飼い慣らそうとする。
――湿気が喉を塞ぐ。
それにつれて荒くなる呼吸。
顔は汗で濡れ、触れ合った肌の境目すら分からなくなるほどに。
絶えずまとわりつく蚊、飛び回る蠅――しぶとい虫けらども。
昼の熱気を含んだ板からは、割れるような軋みが響く。
きしむ音、新入りを除いて誰もがすでにとうに諦めている。
哀れな新入り――ちょうど成人したばかりの青年は、耐えきれず床に吐瀉物を吐き出す。
だが誰も助けてはくれず、青年は見えぬ脅威と独り向き合わねばならない。
夜明けはまだ訪れない。
彼の頭の中には、まだ陸の、洗練された都市の安らぎがちらつき、
彼は船に乗る前――数か月前に断ち切られた記憶を思い出す。
貧民街の記憶――貧しさ、そして脱出。彼はその太古のすべてを拒もうとする。
逃げるように船に乗った彼は、遠い異国――インドで新たな人生を生きるのだ。
胡椒を商うかもしれない。いや、胡椒を栽培するかもしれない。
賃仕事をするかもしれず、金貸しをするかもしれない。
すべては青年自身の両手の中――それこそが、青年の持つ小さな鍵。
闇は、脆くなった彼の心象を作り変え、屈服させながら、
アフリカへの上陸を促すが、
彼は一睡もせず夜を明かす。
希望峰は、遠くないのだから。
――――
新入りが現実との闘いを続けているとき、
新入りの傍らには、隻眼の中年の男がいた。
遠くスウェーデンから流れ着いた男は、金鉱の噂を耳にしてこの船に乗っている。
ロシアで片目を失った彼は、農場で家族を築き、穏やかな人生を送っていた。
だが酷寒によって家族をすべて見送ったあと――二十年余りが過ぎ、
彼は家もなく、放浪の身でヨーロッパをさまよい歩いた。
デンマークでは靴を直し、フランスではチーズを作りながら――
それでも腰を落ち着けることなく、誰とも言葉を交わさず、
そう、まるで一隻の帆船のように、彼はヨーロッパという公海を航海していたのだ。
そんな彼を、友から聞いた噂が遥か南へと駆り立てた。
暖かな南の国は、暑い。スウェーデンの夏が、この地の冬なのだ。
読めない言語で書かれたビラを、
ただ挿絵だけを頼りに、彼はこの船に乗り込んだ。
嵐は激しさを増し、彼は眠りから覚める。吹き荒れる北風。
あの噂――南アフリカのどこかにある金脈――数百ドゥカートの価値を持つという伝説の金鉱。
だが、金は男の目的ではない。真偽など、もはや男にとって重要ではない。
男は時折、走り書きで――記憶を頼りに再現した家族の肖像を取り出す。
蝋燭の灯りでかろうじて浮かび上がる彼らの顔に、男は笑みを見出す。
今、彼の傍らには妻の優しさも、子どもたちの明るさも残ってはいないが、
目を閉じれば、いつでも彼はそこにいる――故郷の情景。
蕪と麦の農耕で鍛えられた、硬く逞しい手には、北国の寒気が宿っている。
新入りのような純粋さも、船長の老練さも、この男には見出せない。
野暮ったい縞のシャツを纏い、擦り切れた長靴を履いてはいるが、
彼の意志だけは、世のいかなる貴族よりも、紳士よりも洗練されている。
北風は故郷への懐かしい郷愁、南風は富貴への合図。
夜明け前の空はまだ暗い。
――――
嵐は徐々に鎮まっていく。しかし油断してはならない。
弱りきった船体は、いつ大きく血を吐くように沈むか分からない。
船長は――頭に白髪がまばらに生えた、老練な船長は、松明を手に船内を巡る。
長年の航海の経歴から、船長は巧みに船内の浸水を点検し、荷の異常の有無を確かめる。
船長室へ戻る道すがら、
船長は耐えきれず倒れ込んだ新入りを見つけ、その話し相手になってやる。
分かち合われる思い出。数十年にわたり海の上にいた船長の話は、新入りの興味を引くに十分だった。新入りは再び憧れの心を抱く。にこやかに笑いかける船長――船長もまた、
久しぶりの会話に渇きが癒えたのか、新入りの繰り言に耳を傾けてやった。
思い出す船長――幼き日、ヴァスコ・ダ・ガマの航海に憧れて家を飛び出したあの少年――新入りと同じ年頃だった少年は、港の掃除夫からガレオン船の船長にまで、叶うはずもないと思われた夢を叶えていった。リスボンからマラガ、カーボヴェルデ、ギニアビサウ、そして希望峰――
いわゆる大航海時代にふさわしい名声を築いた船長。だが人の縁には恵まれなかった。
彼を大海へと導いてくれた恩師も、最初の航海の仲間たちも、異国で出会った恋人も、
ことごとく大西洋の霧とともに消えていった。
彼らが一人また一人と消えていくたびに、希望に高鳴っていた船長の心は冷えていった。
それでも船長は航海をやめられない。船長は、港ごとに群がる少年たち――少年たちの憧れの眼差しを見るたびに、過去の自分――航海を渇望していた自分を思い出すからだ。
そのうち、風が凪いでいくのを船長は直感で察し、
順航を続けるためにその場を離れる。
「頑張ってください」という新入りの一言を、独り言のように反芻しながら、
昇る太陽のために船長は大きく足を踏み鳴らす。
日が昇る。嵐が過ぎ去り。日が昇っていく。
遥か彼方のアフリカで、アフリカの草原で日が昇っていく。
集まってくる男たち。
男たちにとって、嵐など問題にはならない。
そして誰よりも早く甲板に立ったのは船長だ。
船の最も高い場所、そして最も明るく輝く場所に、白髪の船長が立っている。
太初の心を胸に、船長は久しぶりに日の出を見つめる。
続いて、航海士たちと船員たちが列をなして現れる――まだ酔いが残ったままで。
その中には、新入りと中年の男の姿も見える。
まだ、空はぼんやりと暗いが――
彼らの未来は晴れやかだ。まだ航海は多く残っており――憂うべきことは山積している。
明日の天気は分からないが、十年余り後の彼らに幸あれという事実だけは、
今はもう誰もが知っているのだ。
紫の香り立つ日の出。
共鳴する朱色の海――果てと果てが繋がるこの場所で、
堅固なガレオン船は、乱れ散る陽光から――その根底に宿る願いを失わず、遠い昔にあの北の地で交わした故郷への凱旋の誓いを胸に、また、あの高くそびえる理想へと思いを馳せながら――
男たちは、世界の始まり――「希望峰」へと向かっていく。
そして三人は、東の空に昇る太陽を見つめながら復唱した――
「希望峰は、遠くない」と。




