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Pattern3. 穴吹惟──悪役はヒーローである──

正義の味方にも、真のヴィランにもならなかった『悪役《誰かのためのヒーロー》』のエピソード

 ヒーローは絶対的な正義であり、仲間を裏切らない。


 悪役はヒーローがふざけたって、それには乗らない。だって、悪役は空気が読めないから。


 悪役は絶対的な悪。


 だから、悪役は最後まで報われない。




『なあ、イブキ、お前は正義の味方になりたい? それともヒーローになりたい?』


 ある日、先生にそんなことを聞かれた。ヴィランとのバトル中とは違い、静かで穏やかで冷静な先生だった。


 彼のことを僕は先生とは呼んでいた。彼は僕より10歳くらいしか年上じゃなかった。だから、敬語だって使わなかった。


 それに当時は先生も18歳で未成年だったし、未成年同士で敬語使うなんて考えも僕の脳裏にはなかった。でも、先生と呼べって言うから先生って呼んでいた。


『僕が目指すのはヒーローだけど、正義の味方じゃないよ、先生』


『ふぅん。なるほど。じゃあ、お前、俺の後継者なー!』


 漢字練習していた手を止め、振り返る。僕の視線の先にはニッコニコの笑みを浮かべた、ヒーローアズマの姿。


 その姿はあまりにも正義の味方で、ヒーローだった。本人には絶対には言わなかった。言えば、アホみたいに言いふらすし、踊り出すから。


『は?』


『ヒーローアズマの後継者、ヒーローイブキ。いいな、これ』


『何が?』


『正義の味方じゃない。つまり、悪の味方にだって、正義の味方にだって、『()()』味方にだってなれるヒーローってことだろ? 俺と一緒じゃん!』


 満面の笑みで俺に笑いかけるヒーロー。


 あなたは正義の味方で、ヒーローの味方で、悪の味方で、僕の味方で、誰かの味方で──。


 そんなあなただったから、僕はあなたのことを「()()」って呼んでいたんだ。




『ヴィラン、アクセ! ストップ! それを今、投げっ』


 16歳でヒーローになって一年活動して、17歳。ようやく、一人で行動させてもらえる機会が増えてきた、そんなときにヴィラン「アクセ」と出会った。


『ノープログレム! 行くぜ!』


『投げるなって言ってるのに!』


『オレ様は最強だ! お前()倒してやるぜ、ヒーローイブキ!』


『今の状況だと、お前「()」でしょうが!』


『あ、そっか』


『ヒーローにツッコませんな!』


 もうそれは多分、全世界にいるヴィランの中でも、ヒーローが把握していたヴィランの中でも一番バカでアホなヴィラン、その名をアクセ。


 先生が任務時間外でヴィランと遭遇し、雑談していた姿を思い出し、それっぽくヴィランに接してみた。そしたら、何故か、一部のヴィラン達は僕にツッコませるようになった。一番その傾向が顕著だったのが、ヴィラン「アクセ」だった。


 A級犯罪者。

 害悪ヴィラン。

 煩い悪魔。

 ありとあらゆる超能力を扱える悪人。

 味方になれば強いのに騒がしいというだけで、協力対象外になるヴィラン。


『ツッコませるはお前だけ!』


『ボケながら、僕に攻撃しながら、対立組織に爆弾投げないでくれないかなっ、アクセ!!』


 空気が読めないどころか、ふざけないどころか、彼は全ての均衡を崩すかのように動いた。「悪魔のヴィラン」の通り名が似合うくらいに止まらない人だった。


 でも、彼との出会いが僕の()()()()()()()()()()()()のきっかけだった。




「初めまして、ヴィラン清原(きよはら)


「……お前が元ヒーローのイブキ。随分とまあ、正義の味方って感じでも悪役って感じにも見えないタイプだな」


 ヒーロー組織「アマテ」を裏切った『()』ヒーローのヴィラン「イブキ」。僕はそういう『()()』でヴィラン組織「スサ」にスパイとして送り込まれた。


 そして、スサのボスによって引き合わされた相手が目の前にいるヴィラン「清原」。救われない、誰よりも悲惨な過去を送ってきたヴィランだった。


「もとより、科学者タイプだからね、僕。戦闘は苦手だよ」


「どうだか。あれだけヒーローとして活躍してたくせに」


「褒めてくれありがとう、清原」


 本当は同情なんてしたくなかった。でも、あまりにも、あまりにも、イブキは救われない悪だった。


 だから、僕はそんな彼らを守りたいと、救いたいと思った。最大多数が選ばれても少数が、幸せになる世界を作ると誓った。




「オレちゃん最強のヒーロー、ってギャー!!!!」


 ヴィラン達のためのシステムを造るための材料を購入するために変装する。そして、街を歩いていればデパートの屋上から地上へと落ちてくる、見覚えのあるヒーローの姿。


「マクベスー!! 君、何やってんの!?!?!」


 ヒーロー、マクベス。


 僕がヴィランとして活動するなかで、出会った一番騒がしかったヒーロー。僕がヴィラン側へのスパイなんて一切知らないヒーロー。確か、魔法が使えるとか言われていた。


 とにかく、煩くて煩くて煩くて。


 アクセを倒して、捕獲したヒーローマクベス。煩い者同士、どういう戦いの末にマクベスがアクセを倒したのかは気になった。でも、それを口には出せない。


 だって、ヴィランは仲間のことを気になんて、しないから。


「ああああ!! あっ、イブキじゃん! ヴィランなのに何やってんの、こんなとこで」


「買い物だよ。ってか、何やってんのはこっちのセリフだよ。なんでデパートの屋上から落ちてくるんだよ」


「ヒーローだから?」


「元ヒーローの僕でも、ヒーローだからって理由で屋上から落ちたことはありません!」


 ある意味で、一番空気が読めないヒーローだったと今なら思う。




「…………お前、何これ」


 研究所で、研究をしていれば、ふっと聞こえてきた相棒の声。顔を上げれば、目の前に清原の顔があった。その顔には湿布と包帯が巻かれていた。ヒーローとの戦闘の末にできた怪我だということが分かった。

 ……傷付いて、ほしくない、なんてヒーローは思わないんだろうけれど。


 ここ数ヶ月、ヒーローとヴィランの戦闘が激化している。特にスサとアマテの対立は悪化の一歩を辿っている。


 それは、どうしようにもないほどに僕のスパイとしての役割が反映されたうえでの結果。


 ()()()()()()()()()の功績が導いてしまった結果。


VFCSヴィランフォームチェンジシステム、完成版。HSS(ヒーロー変身システム)と似た感じのやつ。清原、使ってみれば?」


「バカと天才は紙一重じゃん。今のヒーローとヴィランの均衡崩すタイプの空気読めない奴」


 だから、僕はヴィランのためにVFCSを作る。ヒーロー達以上に守られない、彼ら。それでも真っ直ぐに生きる彼ら。


 少しでも、ヴィラン達が自分達の生きたいように生きられるように。


 僕の手が血に塗れようと、ヒーロー達にとって汚点になってしまったとしても。


 ──それが、ヴィラン達が生きるために必要であるならば、僕は何だってしよう。


「…………読んだうえで作ってんだよ、アホヴィラン」


 ──ヒーローにとっての裏切り者になっても、ヴィランにとっては裏切り者でも、僕はヒーローとヴィランのためにHSSとVFCSを作ったんだ。




「世界最強のヒーローといえばオレちゃん、マクベス!! お前はなんだぜ!!」


 自分で開発したVFCSを装着して挑む初戦闘。スサの拠点の一つでヒーロー達の襲撃をヴィランの「()()」達と待っていれば姿を現したのはヒーロー、マクベス。


 マクベスの周囲にいるヒーロー達は僕のことを酷く憎しみが籠もった目で睨み付けてくる。でも、マクベスは、僕のことを真っ直ぐに見てくる。


 なんで、どうして、そこまで君は真っ直ぐなの。僕は君の仲間なのに、裏切ったふりをして、ヴィランの側にいて、君の仲間を殺してきたのに。


 どうして、君はそれでも、笑って、僕のことを真っ直ぐに見てくるの。


「僕ちゃん最低ヴィランのイブキくん! って何やらせとんじゃ、マクベス!!」


 本心は心の奥底へ。余計な感情は誰にも見えないところに。


「やっぱり、イブキはいいな! 俺の「()()」に付き合ってくれるんだから! 俺はヴィラン嫌いだけど、やっぱり、お前のことは好きだ!!」


 ──君なら、もしかしたら、なんて思ってしまうから。




「……ねぇ、リュウジ(ヒーロー)


「なんだよ」


 マクベスを吹き飛ばして、他のヒーロー達も倒し尽くす。何度も何度もそんな戦いを繰り返した日々。懲りずに彼らは僕に突っ掛かってきた。


 でも、そんな日々が続くと思っていたある日、「彼」──ヒーロー、リュウジ──は目の前に現れた。


「君が僕を殺してよ」


 僕へのヒーロー達からのヘイトが高まっていく。ヴィラン達がVFCSを使い慣れてきた。


 そんなときにリュウジは僕の前に来た。ああ、上層部は僕をヴィランとして倒すことを決めたんだな、とどこか冷静に気付いてしまった。裏切られてしまったんだなと気付いた。


 …………きっとヒーロー側は大丈夫。上がどれだけ腐っていても、いつか、いつか、『()()()()』が姿を現すから。腐っていない人達だっているから。


「なんで、」


 リュウジの顔が酷く歪んだ。僕がスパイとしてヴィラン側にいること知ってる顔だな、なんてその顔を見て察する。リュウジには言っていなかった。


 でも、彼はどこかでそれを知ってしまった。


 都合が良い、なんて思ってしまった。


「君だけでしょ、手加減しないのは」


 アズマ先生みたいな、リューみたいな、君なら、できるでしょ?


「なんで、お前が、それを言うんだよっ!!」


 ヒーロー、アズマ。それは僕の先生。僕の保護者だった人。


 ヴィラン、リュー。それはリュウジの育ての親。僕のヴィランの先輩。


 手加減という概念があったのに、それを一切しなかったヒーローとヴィラン。


 その二人に似たリュウジになら、と思った。


「悪は絶対的な悪なんだよ。その認識は変えられないんだよ。どれだけ頑張ったって覆せないんだよ。それなら、表向きだけでも、そうしてやるんだよ」


 最期の最後までは粘ってやる。


「僕は正義の味方じゃない。『()()』のためのヒーローだ」


 僕は、僕は、僕は、ヒーロー達の、ヴィラン達の、()()()()()()()()()()、生きてやるんだ。


「だから、だから、最後まで生き足掻いてやるんだよ!」



 悪役のヒーロー



 そんな存在がいたって、いいだろ?


「お前はっ、本当にっ、最っ低(最っ高)のヴィランだよっ、イブキっ!!」


「君こそ、最っ高(最っ低)のヒーローだなっ、リュウジ!!」



 最期の最後、見えた最高の景色はヒーロー「リュウジ」の泣き笑い顔だった。





 ── ……ああ、君を、泣かせたくはなかったんだけどな。

最低のヒーローで、ごめんね、リュウジ。

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