桜散る日に
あの日は、桜が満開だった。
青空には白い雲が所々に浮かび、ゆっくりと流れている。
忙しい毎日だったけど、春の陽光の中、菜の花の黄色や若草などの春らしい淡い色が重なる光景は、少しだけでも足を止めて眺めるだけで心を軽くしていた。
そんな時に、僕の電話が鳴った。
知らない電話番号。
普段なら、出ていない。
けど、それをその時とったのは、春の陽気のせいだったのか。
あるいは、君がそばにいたんだろうか。
「もしもし?」
「ああ、お久しぶりじゃね。わかる?トモの母じゃけど」
「え?あ。お久しぶりです……どうしたんですか?」
「うん、あんね……」
少しだけ、間が開く。
でも、それは少しだったのか、それとも結構な長さだったのか、今となってはどちらかよく分からない。
「トモがね、亡くなったんよ」
「……え?」
「君にだけは伝えてくれって言われてね」
「……そうですか」
「『ありがとう』って。手紙があるけえ、送りたいんじゃけど、住所教えてくれる?」
「はい、わかりました」
そこからは、正直よく覚えていない。
ただ、途端に時間の流れが鈍くなり、色がなくなり、聞こえていた周りの音がやたら遠く感じたのだけは覚えている。
数日後、手紙が届いた。
中学の時に付き合ってた時の字の面影は、なかった。
それはそうだろう。だって彼女はもう長い間病床に伏せていたから。
時々は言葉を交わせていたけれど、秋が深まる位には、また入院だと聞いていた。それからまだ、半年も経っていなかった。
涙が出なかった。
ひどくぽっかりとした思いがしたのに。
ただ、神様に逆転罰を与えたい気にはなった。
なぜ彼女を連れていったのか、直接聞きたかった。
だってそうだろう?




