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1フレームに映る君、  作者: 村田鉄則
下宿での推理合戦

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河合萌の推理

「なるほど、先輩の話、興味深かったです。私、一条先輩のこと怪しいと思ってたんですが、ますます怪しく感じましたもん。ただ…」

「ただ?」

「ツッコミどころもあります」

 そう言いながら、河合はルーズリーフを一枚カバンから取り出し、ボールペンで何かを書き始めた。そして、数分後書き終わったのを僕に見せた。



【伊丹先輩の推理のツッコミどころ一覧】

 ①なぜ、山本さんの性被害告発をこのタイミングで行ったのかの理由付けが曖昧

 ②そもそも、山本さんの性被害を伊丹先輩だけに知らせるならチャットアプリで個人でメッセージで送ればいいだけなのに、何で人の映画にサブリミナル演出を入れたり、人のアカウントに不正ログインしてフォルダを追加したり、このような回りくどいやり方で行ったのか?

 ③撮影したのが一条先輩であっても、送ったのは他の人の可能性もあるのでは?例えば、東条副会長とか。

 ④ってか、伊丹先輩は不正ログインに気付いてなかったの????



【④ってか、伊丹先輩は不正ログインに気付いてなかったの?】

「最後の④が実は一番気になってたので、最初に聞きますね。伊丹先輩は不正ログインに気付いていなかったんですか?」

「いや、気づいてなかったな。僕、実は、格安SIMを契約しててキャリアメール使えなくてさ、pahooのフリーメールであのオンラインストレージサービスのアカウント作ったんだよ。SNSのDMでのやり取りとか、チャットアプリで僕は基本、人と連絡するし。だから、メールなんかたまにしか使わない。数カ月に一回見るくらいなんだ」

「ガチでセキュリティ意識ガバガバですね…」

 そう言いながら、河合は僕のパソコンを奪い、pahoo検索のサイトにアクセスして、勝手にpahooのアカウントにログインした。ってか何でできるんだ?

「何で、ログインできるの?」

「もう、傾向が掴めたんで、伊丹先輩のパスワードを見破るのは簡単ですよ。オンラインストレージが先輩の誕生日の次に先輩の名前のアルファベットだったから、まず、名前のアルファベットの次に誕生日を打ったらログイン失敗して、それなら!と、先輩の誕生日と名前のアルファベットを一文字ずつ交互に組み合わせて打ったらログインできました」

「えっIDは?」

「先輩は阿保ですか?IDはメールアドレスの最初と一緒じゃないですか。先輩の自己紹介カード私読んだことあるんで、あのメールアドレス名前ちょっといじっただけだし簡単なんで覚えてますよ」

 そう、僕のサークルには、毎年四月に新入生が入ってくるタイミングで、自己紹介カードを紙で書いて複数枚にコピーしてサークルに所属している皆に配るという、個人情報が大切に扱われる今の時代においては悪しき文化がまだ残っているのだ。

「ってか、先輩ぐらいでしたよ。あの自己紹介カードに個人情報大真面目に書いてたの」

「マジか!」

「まあ、とりあえずpahooメールの受信ボックスを見ますね」

 pahooメールと聞いたそのとき、僕はあることを思い出した。

「ちょっ待てよ」

 僕はpahooメールを様々なサイトのアカウントに利用していた。そして、そこにはアダルトなサイトのものもあるわけで…

「先輩、こういうのが趣味なんですか?巨乳…」

 やはり、僕のアドレス宛てにアダルトサイトからのお勧めのAV情報が僕に送られていた。しかも、毎日のように!有難迷惑過ぎる。僕がよくそのサイトで買っている【巨乳】ジャンルのものが勧められていた。

「いや、それはいいだろ!不正ログインを調べろ」

 僕は顔を赤らめながら怒鳴った。

「はいはい…先輩も巨乳好きか…」

 ぼそりと河合がギリギリ聞こえるレベルの小声でそう言った。巨乳好きで悪いかよ!

「ありました!例のアカウントのログインは三日前に検知されていますね…犯人はなぜこんなわかりやすいパスワードのpahooアカウントにログインして、この不正ログインの証拠を消さなかったんだろう…」

「ああ、それは多分pahooのサービスで二段階認証ってのがあるからじゃないかな。いざ、ログインしても、僕のスマホのSMSでワンタイムパスワードが送られてきてそれを打たないとログインできない可能性があるんだ。まあ、僕はその機能利用してないんだけど」

「なるほど。計画実行前に先輩に不正ログインの連絡行ったら駄目ですもんね…犯人は今時の若者がメールをあんまり使わないことを知ってたんですね…うーむ」

「そういや僕のオンラインストレージに不正ログインした際の位置情報は?」

「京都って書いてますね。けど、時間は、14:34か…こんなん電車とか会社とか出先で不正ログインしてもこうなりますしね…うーん」


【③撮影したのが一条先輩であっても、送ったのは他の人の可能性もあるのでは?】

「じゃあ、次は③について話しますね」

 先程のメモから遡って推理していく感じなのだろうか?

 そう思ったが、突っ込むのも野暮ったいのでやめた。

「③は、単純に気になったんですが、撮影者自身が撮影したものを送るとは必ずしも限らないってことです。隠し持っていた誰かが送れば、沢村先輩が持っている可能性もあるし、東条副会長も持っている可能性もある」

「そんなこと言ったら、誰でも持っている可能性があるじゃないか」

「まあ、そうなるんですが…私の考えだと画像データは一旦沢村先輩の手元に渡って、秘密を守ってくれる信頼のおける身内にだけ配られたんだと思うんですよね。沢村先輩はそう言った趣味があったのかもしれません。外部に画像が漏れた途端、沢村先輩は退学処分待ったなしですしね。そう考えると昔はどうだったか詳しく知りませんが、今では沢村会長との信頼関係を築きあげて、副会長まで昇りつめた東条副会長も怪しいです」


【②そもそも何で犯人はこんな回りくどいやり方で行ったのか?】

「次は②です。犯人が何故こんな回りくどいやり方をしたのかの理由が先輩の推理では述べられていませんでした。私の持論はこうです」

 そう言った後、河合は残り少なくなったコーラをペットボトルごとラッパ飲みした。気合を入れるためだろうか。いつの間にやら、ポテトチップスは消え去っていた。僕は一枚も食べていないのに。

「そう、簡単なことです。先輩のチャットアプリで友達登録していない人が犯人だったわけですね」

「どういうことだ?」

「簡単じゃないですか。チャットアプリで友達登録してないからこんな回りくどいことするんですよ。チャットアプリで直接伝えることもできない、メールも見なさそうな若者に伝えるには映画に編集をして、動揺させてフォルダを発見させるしかないってことですよ」

「しかし、回りくどいにも程がある。確かに上映会のスケジュールは先週サークルの公式SNSで発表してはいるが…」

「うーん、そこはこの回りくどい体験をさせることで、先輩に対して何かを伝えようとしていたんじゃないですかね…ところで先輩、東条副会長と一条先輩、二人共をチャットアプリで友達登録してるんですか?」

「一条先輩とは交換しているけど、実は…東条副会長とは交換してないんだ…自分でも何でか忘れたけど」

「ますます怪しい…」


【①なぜ、山本さんの性被害告発をこのタイミングで行ったのかの理由付けが曖昧】

「じゃあ、最後①について。①は私の予想なんですが…山本さんの命日が今日とかではないんですか?」

「いや、正確な命日は遺族しか知らないんだよ…『妹は遺書を残して、先日自宅マンションの屋上から投身自殺して亡くなりました。今まで妹のことをありがとうございました』って文章に山本の兄よりって書かれていただけで…家族葬で誰も葬式に呼ばれなかったし…お墓の場所さえも知らない…」

「そういや、今日はハロウィンですよね。死者の霊が現世の家族に会いに来るのがハロウィンの日とされるのでそれがこのタイミングで行ったことと関係しているのかもしれません」

「それもあり得るか…ん?」

 その時、僕はあることにふと気づいた。あの動画に一フレームだけ挟み込まれた写真において、ずっと疑問だったことがタイミングという言葉を聞いて、ある仮説へと繋がったのだ。

「ちょっとパソコン返してくれ」

 僕は河合からノートパソコンを取り返し、件の映画を再生した。

「どうしたんですか?」

「ちょっと待っててくれ!僕の仮説が正しいとすると…」

 シークバーを使って、映画を少女が涙を流すシーンまで飛ばし、コマ送りを始める。そして、上映会後と同じく山本さんのオフショットの写真の部分まで辿り着く。

「ほら、ここ!」

 僕はシークバーの左下部にある再生時間の表示を指さした。

 そこに示された数字は”28:10”だった。

「28分10秒…ああ!そう言うことですね。反対にしたら日付になる。ってことは10/28が山本さんの命日ってことですか」

「そうなるな…しかし、また犯人はわかりにくいやり方で伝えるな…」

「待ってください。10/28は今から三日前なので…ってことはですよ…ちょうど…不正ログインがあった日ですよ。犯人からの」

「犯人は山本さんの命日を知っていたのか…そして、その日に犯行を決意した?」

 暫くして、河合が立ち上がった。指で僕を差し示し、結論を言い始めた。

「私が思ったツッコミどころはとりあえず、全て話し終わったので、結論を述べます。沢村会長から身内にばらまかれた写真を手に入れ、回りくどいやり方で、告発を行ったのは東条副会長だと私は思います。伊丹先輩がチャットアプリで友達登録してないし、自己紹介カードも持っているので先輩のメールアドレスもわかってオンラインストレージサービスに不正ログインも可能、という風に東条副会長を犯人とする場合、複数の根拠があります。東条副会長は、山本さんの命日をなんらかの形で知っていて、ちょうどその日が来たときに彼女のことを思い出して犯行を決意したんですよきっと!」

 僕の推理では犯人は一条先輩、河合の推理では犯人は東条副会長ということになった。果たしてどちらが正解なのだろうか。

 僕は自分たちが話し合ったことをパソコンの表計算ソフトを使ってまとめ始めた。

 河合はその間、家に帰ってシャワーを浴びてくると言って僕の下宿から出ていった。長丁場になると見越したらしい。彼女の家はここから徒歩数分の所にあるという。ご近所さんだったとは知らなかった。

 僕はそのまま家に帰って寝てくれ!と謎を解き始める前だったら思ったが…謎を解き始めた今はそうは思わない。この謎をすぐにでも解かないと一生後悔するとさえ思っていた。

 そう…実を言うと、河合が最初に書いた容疑者リストの読み通り、山本さんは女子が苦手な僕が初めて好きになった人だったのだ…

 約一時間後、まとめ終わった僕が休憩がてら、冷蔵庫から湿布の味がすると言われる沖縄でよく売っている炭酸飲料を缶で飲んでいると、

 ピンポーンという玄関のチャイムの音がした。

 河合かと思ってドアをすぐに開けようとしたが、ふと違和感が襲ってきた。

 河合には僕の下宿のドアを開けていることを先程教えていたからだ。いくら河合だからと言って一時間前くらいのことを忘れるわけがない。

 今は夜中の11:30だ。まさか、僕たちの推理合戦における騒音の苦情のために隣の部屋から住人が来たとでもいうのだろうか。しかし、僕たちはそこまで大きな声で話してはいなかったはずだ。はて…

 僕は恐る恐るドアにある、覗き穴から外を眺める。

 そこには、太い黒縁眼鏡に黒髪天然パーマ、鼻筋の通り、まつ毛の長い中性的な顔立ちの男が立っていた。久々に会ったので一瞬誰か気づかなかった。それは…一条先輩だった。

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