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1フレームに映る君、  作者: 村田鉄則
下宿での推理合戦

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4/12

推理合戦の幕開く

「お邪魔しまーす」

 ゆるキャラのような高く可愛い声を出し、河合萌は僕の下宿であるマンションの一室に入った。 

 急に誰でも人が来てもいいように、僕に、いつも部屋を片付ける習慣があって良かった。映画撮影以外で女性を部屋に入れるのは初めてだったが、河合は顔もスタイルも良く可愛いとは思うが、性格が僕のタイプではまったく無いので別に今からムフフなことをするとか、そういったことは考えられない。

「男クサーイ!」

 河合は鼻を摘まんで八の字眉を浮かべている。

 コイツ、リアクションがカートゥーンアニメのようにいちいち大きいな。

「仕方がないだろ…男の一人暮らしの部屋なんだから!」

 僕はそう叫んだが、河合は聞いて無さそうだった。そして、何の確認も取らず、河合はカバンの中にあったポーチから取り出した香水を僕の部屋中に振りかけた。部屋中が河合の好みの匂いで満たされた…

「これで…マシになりましたね。マシに!!」

 語尾を強調して言いながら、河合は眉間に皺を寄せていた。まだ匂うの?

「そんなことはどうでもいいだろ!明日も上映会の準備で朝早いんだし、その謎解きとやらをさっさと済まして河合も家に帰れよ!」

 うんざりした表情を浮かべて僕は言った。

「はいはい、わかりました」

 そんな僕に河合は生返事を返し、ポテトチップスの袋を豪快に開け、続いて僕の用意した紙コップにコーラを注いだ。

「まあ、気を取り直して、推理を始めますか」

 ポテトチップスの袋の開いた口は自分の方に向けているし、紙コップを二つ用意したにもかかわらず、自分の分だけしか注いでない…つまり、コーラとポテトチップスは(おのれ)のためだけに買ったのかコイツは…

「まずは、容疑者リストを書き出しますね」

 そう言うと、河合はカバンからルーズリーフ一枚とボールペン一本を取り出し、何やら書き始めた。



【容疑者リスト】

 ① 伊丹五月いたみ さつき

 二十歳。五条大学文学部所属。二回生。五条大学自主映画制作サークルに所属。

 ・山本さんとの関係:同じ学部。サークルの同期。友達(?)。惚れてる(?)。

 ・私の中のイメージ:映画オタク、ひ弱、女子が苦手そう(私除く)。

 ② 東条勝とうじょう まさる

 十九歳。五条大学法学部所属。二回生。五条大学自主映画制作サークル副会長。

 ・山本さんとの関係:サークルの同期。そこまで仲良くなかった(?)

 ・私の中のイメージ:皮肉屋、巨乳が好きそう。(私の事あんまり好きじゃないっぽいので)

 ③ 沢村一夫さわむら かずお

 二十一歳。五条大学経済学部所属。三回生。五条大学自主映画制作サークル会長。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。元カレ。山本さんのことが今でも好きで彼女が死んだことを未だ引きずっている(?)。

 ・私の中のイメージ:筋肉マッチョ、ゴリラ、風俗狂い。

 ④ いちじょう れい

 三回生。五条大学自主映画制作サークルに一応所属の幽霊部員。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。



「まあ、こんな感じですかね。一部は上映会の後、山本さんの写真を見た後の皆さんの反応から考えました」

「何か、河合目線からの悪口書かれてないか、みんな…ってか一条先輩のところ情報ガバガバ過ぎるだろ!僕が書くよ…」



 ⑤ 一条いちじょう れい

 三回生。五条大学自主映画制作サークルに一応所属の幽霊部員。二十一歳。五条大学文学部所属。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。そんなに仲良くなかった覚えが。

 ・僕の中のイメージ:口数が少ない。素朴な感じ。真面目。後輩に優しい。



「やっぱり、伊丹先輩の字は達筆だ!」

 ニヒヒとホラーの児童書の表紙にいるお化けみたいな不気味な笑みを浮かべて河合はそう言った。

「うるさいな!」

「ふーむ、一番怪しいのはやっぱり④の一条さんですね…」

「まあ、そうなるな…」

「そういや、山本さんの死因は結局何だったんですか?自殺としか聞いて無かったので…」

「うーん、言いづらいんだけど…これ僕が言ったって誰にも言うなよ…」

「私、口は堅いんで大丈夫ですよ!」

「信用できないんだよな…いまいち。河合は。まあ、言うけども。死因は投身自殺だよ…自宅マンションの屋上から落ちて…遺書も見つかっている」

「遺書…どんな?」

「それが遺書の内容は遺族にしか知らされてなくてさ…当時の彼氏だった沢村会長さえ教えてもらえなかったんだ。だから皆、山本さんの死に関して心の底ではまだ煮え切らない思いがあって、サークルで山本さんの話題は禁句なんだ…」

「沢村会長は今、彼女いらっしゃらないですよね…山本さんが亡くなられてからずっとなんですか?」

「まあ、そうなるな…ってかこの沢村会長の欄にある風俗狂いってなんだ?」

「半年前くらいに新入生歓迎会ってあったじゃないですか?あの時、居酒屋で私、沢村会長の前に座ってたんですよ。私はソフトドリンクを飲んでいたんですが、沢村会長はもう酔いに酔いまくってて、もうセクハラまがいの発言ばかりだったんです」

「よく、そんな人がサークルの会長している所に入ったな…」

「まあ、私は映画が好きで映画を撮りたかったので、この大学で唯一の自主映画制作サークルであるここに入らざるを得なかったんですよね。今は女優ばかりやってますが、来年こそは先輩達のノウハウを盗んで作品を撮りますよ」

 そう言いながら、河合はまた、両手でガッツポーズをしていた。そのポーズが好きなのだろうか。

「なるほど…」

「それはまあいいんです。その席で沢村会長は、月二回も自宅にデリヘル嬢を呼んでいることをわざわざ言ってきたんですよ。私に!!まだ大学入りたての、未成年の、うら若き乙女に!!」

「まじか…月二回も呼んでいるのか…」

 僕は驚いた。そんな話は今の今まで知らなかった。もしかしたら、山本さんが亡くなってからの寂しさを埋めるためなのかもしれないが…

「まあ、沢村会長がそういった店を利用するのは良いんですよ。個人の勝手ですし」

 ポテチを頬張りながら、河合がちょっと顔を赤らめながら言った。

「そうだな…」

 河合の喉からゴクリとコーラを飲む音が聞こえる。顔を仰向け、天井に視線をやってクイっとコップを上げて飲む、という酒飲みのサラリーマン顔負けの豪快な飲み方だ。

「ぷふぁー…やっぱりコンソメ味のポテチとコーラの組み合わせは最高だ。糖分で頭が冴えてきた気がします。よし、謎解きといきますね。それではまず…」

 そう呟き、河合は立ち上がり、僕が動画編集に使っているノートパソコンを持ってきた。棚の上の分かりやすい位置に置いていたから気づいたのだろうが、人の物に勝手に触れることに、こいつは、抵抗はないのか?

 河合はパソコンを開き、キーボードをカチャカチャと鳴らし始めた。そうしたら、河合の目に僕のパソコンのデスクトップ画面が反射しているのが見えた。おかしい…

「あれ?ロックをかけていたはずだけど…」

「先輩、パスワードが簡単すぎますよ。先輩の誕生日の後に先輩の学籍番号打ったら開きました!」

 僕は思わず怒りの声を叫びたくなったが、まあ、PC上には恥ずかしい動画とかは無いし、良いか…ここで止めたらこいつが帰るのがますます遅くなるだろうし…

 そう思い直した。

「あれ?先輩の動画が見つからないんですけど…」

「ああ、それは…貸してみて」

 僕は河合の横に座り、マウスを奪い、デスクトップにある雲のアイコンをダブルクリックした。僕は動画をオンラインストレージで保存しているのだ。

「ほらここにあるぞ…」

 僕はオンラインストレージ内の動画のあるフォルダまでたどり着き、河合に動画ファイルを見せた。

「”『殺し屋と死を望む少女』完成版”ってファイル名なんですね。うーんファイル名は前と変わってないんですよね?」

「そうだよ」

「ふーむ。ちょっと、貸してください」

 そう言うと河合は僕の手からマウスを奪い取って、画面上部にある”表示”タブを押して、”大アイコン”表示から”詳細”表示に変えた。

「先輩が動画をDVD-Rに焼いたのっていつですか?」

「最終確認が今日の二時くらいで、その後、作品が完成した安心感からか寝落ちしちゃって今朝五時に飛び起きてから焼いたな…」

「そうですか…じゃあ、やっぱり私の読みが当たってました」

 そう言いながら、河合は動画ファイルの横にある更新日時を指さしていた。

 そこには、"20xx/10/31 4:11"との記載があった。

 それは身に覚えのない更新記録だった。

「多分ですけど、何者かが、オンラインストレージサービス上の先輩のアカウントに不正ログインしたんです。そうしてから、先輩の動画ファイルを編集して、山本さんの写真を入れたんだと思います。そして、その編集した後のファイルを先輩のものと同じファイル名を使って上書きした…」

「なんでそんな七面倒なことを…」

「それはわかりませんね…先輩、先程の容疑者リストの中の誰かに恨まれたりとかは?」

「うーん、それは無いと思うけどな…あれ?ってか、僕のオンラインストレージ上の使用ストレージが増えてるんだが…」

 今朝の使用ストレージの数値は22.9GBだったはずが、今は23.0GBになっていた。

「オンラインストレージ内に犯人からの挑戦状でも入れられたのでは?容量的にだいたい写真五十枚くらいですね、それぐらいだと」

 僕はオンラインストレージのフォルダ一覧に戻り、最新のフォルダを表示するために”並べ替え”のタブの”日付時刻”と”降順”をクリックした。すると、一番上に知らないフォルダが出てきた。そのフォルダ名は”伊丹君へ”というものだった。僕は恐怖でマウスを持つ手を震わせながらも、そのフォルダをクリックした。そこには、僕の撮った映画のオフショットのあの写真とその他撮った覚えのある別のオフショットの写真…

 そして…山本さんのあられもない姿が映った写真が数十枚あった…それは…沢村会長と山本さんが交わっている写真だった。

 僕は吐き気を催し、立ち上がり、トイレに駆け入った。

「大丈夫ですか?先輩…」

 河合が吐いた直後の僕の肩を寄り添うように優しく触れてそう言った。さすがの河合もこの状況では顔色が悪くなっていた。

「誰が一体こんなことを…」

 と僕は弱々しい声でそう呟いた。



「どうですか、先輩落ち着きましたか?」

「はあ…なんとか…」

 まだ、気分が悪いが、どうにか心を落ち着かせて、ローテーブルに戻り、フォルダ内の写真を見る。

 僕の撮った写真以外は山本さんと沢村会長の様々な体位での性交中の写真だった。彼らの後ろに写っているのは確か沢村会長の部屋のベッドだ。

「これ、誰が送ってきたと思う?」

 河合に話を振った。河合は気分が悪くなっているようで少し俯いていた。

「ええっと…容疑者の内の沢村会長以外の二人ではないでしょうか…」

 確かに、いくら沢村会長がバカだからと言って、自分の裸体を送ってくるとは思えない。しかも元カノとの性交中のものをなんて…尚更だ。

「確かに普通に考えたらそうだよな…東条副会長か一条のどっちかか…」

「先輩のアカウントのパスワードはどんな感じのものだったんでしょうか?」

「ええっと…誕生日の次に自分の名前のアルファベットだったな…」

「セキュリティガバガバじゃないですか…はあ…じゃあどっちが犯人でもあり得ますね…」

 東条か一条のどっちかが知らぬ間に僕に恨みを持っていたのだろうか…思い当たる節が無い。

「先輩どうぞ…」

 河合がコーラを紙コップに注いで僕の前に置いた。

 先ほどの出来事から河合なりに僕に気にかけてくれているらしい。コーラを飲む。炭酸は抜けに抜けてただの砂糖水のようになっていた。

「うーん、なんで犯人は僕にこんな画像を送りつけてきたんだろう…」

「私思ったんですけど、犯人は私たちに何かを訴えてきているのではないかと思うんですよ、山本さんに関しての何かを…」

「そうか…それもあり得るな…ってか、そういや、この写真は画角的に第三者が撮っているっぽいな…AV撮影でもしてたのか…」

 そう言った時、河合が口を開け、何か思いついた表情をした。

「撮影…そうか。先輩、去年、沢村会長が撮っていた作品ってどんな内容だったんですか?」

「えっ、高校生カップルの青春ものだけど…」

「はあ…ふむ…やっぱり、そういうことか…」

 何かに納得したように、河合はそう呟き、顔を曇らせ始めた。

「先輩、多分なんですけど…この写真は全部濡れ場の撮影中のものだったんじゃないんですか?」

 僕は驚いた。濡れ場なんて僕達スタッフに渡された脚本には無かったはず…

 しかも、それならなんで写真なんだ…

「写真なのはおそらく、山本さんに…動画をその場で消すように言われて彼女の見ている前で消したんじゃないかと思います。しかし、その動画の一部は彼女には秘密裏にカメラの動画から静止画を切り出す機能を使って、写真として残されていたんですね、おそらく。サークルで持っているカメラなら、無線LANに繋げたら指定のオンラインストレージサービスに保存する機能があるカメラもあるので、その機能だけ使って、写真だけを隠れてそこに送っていたのかも…」

 河合が僕の心の中を読み取ったかのようにそう言った。

「何で山本さんの指示で動画を消したって予想できるんだ?」

「先輩気づかなかったんですか?どの写真も山本さん、目に涙を浮かべていますよ…」

 僕はフォルダ内の写真の山本さんの顔を全て拡大して見た。最初見たときは気づかなかったが、確かに河合が言うように、彼女の目元には雫が浮かんでいた。

「さっきも言った通り、沢村会長は容疑者から外しますね」

 そう言いながら河合はボールペンで沢村会長の部分を何度もぐちゃぐちゃに塗りつぶした。黒い雲のようなものがそこには出来上がった。よっぽどさっきの写真が頭に来たのだろう。劇物を見て記憶を消せないことに対する怒りがその動きからは読み取れた。

 僕はその様子を見た後、セクハラ行為になるかもしれないが、河合に写真を見たときの胸の内を語った。誰かに語らないと何かが壊れそうな気がしたのだ。

「知り合い同士の性交シーンって初めて見たんだけど、エロさより嫌悪感が沸き立つんだな…僕が経験無いからなのかもしれんが…」

「えっ先輩ドーテーなんですか!!?」

 河合は驚いている様子だった。少しして続けてこう言った。

「はあ、だからこんだけ私が近くにいても襲ってこないんだ」

 河合は表情を変え、にやけ顔になっていた。顔が近い。

「それとこれとは違うよ…河合は僕のタイプじゃないんだ…」

 河合の顔から逃れてそう言った。

「そういや、先輩って私以外の女子とあんまりしゃべりませんよね。じゃあ、私は親友みたいなポジションってことですか」

「そ…そうだ、多分…」

「へえ…」

「僕の話はもういいから!それより容疑者は二人に絞られたわけだから、推理してくれよ…」

「いや、まず先輩の推理から私は聞きたいです。だって、私、一条先輩のことは全然知らないんで。沢村会長が撮った映画のこともよく知らないし」

「まじか…」

 僕は気が乗らないが、確かに彼女の言う通りなので、先に推理をすることにした。推理材料はいっぱいあるし。

 そして、十数分間思考を巡らせた僕は推理を始めた。

 僕の下宿で僕と彼女の推理合戦が始まったのである。

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