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1フレームに映る君、  作者: 村田鉄則
1.上映会での事件

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3/12

浮かぶ謎と空気の読めない後輩

 僕は居ても立っても居られなくなり、すぐさま、上映会で流したDVD-Rをケースから取り出し、教卓裏の再生機に入れ、教室の電気を全て消した。その際、教室前方入り口の覗き窓から北野や河合、沢村会長、東条副会長などといったサークル員数名が(いぶか)しげな目で僕の方を見ていることに気付いた。なので、僕は入口のドアに駆け寄り、ドアを開け大声で彼らに呼びかけた。

「すいません!!少し確かめたいことがあって、少しの間だけ待っててください!!」

 僕のただならぬ様子に気圧(けお)されてか、皆の内、誰も僕に、返事をしなかった。少し引いているようにさえ感じた。

 僕は、即時に席に戻り、早送りボタンを使って、浜大津さんが言っていた例のシーンまで映画を飛ばした。編集の際、面倒くさくてチャプター分割していないからそうするしかなかったのだ。

 いよいよか…

 喉に唾が落ちる感覚がする。額に汗もたれてきた。

 少女が駅に戻るところで、一時停止をし、コマ送りを始める。

 一フレーム…二フレーム進めていき、次に三フレームまで進めると…

 そこには、謎の少女…いや、謎の少女だった少女の一枚の写真が映っていた。

 それは、見覚えのある写真だった。

 それもそのはず、それは僕が撮った写真で…

 山本(やまもと)凛子(りんこ)…僕の同期であり…去年、自宅前で亡くなったのが発見された…彼女のものだったのだ。


「お前何やってんだよ。早く部屋片づけないと帰るのが遅くなるぞ」

 沢村会長の声で僕は我に返った。いつの間にか教室の電気が点いていた。

 彼女の写真を見つけてからの記憶が無い。

「…あれ?これって山本の写真じゃねえか…」

 沢村会長は声を強張(こわば)らせながらそう言った。

 この不自然に一フレームだけに差し込まれた山本凛子の写真を見て、浜大津さんは、急に謎の少女が出てきたと勘違いしたのだろう。

 山本の写真は所謂(いわゆる)オフショットというやつだ。制服姿で、右手でピースをして、左手でソフトクリームを食べている、自然な笑みを顔に浮かべた彼女の様子が写っている。

 これは、学園ものの映画を去年、現会長である三回生の沢村会長が撮っていて、その時、僕が撮影の休憩時間の間に撮った写真だ。

「山本さんって誰なんですか?」

 いつの間にか僕のすぐ傍にいた河合萌(かわいもえ)が不意に声を出した。東条副会長が河合に向かって話す。

「僕らの同期だよ。確か伊丹と仲良かったはず。なあ?」

 話しかけられたので、どうにか声を絞り出す。

「…ぼ…僕は同じ学部だったんで…確かに必修授業でよく会ってたし、会ったら少しぐらい話す程度の仲…ではあったよ…」

「へえー」

 河合はいつも通り作ったような可愛い響きの声でそう返した。彼女の映画での演技が非常に上手いので、最近では日常生活でも演技をしているのではないかと思ってしまっている。

「ってかよ、伊丹、なんでこんな写真をスクリーンに映してんだよ」

 沢村会長は眉を吊り上げながら、そう言った

 怒るのも無理はない。山本凛子は沢村会長の彼女だったのだ。サークルのグループチャットで彼女の兄が彼女のアカウントを使って彼女が遺書を残して死んだと僕達に知らせたあの日、一番泣いていたのは僕だったのだが…

「実は…」

 僕は事の経緯を皆に話した。皆一同驚いている様子だった。僕の話を聞き終わり最初に声を出したのは河合だった。

「意図しない演出が加えられていた…ってことは、それを行った犯人がいるってことですよね?」

「私、ミステリ小説とか好きなんでワクワクしてきました!続きが気になる!」

 両手でガッツポーズを作り、『待ってました!』と言わんばかりの喜びと期待に溢れた表情を顔に浮かべた河合の様子に…周りは皆ドン引きしていた。空気が読めないにも程がある。

 かと思えば、彼女は急に真顔になり、こう続けた。

「そういえば…山本さんはどうして自殺を?」

 彼女のその言葉が発されるやいなや、教室中が張り詰めた空気に満たされた。



「山本のことは、今はいいだろ!なんでこんな写真が伊丹の映画に挟まれていたかが今は重要だ」

 と河合と北野、その他一回性以外の皆が黙り表情を固めている重い雰囲気の中、沢村会長が最初に切り出した。

「まあ、そうですね。伊丹さん、このDVDは確かにあなたがデータを焼いたものだったんですか?」

 顎に手をやり、河合が僕を、目を細めてじっと眺めて、そう疑問を投げかけた。その姿はまるで推理ドラマの探偵のようだった。

「さっき再生機に入れるときにも見えたけど、確かに僕がDVD-Rの上からペンでタイトルを書いたものだったよ。僕の字は独特なので見間違いはしないし…」

「確かに先輩の字は達筆ですもんね!」

 河合は少し口角を上げてウグイス嬢のような高く抑揚のある声でそう言った。ちょっと腹が立つ。

 河合は教室前方のホワイトボードの前まで踊るように歩いていった。そして、僕たちの方を見た。講義でも始めるというのだろうか。

「なら、先輩がDVDに焼く前の動画のデータ自体に、何者かの手が加えられた可能性が高いですね。」

「だって…編集した後に見返した際は動画のデータは変わってなかったんですよね?」と河合。

「それはさっきも言った通りそうだよ…」と僕。

 前述の通り、編集した後は何度も確認したので、絶対にあんなミスは有り得ない。

「あの写真は誰でも持っているものだったんですか?」

「うーん、僕が持っていたのは確かだけど、他の人はわからない…いや、待てよ。あの写真は映画撮影用のグループチャットでも送ったような…」

「なるほど。じゃあ、そのグループチャットに入っていた人なら誰でも写真を入手できたわけですね」

「そうだね…」

 確か、オフショットの写真をサークルの公式SNSアカウント上で公開しようという話になったのだった。しかし、結局、山本さんが自分の女子高生姿を公衆の面前で見せるのを恥ずかしがって無くなった。

「ってことは、そのグループチャットにいたメンバーに犯人がいる可能性が高いわけですね!」

 右手の人差し指を顔先に立てて、ドヤ顔で河合はそう言った。探偵気取りにも程がある。

「いやけどよ、あのグループチャットのメンバーで残っている奴ってこのサークルで四人だけだぜ…その内一人は幽霊部員だしよ…」

 沢村会長が、眉を顰めながら、話に入ってきた。この話が続いて帰りが遅くなるのが嫌なのだろう。後、自分の死んだ元カノの話を延々とされているのが気に食わないのかもしれない。

「その四人とは誰なんですか?」

 河合が質問した。

「ええっと…監督の俺と副会長の東条と後、伊丹、そして…あいつ名前何だっけ?」

一条戻(いちじょうれい)ですよ。まだ一応サークル費払ってるんですから、覚えといてくださいよ」

 と会長にツッコミを入れたのは東条副会長だった。

「いやだってよぉ~アイツ、三回生のくせに、サークルの総会にも参加しないし、役職に就くのも拒否しやがってよ。なのによ、サークルの機材だけは一丁前に借りて一人で野鳥とか撮ってよ~めんどくせーんだよ」

「その人が怪しいですね」

 真剣な表情を浮かべた河合がそう呟くと…

「ちょっとまだ残ってたんですか!」

 教室前方のドアから学園祭実行委員が怒声をあげて駆け現れて、この話は打ち切りとなった。僕らは一斉に教室を爆速で掃除して、結局そのまま解散した。 

 掃除中も解散するときも、誰も先程の話について触れる者はいなかった。明日も学園祭があるので、皆早く家に帰りたいのもあるし、また、ただただ映画に写真のデータが挟まっていただけなので大騒ぎすることも無いと考えたのだろう。

 僕は一人、頭に靄を抱えながら、帰路についた。


 イタズラにしても、自死した山本さんを使うのは何か意図があってやっているとしか考えられない…しかし…何のために…

 視線を道路にやり、そんな風に考え事をして歩いていると、後ろから突然声がした。

「先輩!」

 振り向くと、満面の笑みを浮かべた河合萌が手を振りながら立っていた。いつの間に買ったのだろうか、2Lペットボトルのコーラと袋入りのポテトチップスコンソメ味(大容量)が入ったレジ袋を肘にぶら下げていた。

 河合は、飼い主が家に帰ってきた時の犬のように、僕の許に駆け寄ってきて、こう元気のこもった声で呼びかけた。

「今から謎を解きましょう!」

一フレーム

 一フレームは映像の最小単位で、一個の画像のこと。一コマともいう。この画像が幾枚も連なることで動画は生まれる。映画の場合1秒間に24コマの場合が多く1フレームは1/24秒が多い。


コマ送り

 一フレーム(=一コマ)ずつ進めること。DVD再生機のリモコンや動画再生ソフトにおいて、コマ送りボタンがある場合がある。

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